S.D.R
文字数 1,679文字
「また会えてうれしいです」
性被害に遭った者同士なルミちゃんと再会を果たした。
8月に入り、9月に出す2ndシングルのレコーディングを終え余裕のできた笑可が彼女に誘いをかけたのだった。
そこに悲劇が待つことを知らずに。
「久しぶりに笑可さんに会えてよかった。もう客席でしか見れない存在になったと思ったから」
「何を言ってるの。私たち親友じゃない」
「辛いことがあるとリスカしちゃうんです。夢に加害者が出てきた時とか。
生きてるのが辛くて」
ルミの心象を想像出来ていれば。
今思うとそう悔やんで仕方ない。
「ルミちゃんが元気になってくれるなら何でもするよ」
「消えたい私に新曲を歌ってくれますか」
そう言われ、ルミの弟の持っているギターでクリーントーンでキーC#の歌を歌っていく。
花が咲いている
色とりどりの
色鮮やかなそれで
心を満たしたなら
目指せる何かが
あるはずだから
そっと目を開いて
この世界は醜いばかりじゃない
一生懸命笑可は歌った。
安心して、色々他愛のない話をしてルミと別れたその日の午後11時。
動揺した笑可からLINE通話がかかってきた。
「どうしよう……。ルミちゃん死んじゃった」
笑可がなるべく冷静に話した内容はこうだった。
あの後、ルミは家族の目がないことをいいことに自宅浴室でドアノブに縄をかけて首を吊ったらしかった。
発見された時にはもう遅く、ルミは息絶えていた。
彼女が最期に笑可に送ったLINEは今日笑可が歌った歌をなぞる歌声と、衝撃的なメッセージだった。
『実は父親からもずっと性加害を受けていて、ほぼ毎日父親に身体を弄ばれるのに嫌気がさしました。先に逝きます。
来世はウグイスにでもなりたい。
笑可さんは死なないでずっと音楽を創り続けてください。
さよなら』
笑可が気がかりでボクは夜中の道をかけ走った。
こんなことって、あるかよ!
笑可の家にたどり着き、彼女の部屋に面したガラス戸を叩くと「ふふ。豹馬。ごめんね、私も後を追うことにしたんだ」と言い始めた。
話を聞くと、ルミの死がショックな彼女は市販薬300錠と睡眠薬50錠をODしたみたいだった。
もちろん、慌てて救急車を呼ぶ。
笑可の話だと2時間は経過してるらしいから、胃洗浄は間に合わないか。
「何でそんなことしようと思ったんだ!」
ボクが真っ白な顔の笑可を問いただすと、彼女は静かな声で「だって、結局私の歌は彼女を……救えなかった」とこぼした。
ボクは笑可を抱きしめながら「んな訳ねえよ。笑可の歌は色んな人に届いてる。ルミちゃんにも届いてたはずだ。
彼女が死を選んだのはキミのせいじゃない」と強く説得した。
「でも……でもね、私もうどうしたらいいのかわからなくなって薬いっぱい飲んじゃった。
自分を壊したくなって。もうイヤになったんだ」
こんなに打ちひしがれている笑可を見るのは初めてだった。
まだ自分の性被害の犯人が残した捨て台詞のようなニュース記事(週刊誌発祥)の傷すら癒えてないのに、そこに自分の初期のファンの自死が重なったらズタボロになるよな。
「どこですか!? 救急搬送の方は」
「わ、私です」
ゆっくり立ち上がろうとするが、ふらつく笑可。
彼女は担架に乗せられ、救急車へ入っていく。
一緒に救急車に乗り、睡眠薬が今頃効いてきたのか朦朧(もうろう)とする笑可の手を握る。
隊員たちに率直に彼女の症状を話す。
ルミちゃんの自死についても、うっかりしゃべってしまった。
隊員たちは「親友の子の死がショックだったんだね」と言った。
「この子は今音楽で有名になってきてる笑可ちゃんじゃないか」
男性隊員が反応する。
「これから彼女どうなるんですかね」
「もしかすると、親御さんが精神病院に入れるかもな。その方がいいかもしれない。これは僕の個人的意見だけど。
大量服薬できない環境におくことも、今は音楽をいったん休止することも大切かと。
カノジョが君たちのファンなんだ」
こんなことになるなんて。
ルミと会わせなかった方が良かったのだろうか。
それともルミは最初から笑可に会って、最期を決めるつもりだったんだろうか……
夜中の住宅街に響き渡るサイレンと隊員たちの励ましがBGMだった。
性被害に遭った者同士なルミちゃんと再会を果たした。
8月に入り、9月に出す2ndシングルのレコーディングを終え余裕のできた笑可が彼女に誘いをかけたのだった。
そこに悲劇が待つことを知らずに。
「久しぶりに笑可さんに会えてよかった。もう客席でしか見れない存在になったと思ったから」
「何を言ってるの。私たち親友じゃない」
「辛いことがあるとリスカしちゃうんです。夢に加害者が出てきた時とか。
生きてるのが辛くて」
ルミの心象を想像出来ていれば。
今思うとそう悔やんで仕方ない。
「ルミちゃんが元気になってくれるなら何でもするよ」
「消えたい私に新曲を歌ってくれますか」
そう言われ、ルミの弟の持っているギターでクリーントーンでキーC#の歌を歌っていく。
花が咲いている
色とりどりの
色鮮やかなそれで
心を満たしたなら
目指せる何かが
あるはずだから
そっと目を開いて
この世界は醜いばかりじゃない
一生懸命笑可は歌った。
安心して、色々他愛のない話をしてルミと別れたその日の午後11時。
動揺した笑可からLINE通話がかかってきた。
「どうしよう……。ルミちゃん死んじゃった」
笑可がなるべく冷静に話した内容はこうだった。
あの後、ルミは家族の目がないことをいいことに自宅浴室でドアノブに縄をかけて首を吊ったらしかった。
発見された時にはもう遅く、ルミは息絶えていた。
彼女が最期に笑可に送ったLINEは今日笑可が歌った歌をなぞる歌声と、衝撃的なメッセージだった。
『実は父親からもずっと性加害を受けていて、ほぼ毎日父親に身体を弄ばれるのに嫌気がさしました。先に逝きます。
来世はウグイスにでもなりたい。
笑可さんは死なないでずっと音楽を創り続けてください。
さよなら』
笑可が気がかりでボクは夜中の道をかけ走った。
こんなことって、あるかよ!
笑可の家にたどり着き、彼女の部屋に面したガラス戸を叩くと「ふふ。豹馬。ごめんね、私も後を追うことにしたんだ」と言い始めた。
話を聞くと、ルミの死がショックな彼女は市販薬300錠と睡眠薬50錠をODしたみたいだった。
もちろん、慌てて救急車を呼ぶ。
笑可の話だと2時間は経過してるらしいから、胃洗浄は間に合わないか。
「何でそんなことしようと思ったんだ!」
ボクが真っ白な顔の笑可を問いただすと、彼女は静かな声で「だって、結局私の歌は彼女を……救えなかった」とこぼした。
ボクは笑可を抱きしめながら「んな訳ねえよ。笑可の歌は色んな人に届いてる。ルミちゃんにも届いてたはずだ。
彼女が死を選んだのはキミのせいじゃない」と強く説得した。
「でも……でもね、私もうどうしたらいいのかわからなくなって薬いっぱい飲んじゃった。
自分を壊したくなって。もうイヤになったんだ」
こんなに打ちひしがれている笑可を見るのは初めてだった。
まだ自分の性被害の犯人が残した捨て台詞のようなニュース記事(週刊誌発祥)の傷すら癒えてないのに、そこに自分の初期のファンの自死が重なったらズタボロになるよな。
「どこですか!? 救急搬送の方は」
「わ、私です」
ゆっくり立ち上がろうとするが、ふらつく笑可。
彼女は担架に乗せられ、救急車へ入っていく。
一緒に救急車に乗り、睡眠薬が今頃効いてきたのか朦朧(もうろう)とする笑可の手を握る。
隊員たちに率直に彼女の症状を話す。
ルミちゃんの自死についても、うっかりしゃべってしまった。
隊員たちは「親友の子の死がショックだったんだね」と言った。
「この子は今音楽で有名になってきてる笑可ちゃんじゃないか」
男性隊員が反応する。
「これから彼女どうなるんですかね」
「もしかすると、親御さんが精神病院に入れるかもな。その方がいいかもしれない。これは僕の個人的意見だけど。
大量服薬できない環境におくことも、今は音楽をいったん休止することも大切かと。
カノジョが君たちのファンなんだ」
こんなことになるなんて。
ルミと会わせなかった方が良かったのだろうか。
それともルミは最初から笑可に会って、最期を決めるつもりだったんだろうか……
夜中の住宅街に響き渡るサイレンと隊員たちの励ましがBGMだった。