第16話 ハジマリノキミの姿

文字数 2,007文字

日が暮れてしまうと、クロさんはちょっと行って来ると森に消えていった。
狩りをするんだろう。

僕はエイチと少し話しをして、大きな木の根元に休む。
カゼに飛ばされないようにツル草を身体に巻いて、コマドリのカミたちを抱き、兄様の緩やかな風を感じて力を取り戻す。
エイチは僕の横にいて、木々の間から見える星空ばかり見ていた。

夜は長くて短くて、夜明け前に他のミミズクノカミが訪ねてきた。

「あのアジロノカミの近くでね、変な声が聞こえたって、カラノカミ(カラス)が言ってたわよ。どんな声かは言わなかったけど。」

「なんだろう、様子見に行くから探してみる。ありがとう!」

「森の皆、協力するわ。オソガミが出たら大変ですもの。
何より、イタミビトが消えたのは良かったけど、水場が無いのは困るの。
昼の皆もね、何でも言ってって。」

「ありがとう。うん、わかったよ。」

「ユラギカゼでしょ?あなた。消えないようにね。
イタミビトのせいで、話の出来るカミたちが消えるのはもうまっぴらだわ」

「うん、がんばるよ」

頑張ってもさ、どうにもならない事があるのはわかってるんだ。
でも、僕は、ヒトを信じたい。
皆、イタミビトを憎んでいる。ヒトがヒトを埋めるのも見たくない。

これ以上悪い事が起きるのを止めたい。
ヨキヒトもちゃんといるって事を、皆に教えたいんだ。



朝方、クロさんが帰って来た。
食べた、と言うのでなんか食べたんだろう。
コマドリのカミたちも移動中に虫捕まえて食べている。
僕はカゼだから生き物食う事は無いけど、カゼが無いと消えそうになる。
今はヤマノカゼの兄様が緩やかに風を送ってくれる。
少し朝露を飲んで、身体が飛びにくいようにしておこう。
今日はなんだかとてもいい日のような気がするんだ。

朝になって見に行くと、相変わらず石を中に入れたままアジロノカミはそこにいた。
どうしようと相談して、とにかく先にアジロノハジマリノキミを探そうという事になった。

「どんな姿なのかわかる?」

「カワじゃ無い時のハジマリノキミがどんな姿かなんて」
「わかるわけ」「ないわよねー」

「カワズ?」

「ハジマリノキミは、だいたいきれいな見た目だし」
「もっとキレイなものじゃない?」
「どうだろ?」

「朝、違うミミズクノカミが、この辺で声がするってカラノカミが言ってたって。」

エイチが、ずっと一方を見ている。

「どうしたの?」

エイチは無言で平地を指さす。

「行ってみようよ。」

「そうね」「仕方ないわね」「ね」

指さす所に歩いて行くと、そこにあったのは魚の干物だった。

「なんだろ、死んでる?」

「生きてるわけ無いわね」「ね」「臭いから行きましょ」

皆引き返す中、エイチは動かないでじっと見てる。

「エイチ!おいで!」

エイチはようやく顔を上げ、周りを見て滑るようにアジロノカミへと走ると、その身体にドボンと手を突っ込んだ。
ひとかたまりの水を両手に掴み、まん丸の水袋をちぎり取る。

「あっ!」「えっ?」「うそ」「千切れるの?」

また滑るように走って戻って行く。
そして、水の玉を干物の上にボヨンと落とした。

ボヨンボヨンボヨン

干物の上で、水の玉が跳ねる。
そして、バシャンと割れた。

干物の魚はみるみる大きくなって、ビチビチその場で跳ね出す。

「たーすかーったーーー!!
礼を〜言うーーぞぉーーーー、ヨキヒト〜〜〜!!」

皆慌てて戻ってきて、ビチビチ跳ねるコイを見た。

「生きてた!! 生きてたよ?! なんだろ。」

「ぬぅ〜しぃ〜だぁ〜〜〜〜
気がついたら〜〜、ここにぃ〜〜い〜〜たぁ〜〜〜」

「どっち?アジロノ?ハレニギノ?」

「ハァ〜〜レ〜〜〜ニギノ、だ〜〜〜〜
うちのぉ〜〜奴らぁ〜〜はぁ〜〜ど〜こ〜だぁ〜〜??」

「今探してるんだよ。わかる?
ほら、あれ、アジロノカミの中に石が浮いてるの。
あれどっちかのキミ?」

ユラギカゼがクロさんから降りて抱き上げようとする。
でも、手がすり抜けて掴めない。
エイチがしゃがんで抱っこすると、ビチビチしながら胸に抱かれた。

「なんで?エイチは抱っこできるの?」

「むずかし〜い事は、知らん〜」

「まあいいからさ、あのアジロノカミの中の石はキミじゃない?
良く見てよ。」

エイチが滑るようにアジロノカミに向かって行く。

「あれは〜〜なんだ〜〜〜変なの。」

「どっちか言いなさいよ」「わかんないのよ」「よ」

「ん〜〜〜〜うちのっぽい。」

「なによ、その」「うちのっぽいって」「て」

「あ〜〜水脈〜〜同じで〜〜水が〜同じだから〜
隣の〜奥さんと〜区別がつかん。」

「「「「  あ〜〜〜それで〜〜〜  」」」」

それでアジロノカミは間違えたんだ。

「じゃあ、アジロノカミの奥さん探さなきゃ。
カワじゃ無い時って、どんな姿?」

「あ〜〜〜、ヘビだ。」


「 えーーーーーー!!! 」


突然クロさんが声を上げた。

「ど、どうしたの?」

いつもほとんど喋らないクロさんが、もの凄く焦って顔を上げた。

「し、知らなかったから……さっき、食った。かも。」


「「「 えーーーー!!!! 」」」

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