第10話 シロハナノカワノキミ

文字数 1,418文字

今日もお日様がキラキラと輝いて気持ちのいい空だ。
そう言えば、しばらくクロ君達と会ってないよね。って、友達と話しをしながら空を飛ぶ。
クロ君は暗い雲だ。
雨を降らせて時々強い風で僕らを吹き飛ばす。

ドンドンドン、ドンドンドン

お祭りだ!お祭りだよ!

僕は、楽しげな太鼓の音に、久しぶりにその村へと降りていった。
村の上をくるくる回って、太鼓の音が身体中にドンドン響く。

心地よくてゆらゆら漂っていると、ふと川が干上がっているのに気がついた。
沢山の貢ぎ物を小さな祭壇に置かれ、カワノキミがしゃがみ込んでいる。
僕はどうしたんだろうと、声をかけた。

「 やあ!シロハナノカワノキミ、ずいぶんな貢ぎ物だね。」

「ああ、ユラギカゼか。久しいな。
ご覧の通りさ、水の無いカワノキミなんてね、命が尽きるのを待っている所さ。」

「水が無い?どうして?」

「山が崩れたらしくて、3人のハジマリノカワノキミが消えてしまった。
僕はハジマリノキミがいなくては生きていけない。
ヤマミズノカミがどこに行ったか知らないかい?」

「ヤマミズノカミは生きているの?」

「ヤマミズノカミは水源さ。死ぬことは無いけど、人間が山を荒らすと怒って場を変えてしまう。
先日コマドリノカミに話を聞いたら、ヤマミズノカミを人間が(けが)したらしくて、山を崩して去ってしまった。
オソガミになってなければいいけど。僕は心配なんだ。」

「オソガミだって?!
ヤマミズノカミが、あんな物に堕ちたら……毒を流して沢山の生き物が死んでしまうよ?」

「だから、心配なのさ。
ヤマミズノカミが僕の上流へ来てくれないかな、それが望みなんだけど。
このままじゃ、人間がまた子供を殺してしまう。」

そう言って、祭壇に目をやる。

ドンドンドン、ドオンッ!

大きな太鼓の音を響かせ、祈りを捧げる白装束の人間が、踊っていた村人に手を上げた。
目と口を布で塞いだ子供が連れてこられ、バタバタひどく暴れながら地面に押さえつけられた。

「川の神よ、我らに水をお与えください」

老婆の声がして、川の畔に置いてあった板を男たちが横にずらした。
黒い、黒い、地面にあいた穴が現れる。
引き上げられた子供は足がすくみ、目を覆う布がびっしょり濡れている。
人間たちはそろって祈りの言葉を上げて、子供はポッカリ掘られた大きな穴に落とされた。

「何をしているの?」

村人が、どんどん土を入れていく。
どんどん土を入れて埋め終わると、また踊り出した。

「あの子は?土の中では死んでしまうよ?」

「生け贄さ、僕に死人を捧げると、水が湧くと思っているんだ。意味が無いのに。
あの子でもう、3人目なんだ。
5人兄弟があと2人になってしまった。」

「どうして!人間はこんなにお祭りが好きなのに!」

「この間までは、雨乞いの祭りだったんだよ。
やっと降ったら、今度は山崩れで僕が干上がってしまった。
しかも、空にはクモ1つ無く、また降る気配がない。
山崩れで水脈が変わって、井戸も水が無くなっていると聞く。」

「イドって、水の出る穴だよね?」

「うん。きっとヤマミズノカミが移動して、水脈が動いたんだ。
向こうのカワでは、水を取り合って小さな(いくさ)があったらしい。
上手く行かないね、人間は水に振り回されているのさ。
お願いだよユラギカゼ、お願いだ。ヤマミズノカミを探してきておくれよ。」

カワノキミが、カラカラに乾いた目から、ひとしずくの涙を流す。
その涙は、ヒビだらけの頬に吸い込まれてしまった。
僕は楽しそうだと思っていたお祭りが、急に怖くなった。
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