第3話 ヤマミズノカミとハジマリノキミ (イ)

文字数 1,226文字

「ニンゲンが、近くまでミチを作っているよ」

3羽のコマドリノカミが訪ねてきて、森で起きていることを教えてくれた。

「ミチが出来たら、家が出来る。沢山ニンゲンが来るよ。」「くるよ」「よ」

2人で顔を合わせて、戸惑って悲しい顔をする。
長い長い年月を、僕らは平和に暮らしてきた。

「なんでこの場所なんだろう。」

「理由なんて、僕の小さい頭じゃわからないけどね。」「けどね。」「ね」
「カミシズメもしない」「大きな身体だし」「よそ者のようだよ」
「イタミビトなら」「死んでしまう」「しまう!」
「考えた方がいいよ。」「いいよ!」「いい!」
「カミノミズが」「しばらく飲めなくなるの」「残念だけど」
「急いだ方が」「いいよ!」「よ!」

コマドリノカミは、そう言って泉の水を飲むと飛んでいった。

「イタミビトか……」

「でも、カワズの卵が沢山あるんだ。
もう少し様子を見ようよ。」

「わかってるよ、わかってる。
でも、僕らが消えるともっと大変なことになる。」

移動すれば、一から始めなければならない。
すぐにカワズは住めないだろう。

「カミがいなくなったら、流れ水が途絶える。産み付けられた卵が死んでしまうよ。
もう少し待って、生まれて泳げるようになったら、下流のカワノキミに移動して貰うから。
それに、人間は僕らまでは手を出さないと思うんだ。」

「わかったよ、じゃあ僕は移動の準備に入る。
キミは少しずつ動ける魚を下流に逃がして。」

「ありがとう、ヤマミズノカミ。」

僕はハジマリノキミのお願いに、仕方なくうなずいた。
人間たちは、どんどん木を倒して山の奥深くまで開けた土地を作り、家を建て始める。
僕は勝手に泉から水の一部を取られ、ハジマリノキミへ渡す分が少なくなって行く。
キミは困った顔で、それでも笑ってキラキラと日の光を瞬かせながら、沢山のカエルに囲まれ、静かに変わらない暮らしを続けようとしていた。


ハジマリの僕は、近く移動するかもしれないことを、下流のシロハナノカワノキミに伝えた。
彼は他に2本のミズノカミと繋がりを持っているので、僕のように小さいカミが減っても影響は少ない。
この辺で一番水量の多い隣のミズノカミは若くて猛々しく、ハジマリノキミも傾斜がきつい所で沢山の水を流すのに大変そうだ。
そう考えると、僕のカミがここにしようと決めた所は、なだらかな平地で開けて水も穏やかに流すことが出来たので、彼は僕のことも考えてくれたのだろうと思う。
ハレニギノカミと呼ばれるほど、僕らのカワノハジマリは生き物にあふれ、神気の高い物になっていった。

「よそ者は礼儀を知らないから仕方ないね。」

「彼が一番嫌いなニンゲンなんだよ。」

「まあ、好きなカミなんていないさ。」

カワノキミは笑って、場所次第ではまた繋がればいいねと言ってくれた。

「キミたちハレニギノカミは神気の高いアラマホカミだから引く手数多だろうけど、いい土地が見つかるといいね」

「ありがとう」

僕は彼の言葉が嬉しくて、水遊びしている人間の子供たちを楽しく見つめていた。
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