第25話 長野 善光寺と県立美術館へ

文字数 1,824文字

 朝食バイキングの前に、もう一度大浴場へ。今は朝5時半。
 既に数名が風呂に入っていた。いやいや5時半だぞぅ?

 (みんな)考えることは同じなのねと勝手にウンウン(うなず)きながら、身体を洗いサウナ、水風呂、休憩を2回。シャンとしてさらに腹もちゃんと空いた状態でバイキング会場に乗り込む。



 イクラとサーモンのちらし寿司や、牛丼、天ぷら、長野の名物を揃えましたと銘打たれた小皿の数々。さらに生ハム、なめこの味噌汁、団子など、これなら文句ないでしょうと主張するかのような強力なラインナップ。食事のお供はコーヒーと長野の牛乳。
 腹を減らしてきた甲斐があったでごわす。過去イチたくさん食べてフィニッシュ。

 部屋に戻って、準備をして出発する。今日は長野市、善光寺へ参るのだ。

 快速で松本駅から長野駅へ移動。新幹線の通っている駅なだけあって、長野駅は広くて色んな店がくっついていた。それは後で見るとして、そのまま善光寺へ向かい歩き始める。1本道で分かりやすく、周りを観ながらゆっくり足を進めていると、30分程度でもう善光寺の入り口だった。



 一生に一度は参れと言われる寺で、本堂だけでなく玄関口である仁王門(におうもん)も、仲見世通りを過ぎたところの山門(さんもん)も、その大きさに驚かされる。写真で見ると「ああ、大きいんだろうな」という感じだったのが、実際は「ウソだろ……」という感じ。やはりスケールとか風情というものは、実物を確かめないと分からないのだ。特に仁王像である阿形と吽形は大迫力で、なんだか僕の中にある様々な過去の罪が凝視されているような気がした。



 本堂の中もとんでもなく広くて豪華絢爛、その立派な佇まいにビックリするばかりで願い事をし忘れたくらいだ。だから代わりに閻魔ダルマという厄除けのお守りを頂いた。小さいけど手書きのダルマで、全部見比べて一番凛々しい眉毛のものを選んだ。これで厄除けは完璧です。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 善光寺からそれほど遠くない城山公園内に、県立美術館がある。僕は東山魁夷の絵が大好きで、ここの東山魁夷館を訪れたいと思っていた。他にもイベントでデモクラートの版画の展示があったので、全部鑑賞して回れるチケットを買った。



 デモクラートはデモクラシーとアートからなる造語。1950年代、自由な芸術を追求するために当時の美術界への反骨精神から結成された団体、らしい。
 この展示が思ったよりも面白くて、気付けば1時間半ほどじっくりと観ていた。1950年代なのに、瑞々しさを感じてしまった。その当時の現代美術として、新しい表現を模索していたことが良く分かる。作家の精神世界を表現するためのルールなんかないんだって、それぞれの版画や絵画から激しい主張が飛び出してくるように感じたのだ。

 その(ほか)にもいくつかの現代アート作品を眺め、東山魁夷館へ。
 うーん、やっぱりスゴイ。色をそれほど変えることなく独特な技法で遠近感を表現していたり、近付いて観た時と離れて観た時で全然印象が違ったり、代名詞のような水面(みなも)の表現も繊細で丁寧だ。とにかく観てて飽きない。特に、写真じゃなく実物で油絵の筆のタッチが分かるため、なおさらいつまでもじっくり観ていたくなる。

 だが僕は15時の電車に乗らなければならないし、まだこの(あと)、城山動物園にも行きたい。後ろ髪をひかれながら美術館を出た。



 動物園は無料で入園出来る。小さいけれどサルやペンギンもいる。サルは博多の動物園のサルよりも元気はつらつだった。多分気候のせいだろう。



 ペンギンも元気に写真撮影に応じてくれた。アザラシにはやんわり無視された。時間のこともあるし、チャチャっと見学して人類は去るのであった。



 駅にある蕎麦(そば)屋で長野の蕎麦を食べる。長野といえば蕎麦、昨日のことは忘れた。
 とろろ蕎麦に海老天丼。そば湯もいただき、水だと思ったグラスの中身はそば茶でビックリする。やっぱり昨日のことは忘れた。あらためて、長野の信州蕎麦は美味(うま)い! 天丼もサクサク、海老はプリプリで最高だ!

 午後はバタバタしたけれど、15時の電車に乗って長野を離れた。
 車内アナウンスがあり、「姨捨駅(おばすてえき)付近から望む棚田と善光寺平は日本三大車景と言われています」とのこと。ちょうど左側の窓際に座っていた僕は、その美しい車景を観ることが出来た。なんだか得した気分だ。善光寺へ参った御利益(ごりやく)が既に発動しているのではないだろうか。

 こうして、12度の水風呂に入るための長野1泊2日旅は終わりましたとさ。
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