第39話 四国旅の終わり

文字数 1,620文字



 鳴門(なると)海峡にかかる大鳴門橋の下を、観潮船は通過する。船といっても座席(シート)付きのボートで、(みんな)シートには座らず立ってカメラを構えていた。



 瀬戸内海と太平洋側の紀伊水道がぶつかるこの場所で、波は大きくなる。大きな渦潮はタイミング次第で見られるが、僕が船に乗った時間は、小さな潮流が幾つも発生しているだけだった。
 これを渦潮と言えるかは分からないけど、他の場所に比べて明らかに波が荒く、まるで合戦場の如き荒々しさがあった。



 自然の不思議を体感して、観潮船を降り、大塚国際美術館前からバスに乗って徳島駅、そして宿泊するホテルまで歩くこと20分。

 四国の最後の夕食は、野菜が美味(うま)いとクチコミにあったこのホテルのバイキングだ。
 チェックイン後、すぐにフロントと同じ階の会場へ。

 サラダの種類が多くて取り過ぎた。トンカツがあったので、カレーに乗せてみた。さらにイカフライや唐揚げも乗せたらゴテゴテの揚げ物カレーになってしまった。
 予約時に生ビール券付きのプランを選んでいた。グラスに注がれた生ビールは、今日の一日を(ねぎら)うかのようにシュワシュワと僕を癒してくれた。
 このカレー、業務用じゃないヤツだ! ゴロッとした豚肉も入っていて、明らかに本気カレーである。

 美味い野菜と美味いカレー、ビールで四国最後の夜を締めて、ぐっすりと眠ることが出来た。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 朝食バイキングでも野菜とカレーを食べて、ホットコーヒーで目覚めたら、まずは近くの忌部(いんべ)神社を参拝する。石階段は高さが一定で(のぼ)りやすいものの、その段数が多くて、朝の行動20分にして滝汗状態になってしまう。
 (まい)り終わったら、阿波おどり会館で阿波おどり観覧とミュージアム、ロープウェイがパックになったチケットを購入。阿波おどりの公演までは1時間くらいあるから、まずはロープウェイで眉山(びさん)公園へ行く。
 眉の形に似ているから眉山だとか。



 標高200メートル強の山頂からは徳島の街並みが見渡せる。その先の海、紀伊水道や、大鳴門橋も見えた。
 野鳥がたくさんいて、大きな鳥から小さな鳥まで、聞き慣れぬ声の(さえず)りもたくさん。そして鳥たちが悠々と飛ぶ姿を眺める。



 ロープウェイで阿波おどり会館へ戻り、ミュージアムにて阿波おどりの歴史に触れた。踊りの激しさなどで政治や風紀によって何度も禁止されながら、それでも民衆の間で受け継がれ、現代まで踊られ続けている。発祥の一つの説として、徳島城の落成のお祝いで(みな)が踊ったことから、というのがあるらしい、です。

 阿波おどりの公演、平日昼なのに80人くらいの客が集まっていた。5割くらいの席が埋まっているわけで、おそらくそのほとんどが県外の人たちだ。外国人客もいた。

 最初は阿波おどりのショー、続いて説明があり、三味線、笛、鐘、小太鼓、大太鼓それぞれの独演があり、客も参加しての阿波おどりの基礎練習、そして(みんな)で踊り、最後の10分は激しいものも含めて阿波連による本気の阿波おどりショーだった。



 そういえば、阿波おどりは金刀比羅宮の例大祭でも見た。

 しまなみ海道から始まり、各地の城や博物館へ行った。雨の四万十川沿いを歩いた。例大祭では祭りの熱気も体感した。鬼ヶ島へも上陸した。坂本龍馬像の顔を真横から見れたし、アシカたちにエサをやってほっこりした。
 土地には歴史があり、引き継がれている文化がある。ちょこっとだけでもそれに触れると、その土地を幾分か知ったような気になる。深く知るには時間が足りないけれど、きっとこれが僕なりの旅ってやつなんだろう。

 阿波おどり会館を出て、徳島駅で南海フェリー乗り場行きのバスに乗った。



 そして今、和歌山港へ向かうフェリーの甲板でこの雑文を書いている。
 自転車で四国に上陸して、フェリーで四国を出るってなんだか少し面白い。顔を上げると、離れていく徳島が見える。

 僕は立ち上がり穏やかな海に向かい、四国へ別れの言葉を告げた。

 ってなわけで、四国旅は終わりですー。
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