第4話 ヤマミズノカミとハジマリノキミ(ウ)

文字数 1,081文字

「ニンゲンが!カミの中に入って行く!」

「カミノチなのに!」「カミノチが(けが)される!」

周りのカミが一斉に騒ぎ出す。
人間たちが、ある日ヤマミズノカミの泉に入って、底に沈んだ木々を引き上げ、美しく澄んでいた水をにごらせてしまった。

人間がいなくなり、僕は震えるハジマリノキミに心配入らないとなだめ、底へとヌシに会いに行った。
にごる水にヌシはおびえてなかなか出てこない。
ようやく出てきたコイの姿をしたヌシは、髭を震わせて困っていた。

「こま〜った〜、わしの〜ねぐらが〜なくなった〜〜」

「水草も全部無くなってる。なんて事だろう、みんなケガはないか?」

「いたいいたい」「ミズ様いたい」

「ああ、おいで、可哀想に」

ウロコが傷ついたコイの子を手当てして、泉の惨状に頭を抱える。
ぼやくヌシノカミと相談して、小さい生き物には川に移動して貰った。
ただ、ヌシノカミは大きい魚で人間に狙われやすい。
彼は僕の身体の一部で、彼がいなくなると神気が大きく削がれてしまう。
だから見つからないように、カワから水草を移し、ひっそりと隠れて貰うことにした。
にごった水はカワにも流れ込み、美しいハジマリノキミまでもがにごってしまう。
腹に据えかね、怒りで思わず水がぬるくなった。


「共生なんて、無理なんだよ。」

カミが不機嫌に吐き捨てた。
わかってる、わかってるんだよ。
水路を引いた人間たちには、カミを大切にする気持ちは無い。
人間には、カミを大切にする者と、しない者の二通りいて、ここに水路を引いたのはカミなんかいることさえ知らない、恐ろしい忌むべきイタミビトだ。

「出来ればいいなって、思ったんだよ。
だって、カワノキミたちはちゃんと下流の(たみ)と共生しているんだ。

だから  ね? きっと、楽しいだろうな って、思ったんだ。 思った、だけなんだ。」

うつむいて、寂しく微笑むと、ミズノカミは優しく僕を抱いた。


穏やかな朝と昼と夜が流れ……
その日は嬉しい事から始まった。
カワズの卵から子供たちが生まれ始めたんだ。

「可愛いね、可愛い。僕らのカワへようこそ」

ハジマリノキミが嬉しそうに涙をこぼす。
何度見ても、命が孵る時ほど嬉しいものはない。
僕もキミも、喜びに心躍らせて眺めていた。


キャ ア、ア、ア、


その時、突然森に、沢山のカミの悲鳴が上がった。

「 イタミビトが来た! 」

「 イタミビトが来た! 」

キャ ァ ァ ァ ヒィ ィ ィ

「 イタミビトだ! 」

「恐ろしい!恐ろしい!」

ゾロゾロと、真っ黒な影を落とし、人間たちがやって来た。
カミたちの悲鳴が響き、木の倒れる音が近くで響く。

ハジマリノキミが恐怖に目を大きく見開いて、ガタガタ震え始めた。
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