第11話 五稜郭、赤レンガ倉庫、ラーメン

文字数 2,426文字

 五稜郭は、旧名(きゅうめい)箱館(はこだて)を治めるために徳川幕府が設置した「箱館(はこだて)奉行(ぶぎょう)」のために(あと)から造られた要塞。
 その()榎本武揚が五稜郭を占拠して、政府の征討軍との箱館戦争に敗れ、幕末維新の動乱の終結地となった、そうな。

 五稜郭の(そば)にそびえ立つ五稜郭タワーの、地上90メートルの展望台へエレベーターで昇ると、五稜郭の詳細な歴史がぐるっと一周描かれている。雨は降り続けているけれど、展望台からはハッキリと函館の街を360度見渡すことが出来た。関係ないけど、2基のエレベーターには案内係が常駐していて、ずっと昇り降りを続けている様子だった。大変だなぁ。



 高所恐怖症なので、真下を見ると足がすくむ。五稜郭の全貌をパシャパシャとスマホのカメラで撮って、歴史の資料を読んだ。もちろん1回で覚えられるはずもなく。雰囲気は(つか)んだと思うけれども。
 平日だから遠足の学生が多かった。僕がその立場なら、雨の日の遠足なんて嫌だ、なんて運が悪いんだろうと(なげ)いたはずだ。今日の僕は案外寛容な気分で、雨の五稜郭ってのもまんざらでもなかった。直前に美味(うま)い飯を食べたからだろうか。



 タワーの展望台から()りて、折りたたみ傘を激しく濡らしながら五稜郭中央の奉行所(ぶぎょうしょ)へ向かい歩く。上から眺めると広大に見えた敷地も、歩いてみると予想よりも狭くて、木製の橋を通り抜け1、2分歩くとそこは奉行所だった。
 相変わらず僕はビショビショなので、建物の中を見学するのはやめておいた。

 五稜郭観光を終え、次は海に隣接する金森赤レンガ倉庫を目指す。
 函館市街では道路にレールが埋設されていて、その上を、函館の土地を左右にぶった切るかのようなルートで市電が(とお)っている。全国の交通系ICカードが使えるそうだから、市電でゆるっと赤レンガ倉庫近くの駅まで揺られることにした。

 市電は道路が赤信号なら停まる。明らかに乗客は地元の人たちみたいだから、きっとバスよりは安いとか、その区間をバスが走っていないとか、その辺がメリットなんだろうな。よく分からないけど。
 ひと駅ごとにかわるがわる地元の多分有名な人たちが次の駅名のアナウンスボイスを担当していた。これは面白い、けれど知らない人たち。

 市電を降りて、まだまだ降りやまない雨で濡れた道を突っ切って赤レンガ倉庫まで歩いた。レンガでできていると思われる建物が何棟もあって、それぞれに土産物や飲食店、パワーストーンを売る店など様々な店舗が入っている。
 ぐるっとひと周りしてフンフン、なるほどねと納得、理解。ここはひとりで来るところじゃなさそうだ。そろそろ雨が落ち着かないかなぁと、チョコバナナクレープをいただいて時間を潰した。



 ようやく小雨に変わり、海を眺め潮の匂いを嗅ぎながら函館駅近くのホテルまで。ホテルに着いた瞬間、雨はピタリとやんだ。とりあえず意味なく空を(にら)んでおいた。今からロープウェイに行ってもいいけれど、気分はすでにホテルの露天温泉付き大浴場に向いていた。

 チェックインして、ササッと大浴場で汗を流し風呂を楽しむ。サウナもあったが、窓から中を見たら狭いところで(みな)さんがぎゅうぎゅう詰めになっていて軽く悲鳴を上げてしまった。何も見なかったことにして露天風呂に入り、歩き疲れた身体を癒す。

 すっかり忘れていたこと、夕食はどこで?
 せっかくさっぱりしたのに、もう一度服を来て市街を散策することになった。函館駅から前方へ伸びる大きな道路沿いにはたくさんの飲食店が並んでいて、ほとんどが17時から()いていた。つまりは選択肢が多くて迷うということで。
 10分ほどウロウロ、小さなラーメン屋を発見した。ラーメン、アリだな。

 引き戸と思ったら引き戸はすでに()いていて網戸(あみど)だった。取っ掛かりがなくどうやって()けたもんかと悩んでいたら、客? 店員? 謎の人物が()けてくれた。

「いらっしゃい、どうぞ」

 カウンターに座る。小さい店と思ったら縦長で、奥には座敷やテーブルがたくさんあった。店の人は2人なのに、全ての席に客が入ったらどうするんだろう。
 僕はこの旅行中にザンギを食べていない。メニューには無いけれど、実は提供していたりしないだろうか。

「……ザンギってありますか?」
「ウチはザンギないです。豚の唐揚げ、味しっかりついたやつ、(とり)は蒸し鶏ならあります」
「Oh……。えっと、ネギみそチャーシューめん、お願いします」

 ラーメンを食べてまだお腹に余裕があれば、豚の唐揚げも頼もう。そう思って店内のメニューやら掲示を眺めると、大辛とスーパー大辛という文字を見つけた。

「大辛ってどれくらいの辛さですか?」
「大辛はねぇ、うーん、辛さの表現は難しいね。結構、辛いよ」

 そう……。どうせ汗かきついでだから、大辛にしようかなと考えてみたけれど、翌日は長く新幹線に乗ることになるから、お腹のことを想ってやめておいた。
 そして注文したネギみそチャーシューめんが目の前に。ああっ、食べ切れるだろうか。まず(うつわ)がデカい。チャーシューもデカいし(めん)の量も多い。大きな器に満タンのみそラーメン。



 とりあえず、もやしに手をつける。もやしも多いな。次にワカメ。具材をどかすと、麺の全貌が(あらわ)れ、その量に背中から汗がどっと噴き出る。そういえばこのお店はエアコンがついていない。
 味は当たり前のようにウマい。大きなチャーシューを頬張ると、やっぱり肉っていいですよねという感じで豚らしさを主張してくる。それが4つもあるんだから、これはもう唐揚げなんて余裕は残らないだろう。
 汗をかきながら一生懸命に箸を動かし、具材を口へ運ぶ。あっつ、うっま、あっつ、うっまと反復しているうちに、どうにか汁以外はいただくことが出来た。汁は多過ぎて、全てを飲み干すわけにもいかず。

「ごちそうさまでした、おいしかったです」

 ちゃんとごちそうさま、言えたじゃねぇか。
 ホテルに戻ってシャワーを浴び、雑文を書いて20時就寝。6時に設定したアラームが鳴るまで爆睡してしまった。
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