第18話 ハレニギノハジマリノキミ

文字数 2,181文字

「「「 わ、割れちゃったーーー!! 」」」

あとにはボーッとするおっさんのアジロノカミが、あぐらをかいて座っている。
ガシガシ頭をかくと、水の髪の毛からしぶきがいっぱい散った。

「あなた!隣のキミを抱いてたのどういう事?」

ボーッとするカミは、キミを見てふわ〜っと笑う。

「やあ、美しのキミ、相変わらず万物の何よりも美しい。
千のカミより君を愛してるよ。」

ボーッとしながら、さらっと言う所が、まるで口癖のようだ。
キミはさらさらと水が流れるように歩み寄ると、ガッとカミの頭を掴んで地面にバシャンと押し付けた。

「皆さん、迷惑をかけてごめんなさい、は?」

「ハッハッハ、なんか知らんがごめんなさい。」

ひええええ、なんか怖い奥さんで、ハレニギノノカミとは全然違う。

あれ?

「ハレニギノノカミよりアジロノカミが若いんだよね?」

どう見てもおじさんだ。ハレニギノは少年のようだった。

「そうよ、カミは年を取ると霊力が増して若くなるの。ハレニギノノカミは千年ぐらい年上よ。」

「わー、凄い、知らなかった。」

「いいから早く泉を作らなきゃ。皆さんお困りだわ。」

ユラギカゼを、エイチが引っ張った。

「あ、そうだ。
アジロノカミ、出来たら水をシロハナノカワノキミに流せる所にして欲しいんだ。
干上がっちゃって、カワノキミが死にそうになってる。」

「なんだって?それは大変だ。じゃあ、ハレニギノカミ探しは任せてもいいかい?」

「まかせて頂戴」「ね?」「頑張るわ」

「そ〜の〜前に〜うちの〜どうしよ」

アジロノハジマリノキミが、割れた石をのぞき込む。
イシは青く輝いて、水がじわりと流れていた。

「そう、乱暴に偶然封じられたのね。
このイシ、偶然封印に最適なイシだったのだわ。
でも大丈夫よ、割れて封印は崩れている。
ハレニギノノヌシを置いて。」

ヌシが自分からエイチの手の中から飛び出し、ビターンと割れた石の間に入った。

「た〜の〜むう〜〜」

アジロノハジマリノキミが、結い上げた髪を解き、キラキラ輝く水の髪を広げて両手を高く掲げた。

「 カワノナリタチを紡ぐ我らが同胞よ、
 我らは水の道でつながり、半身が水を成し、我らハジマリが水を流してカワとす。
 ハレニギノの母なるハジマリノキミよ、目覚めませい、汝がヌシがここにあり。

 イタミビトの無礼を許しませい。
 我らカワノカミ、チとチカラを分け与え、イノチを分け与える慈悲のカミ。

 我らがハジマリ、待つ者あり。
 起きませい、ハレニギノハジマリノキミ、我らハジマリ無くしてカワは無し!」

アジロノハジマリノキミの髪が、グルグルと渦巻いて周囲を水に飲み込んで行く。
ハレニギノのイシを飲み込み、その水の中でヌシがグルグル、イシの周りを泳いで回る。
その身体は金色に光り、キラキラ水に反射して、イシに輝きが集中して行く。

やがて、イシの割れ目から水の髪の毛がブワッとあふれ出し、スウッと青白い顔の美しい少女が水のドレスをまとって立ち上がった。
ボンヤリした顔で、その手の中にヌシが飛び込むと、両手で受け止め胸に抱く。

「起〜き〜た〜か〜〜??おーーい!」

ハレニギノハジマリノキミはボンヤリしたまま、うつろに宙を見て返事をしない。
アジロノハジマリノキミが、その頬を撫でて、ぐにゅっとつまんだ。

「起きないわねえ、よほど乱暴な封印だったのだわ。
とにかくイシから引きずり出しておかないと、また中に入っちゃう。」

「えーー!!それは困るよ。」

押せる者は手伝って、アジロノカミも一緒に、イシにくっついて鉛のように重いハレニギノハジマリノキミをズルズル引っ張り出す。

「お、もーい!」「足がくっついて離れないよ」

「 んーーーーー!!! 」

ばっしゃんっ!

「取れたーー!!」

ようやく水のドレスがすっぽ抜けた。
「おっと」倒れかかるキミを、アジロノカミが受け止める。
割れた石は輝きを失い、ボキボキヒビが入って、その場で崩れ落ちた。
アジロノハジマリノキミが髪を結い上げながら、ユラギカゼたちに首を傾げる。

「さて、ハレニギノのキミをお願い出来る?私たちは早く泉を作らなきゃ。」

「移動出来る?ここに置いていくわけに行かないし。」

「だ〜いじょうぶだ〜、わしが連れていく。」

「白蛇には、なれなさそうだね。クロさんには乗れる?」

「うーん、ヘビには自分で変わらんとなあ。これには乗れるぞ。」

ユラギカゼの後ろに流れるように来ると、ヌシがシッポでバチンと胸を押して、横向きにちょこんと座る。
まるでキミは、水たまりのようで、ゆらゆら、振動で波紋に揺らぎながら乗っていた。

「クロさん、重くない?」

「うむ、大丈夫だ。冷たいだけ。」

「じゃあ、とりあえず森に戻って、アジロノカミの近くにいた方がいいかな?」

「そうね、もしかしたらハレニギノのカミが1人で水脈へのつながりを作るかも知れないわ。
行きましょう。」

ユラギカゼが、ハレニギノのキミの水の髪をサラリと手に取りアジロノのキミに聞いた。

「いつもは髪が短くて男の子みたいなのに。ほんとはこんなきれいな女の人だったんだね。」

「そうね、カワは髪の一部だから、私たちはカワを作ったら短くなるの。
ハレニギノのキミは男の子の姿が好きなのよ。
私たちは普段、だいたい姿を変えているわ。」

「ふうん……ハレニギノカミはどこに言っちゃったんだろう……」

ハジマリノキミを見つけたら道が開けると思ったのに。
みんな少し気落ちして、途方に暮れた。
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