第15話 マヨイビトのエイチ

文字数 1,894文字

夜目の利くミミズクノカミが手伝ってくれるのはとても助かる。
しばらくして戻ってくると、少し下の方らしいと教えてくれた。

「この辺は誰も縄張りはってないから、付き合ってやるよ。
目印はマヨイビトだってさ。」

「マヨイビト??」

水と土で押し流されたあとの中、アジロノカミは後ろをズルズルと付いてくる。
水の身体が青白くほのかに光って、中でザンザン流れて泡立つと、それが白く輝いてとても綺麗だった。

「あれだわ、マヨイビト。」
「やあねえ、マヨイビトだわ。」
「喋るのかしら?」

「マヨイビトってなあに?」

「死者だ。」

僕の問いに、クロさんが、低い声で言った。
ボンヤリした子供が、じっと光る石を見ている。

「あった!あれじゃない?」

「あれだね!」

マヨイビトを避けて、ほのかに光るイシをのぞき込む。
そうっと上にかぶる泥をのけて、どうしようか迷う。
ズズッと大きな腹を引きずりながら、アジロノカミが近づいてきた。

「どうだい?ハジマリノキミかな?」

「お、お、お、お、キミ、の、気配、が、する。」

「どうすれば外に出せるんだろう?」

「なんで封印されたのかしら?」
「ねー、カミが封印されるなんて。」

アジロノカミが、またぐねぐねと変化する。
ザンザンと水音をさせて、ビュンとムチ状の触手を伸ばし、イシをぐるりと巻き取る。

「え?大丈夫なの?」
「大丈夫かしら?」
「壊れちゃうよ?!」

ビュンと持ち上げてドプンと自分の身体に取り込み、そしてそのまま丸くなって動かなくなってしまった。

「アジロノカミ!アジロノカミ!それは本当にあなたのハジマリノキミなの?!
ハレニギノハジマリノキミじゃないの?!」

ブヨブヨした身体を叩いても、何の反応もない。

「どういう事?」

「僕はハレニギノカミから、キミの上にイシが振ってきて死んでしまったと聞いたんだ。
だから、もしかしたら、イシに封印されたんじゃ無いかと思ったんだよ。」

「えー、それじゃあれはアジロノハジマリノキミじゃないじゃない!」
「なんで言わなかったのよ。」
「連れてこなきゃ良かったのに。」

「だって、あの状況で言えないよ。本当にハレニギノカミかもわかんないし。どうしよう。」

「アジロノハジマリノキミを探すしかないね。」

「そんな事言っても、そんな簡単に見つかればこんな事にならないわよ!」

サラッと言うミミズクノカミにコマドリノカミがだんだん声を荒げる。
みんな疲れて頭にきてる。

「とにかく!アジロノカミはこれで安定はしたんだ。
今夜は休もう。俺も腹減ったし。」

クロさんが、ユラギカゼに乗れとお尻を押した。

「そうだな、そうしなよ。俺の縄張りで寝るといい。
いい場所提供するぜ。」

ミミズクノカミが、戻ろうと羽根で森を指す。
みんな、素直にうなずいた。

「うん。そうしようか。」

「あたしもう眠いし。」「そうよね。」「ね。」

ボンヤリ横にいるマヨイビトが、こちらを向いた。
構わずクロさんが歩き出すと離れて付いてくる。

「やだ、付いてくるわ、このマヨイビト。」

ユラギカゼが、振り向いて手を伸ばす。

「一緒に来る?」

子供はこくんとうなずいて、滑るように来て手を伸ばす。
ユラギカゼと手を繋ぎ、ニコッと笑った。

「君の名前は?」

「エイチ」

「エイチ、君はどうしてここにいたの?」

「あの家に、雇われていた。そのために、村に子たちが殺されている。」

ポツンと告げると、うつむく。

「なんだ、イタミビトの一人じゃない。
なんで子が殺されるの?」

「自分たちのせいで、山が崩れた。
だから、子供が(にえ)にされてしまった。」

「あの、5人兄弟のお父さんなのか。」

コクンとうなずく。
幽霊は、見た目の年齢ではないのだろう。

「なんで山を荒らして水を独り占めしちゃったの?」

「……水枯れで、居を移してきた、よそ者だったから、使う以上に、水を欲しがったんだ。」

「なによ!だったらもっとヤマミズノカミを大事にしなさいってのよ!」

「エイチはどうしてあのイシを見てたの?」

「神宿る物に助けてほしかった。」

うわあ……
さすがにカミたちが引く。

「ヒトって、なんて身勝手なのかしらね。」
「置いていきましょ!」
「よね〜」

「でも、この子があのイシを見つけたんだ。
ヤマミズノカミも見つけられるかもしれないよ?」

ユラギカゼに言われて、クロさんの首の毛に埋まったまま、コマドリ3姉妹がエイチを見る。

「確かにあたしたちは、眷属は見つけられるけど、他のカミはさっぱりだもの。」
「アジロノカミは壊れてるし。」
「死んでも現世にしがみつく霊力の強さはあたしたちに無いわ。」

「 つまり、」「しつこいのよ」「ベタベタの木の罠みたい」

「「「 ねー 」」」

コマドリノカミがうなずいて、結局僕らは一緒に行動することになった。
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