第22話 カミシズメの祭り

文字数 2,145文字

続々と、村人が松明を掲げて森の方角へとやってくる。

数珠を持った婆様が、板に乗って若い男たちに担がれ、先導してまだ毒気の無い場所まで来ると薪をたいて準備を始めた。

「皆の衆!神しずめの祭りだ!皆で踊って足を踏み鳴らせ!」

村長の息子の声を合図に、力自慢の男たちが太鼓を鳴らし始め、そして笛の音が軽やかに奏で始めた。


ドーーン!ドーーン!!
カカッカ、カカッカ、ドーンドドン!

ピューールリ、ヒョロヒョロ、ヒョウヒョウヒョウ

ドドンドドン、ダンダンダン

山を揺らすように音が轟き、オソガミになったハレニギノノカミの毒の水が揺れる。
ヤマの下手、祭りの方に身体を向けて、大きく手を広げると、振動で身体を作っている水が揺れて、はずみで身体の中いっぱいに満たす鳥の死骸が、バシャンバシャンと背から飛び出した。


急ぐユラギカゼ達にも、薪の灯りが目の前に見えてくる。

ドーーーン!

太鼓の振動に、わあっとみんなが悲鳴を上げた。

「どうだい?ヌシ!ハレニギノノカミは?」

振り向いて彼女の手の中のヌシを見ると、ドーンと鳴るたびにヌシの身体が崩れて行く。

「 ヌシッ! 」


「 たの む、 たのむ、 あとを、 どうか、 どうか…… 」


「ヌシッ!ヌシ、ヌシ!」

ヌシがボロボロと泥になってキミの膝に崩れ落ちる。
皆が騒然としていると、ハジマリノキミがゆらりとその場に立ち上がった。


ドーーーン!

ドーーーン!

カカッカ、ドドンドドン!

ドーーーン!

ドーーーン!


音の方向を呆然と見つめるキミに、変化が無い。


「 歌えや歌え、あらまほの…… 」


誰かがチュンチュン歌い出す。
すがるような気持ちで、次々と後に続いた。


「「 命の泉、ハレニギノカミ 」」


突然、森から多くの動物たちの鳴き声がして、村人達が思わず手を止める。


「止めてはならぬ!続けるのじゃ!」


婆様の声に、村人が祭りを続ける。
動物たちも、カミは歌い、他の者は懸命に声を上げた。


「 歌えや歌え、あらまほの

命の泉、ハレニギノカミ

天上一と誉れも高く

飲めばたちまちカミとなる

やれ美しきハレニギノ、ハジマリノキミはたおやかに

水をたたえるハレニギノ、ヤマミズノカミに寄り添えば

やれ、ヤマの民が集まって、

歌えや踊れの楽しき騒ぎ

我らが晴レ賑ギここにあり!

我らが晴レ賑ギここにあり! 」


ドーンドドン!
ドドンドドーーン!


動物たちが、立ち尽くすハレニギノハジマリノキミを囲んで回り出す。


「 歌えや歌え、あらまほの

命の泉、ハレニギノカミ 」


ドンドンドドーン!


足を踏み鳴らし、周りを踊るように歌いながら回った。


「やれ、ヤマの民が集まって、

歌えや踊れの楽しき騒ぎ

我らが晴レ賑ギここにあり!

我らが晴レ賑ギここにあり! 」



遠くで歌を、踏み鳴らす足を、太鼓の音を、笛の音を聞いていたハレニギノヤマミズノカミが、頭を押さえようとして頭が無いことに気がつく。

「 お、お、お、お、お、お、」

身体をかきむしり、バシャバシャと身体の中から死骸をかき出しながら、次第に身体が大きく膨れ上がっていった。


「 キミ、 オオオ、 キミ、 オオオオ、


 ヨブノハ、 ダレダ、 ワレヲ、 ヨブノハアアアアアアアア 」


バシャバシャ毒の水をまき散らし、四つ足になると地下の水脈から両手両足で一気に水を吸い上げ身体が大きく、大きく膨らんで行く。
毒気を薄めて、まるで浄化へと向かうように、人の形の巨大な水の固まりが、その場にどんどんそびえ立つ。


「 オオオオオオオオオ  」


ザザザザザザザザザザザ


夜の空へと大きくそびえ立ち、薪に照らされ赤く輝くその身体の中が、透明に透き通り、頭が生えて顔からドザザザと大粒の雨を降らせながら山へとそそり立つ。

「 ワガキミヨ

  ワレハ

  ココゾ

  ワガテヲ

  トリタマエ  」


巨大な水の固まりが空へと手を伸ばし、

そしてその水は月の光にゆらゆらとゆらめく。


村人達は恐れを成して思わず逃げはじめ、太鼓の叩き手だけがその場に残って、命がけで恐怖と戦いながら打ち続ける。


ドーーーーン!

ドーーーーン!

ドドンドドン、  ドーンドドン!


「かけましくも、かしこみかしこみ申す!

水の神よ、静まりたまえ! ろうぜき者の無礼許したまえ!!」


婆様が立ち上がり、柏手を打ち、手を合わせて祝詞を唱える。



「 我らが晴レ賑ギ! うつくしのキミはここにあり! 」

「 我らが晴レ賑ギ! うつくしのキミはここにあり! 」

「 うつくしのキミはここにあり! 」


必死でカミたちが声を上げる。

「気がついて!ハレニギノノカミ!!」

「今!今、気がつかなきゃ駄目なのに!」

「お願いだよ!ハレニギノカミ!」

皆が焦る中で、ユラギカゼがふわりと飛んだ。

「僕が!僕が行って来る!」

「駄目だ!ユラギカゼ!死んでしまう!」

「駄目よ!無理しないで!」

ユラギカゼが微笑んで、首を振る。
その足は、すでにうっすら透けて、消えかけていた。


「これが最後の、大切な友達への!」


「「「   ユラギカゼ!!   」」」


ユラギカゼが、身体に残った全部の風を使って一気に飛びあがった。

「ハレニギノノカミ、君は、僕を見てわかるかな?
君はいつだって、あの暗い蓋の下で僕を待っててくれたよね。
ひとりぼっちの君は、カミで無くなりそうになりながら、いつだって僕を待っていてくれた。
僕は、君を、あんなに愛されていた君を、失いたくないんだ!」
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