第12話 ヨキヒト

文字数 1,484文字

ヤマは、思ったよりひどく崩れていて、ずいぶんと遠くまで土砂が流れている。
所々流れてきた木のカミがまだ生きてるのもあって、生きている木のカミからはカミが宿った種を預かった。

「崩れてない所の中腹ね。」
「わかったわ、私たちで手分けして」「落として行くから安心して眠って。」
「良かった……これで安心して眠れるよ……」

木のカミが、スウッと足下から消えて行く。
まだ沢山の木のカミが生きている。
僕らは手分けして、沢山の種を預かった。

「こんなに沢山、どうしよう。」

山盛りの種に、ちょっと途方に暮れていると、コマドリノカミが任せてと言う。

「あたしたちの鋭い美声はこのためにあるようなもんよ!」

「チョト!ピルルルルルルル!!」
「ミンナ!ピルルルルルルルル!!」
「キナサイヨ!ピルルルルルルルル!」
「タネマクノ!ピルルルルルルルル!」
「テツダッテ!ピルルルルルルルル!」

バサバサバサッ!!

バサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサバサ!!

ザザザザザ!!ザザザザザ!ザザザザザ!

ヤマから沢山の小鳥が飛んできて、僕らの上をグルグル回る。

「種蒔くの手伝ってちょうだい!
あたしたちの仕事よ!」

ジージージー!ピルルルル!

ザザザザザ!!

「みんな!山の中腹よ!お願いね!」

ジャッジャッジャッ!ピピピピピ!

沢山の鳥のカミたちが種をついばみ、そしてヤマに帰って行く。

「ねえ!あたしたち」
「ハジマリノキミと」
「ヤマミズノカミさがしてんの!」

「何か知りませんか?」

心当たりありそうな数羽が、クロさんの頭に止まった。

「そう言えばキネズミノカミ(リス)が、珍しい石見つけたって自慢してたわ。」

「イシ??なんだろう。」
「どこに住んでるカミ?」「名前はわかる?」「る?」

「あのカミの家、アジロノカミの近くのマッスグノキだったわね。
まだ立ってるかしら?」

「名前は確か、ハヤノミノキネズミノカミだったと思うわ。」

「でもあのカミ忘れっぽいから、覚えてるかしらね?」

「ふうん、わかった。行ってみる。」
「ありがと!」「たすかったわ!」「わ!」

気がつけば、あっという間に種はなくなった。
クロさんに、だいたいの検討付けて歩いて貰う。
だが、アジロノカミの所は被害が大きい。
家が流されたら、居を移しているだろう。

「アジロノカミは大きかったから、崩れ方がひどいんだ。
下にあったイタミビトもみんな死んだって聞いたよ。」

「仕方ないね、カミを怒らせたのはイタミビトだ。
若いカミは気が短いし、何より気が荒いもの。」

イタミビトの家が並んでいた所は、沢山の家の残骸が押し流されている。
小さな家が一軒残っていて、遠巻きに見ていると、老女がヤマに手を合わせ、供え物をしてカミシズメをしている。
若い女が井戸から水を汲んで、歌を歌ってきれいな水をまき、並んで手を合わせた。

「あれ、カミシズメをしているよ。」

「あれはヨキヒトじゃない?」「油断しちゃ駄目よ!」「そう思う!」

ふと、老女がこちらを向いた。

「見えてる?」「あたしたち見えてる?」「うっそー」

「見えてるさ、ただの犬と鳥。でも僕は見えてないはずだよ。」

ところが、老女は静かにこちらに手を合わせる。
その祈りに、何だかザワザワ〜っとした。


「「「「「 わあああああああ!!! 」」」」」


皆の毛が逆立ち、逃げるようにその場をあとにする。

「な、なんだろう、すごく、凄く、なんだろう。」

「拝まれるなんて。」「慣れてないのよ。」「ねー」
「でも確かに。」「力になるわね。」「ねー」

うん、なんだろう、ほんとに元気出た。
僕らはきっと、ヒトの力で元気になる。

よかった、
よかった!

きっと、あんなヨキヒトもいっぱいいるはずなんだ!
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