第20話 けがれ神

文字数 1,879文字

夕暮れの空を、沢山の鳥たちが大群を成して飛んで行く。
やがてしばらくすると、遠くからザワザワどんどんと地響きを立て、沢山の動物たちが一斉にこちらへ向かってきた。

「一体、何があったんだろう?」

アジロノカミの元にいたユラギカゼたちが呆然と逃げる鳥たちをあおぐ。

「誰か!何があったか!教えて!!」

「教えて!!」「教えてよ!」「誰か!!」



「オソガミが出た!!」

「オソガミだ!!」


「 ヤマミズノカミのオソガミが!」

「 出たっ!! 」


誰ともわからない声が、沢山の声が口々に叫ぶ。

「なんですって?!」

場所をどこにしようか相談していたアジロノカミたちが、愕然と立ち上がった。

木にもたれて座っているハレニギノノヌシを抱いたハジマリノキミに変わりはなく、すうすう眠っている。
だが、その手に抱かれたヌシは、次第にまだらに黒くなっていた。

「ヌシッ!身体が黒くなってる!」

「まずい〜、まずい〜、これを早く、起こしてくれぇ〜

わしは〜、このままでは〜土になる〜〜

そしたら〜〜、もう〜、取り返しがつかん〜〜」


皆が息を呑んでアジロノカミを見る。

「アジロノカミ、どうすればいい?」

アジロノカミは、キミの手を引いて、一瞬で自分の中に取り込んでしまった。

「僕はこうなったキミの起こし方なんか知らない。
僕らは逃げなければ、水脈を通して巻き込まれる。」

「アジロノカミ!逃げる前に何か、何か、教えてよ!」

アジロノカミは、首を振って足下から水にかえっている。
一瞬で消えてしまうのだろう。
でも、僕らの中で、彼らが一番長く生きているのだ。
すると、アジロノカミの中からキミの声がした。

「ヨキヒトのお祭りの音で、100年眠っていたタキノカミが目を覚ましたって話を聞いた事があるわ!
地面を揺るがす大きな音よ!」

ハッと、エイチと顔を見合わせる。
礼を言おうと口を開いたとき、アジロノカミは一瞬で地面に消えた。





祭りの音だ。

エイチはすぐに思い立ち、村の方角に視線を向けた。

「俺が行って来る。俺の子を殺したあいつらがヨキヒトかはわからない。
でも、俺が化けて出たら、きっと恐れて村長は動く。」

「エイチ、それは駄目よ。ヨキヒトはそれじゃ駄目!」
「思い出して!」
「あたし達に手を合わせたヨキヒトを!」

手を合わせるおばあさんと女の人! アジロノカミが崩した所の近くだ!

「クロさん!」

「わかった!」

行ってどうやって意志を伝えるかは後回しだ。
とにかく行って何とかしなきゃ!
だけど、歩けない者ばかり増えてクロさんの背じゃ足りない。

「オオオオオーーー
ウオオオオオオーーーー」

クロさんが遠吠えする。

すると、他に2頭の山犬が来てくれた。

「オソガミ鎮めの為にヨキヒトの元に行く!
それぞれ背を貸し、ついてこい!」

「ガウ」「ワフッ」

「エイチ、コマドリのカミたちと乗って!行こう!」

一気に走って老女の家に向かう。
周りは逃げる動物たちがあふれ、恐怖に満ちている。

山が、このままでは死んでしまう。
オソガミに飲まれて死の山になる。

老女の家に着くと、そこには数人の村人が訪ね、山の異変を相談していた。

「川の水を飲んではならぬ。
恐らくこれは、けがれ神が出たのだ。
このままでは山から毒が流れ出し、この一帯は死の土地になる。」

「婆様!一体どうしたらいいんだ!」

「あんな奴らが来たばかりに、山は崩れて水も無い。
水が来たと思ったら生き物が死んでいるんだ。」

「もう、もうこの土地は捨てるしかないのか?」

婆様がシャンと座って考える。
そして、ハッと顔を上げて外へ出た。

「婆様!どこに行くんだ!」

「静かにせよ、神の使いが来ている。」

婆様が、長い数珠を握り、男たちをかき分けドアを開く。
そこには、犬が3頭立っている。

「山犬だ、何だ?」

「シッ!」

婆様が、手を合わせて祝詞を唱える。
すると、中央のひときわ大きな犬の横に1人の少年がボンヤリ現れた。

「神の声を聞かせたまえ」

婆様が、懐から鈴を取り出し、眼前で軽く振る。

リーーーーーーン

その余韻が長く鳴り、そして少年の声がはっきりと聞こえた。


『 祭りをせよ 』


「はっ!」
「な、なんだ?」

来た方角を指さす少年に、婆様が頭を垂れて、息を吐く。

「承知いたしました。」

返事を聞いて、山犬たちはまるで向こうだと言いたげにクルリと回って来た方角を見る。
婆様が、ひときわ張りのある声を張り上げた。


「 皆の衆!! 今こそ祭りを開くとき!!

鳴り物を持て! 人を集めよ! 踊りを舞って地を踏みならせ!!

急げっ!!」


「「 は、はいっ!! 」」


男たちが家を飛び出し駆け戻って行く。
山犬に手を合わせる婆様に、少年の姿がお辞儀する。

そして、犬に乗るとその姿はふっと消えた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み