第13話 オソガミ

文字数 1,582文字

ヤマへと入って、崩れた所をクロさんは身軽に飛び越えて行く。
やがて一番近い杉の木を見上げた。

「奇跡的に立ってるわね。」「ね」

「ハヤノミノキネズミノカミーー!!」

「ハヤノ、ミノ、キネズミノ、カミー!」

「おーい!」「どこにいるのー!」

しばし、待ってみる。
キョロキョロ見回していると、クロさんが違う木に進んだ。

見上げると、キネズミが木肌をくるくる器用に回りながら降りてくる。

「なんだい?何か用?」

「何だか珍しい石を見つけたって聞いたんだけど。」

「どこにあるの?」

「ヤマミズノカミさがしてんの。」

キネズミノカミは、顔を上げて何だとこぼす。
枝に走ると、腕を組み偉そうに顔を上げた。

「もちろんだよ、あんなきれいな石は見たことが無いよ。
キラキラしてるんだ。水がじわじわ出るんだ。なんだろ。」

良かった、忘れてないようだ。

「それで、どこにあるんだい?」

ふと、我に返ってキネズミノカミが呆然とする。
嫌な予感。

「どこだっけ?」

「あーーーー、やっぱり忘れてる!」

「ちっ!違うよ!忘れてないから!えーと、えーと、そうだ!夜になればキラキラするんだ。
だいたいあの辺。」

「どの辺?」

「忘れた。」

「「「  もーーーー!!  」」」

「で、でもっ!ヤマミズノカミなら、知ってるよ?」

「「「「どこっ!??」」」」

「でも、様子が変だったから行かない方がいいよ。」

コマドリノカミと、クロさんと、顔を見合わせとりあえず場所を聞く。
そして行ってみることにした。




ざあああ

ざあああああああ

そこはなぜか、水の音はするのに、水がどこにも流れていない奇妙な所だった。

「 オオオオオオ…… 」

うめき声とも、泣き声とも付かない声が、あたりに響いて不気味さを増している。

ズズズズ

ズズズズ
ズルズル這っているような音に周囲を見回すと、それは木の間を巨大な水の固まりがうごめいていた。

「なにあれ?」「あれ、アジロノカミじゃない?」

「しいっ」

その生き物は、形容しがたい形をしている。
大きな芋虫のようで、透明の表面の中は透明の水が音を立てて渦巻いている。
身体を伸ばしたり縮めたりしながら、ナメクジのように水のあとを付けて土砂の方向から森の方角へと這っていったようだ。

「 オオオオオオ、オオオオオオ…… 」

前と思われる方向へ回り込むと、大きな口を開けて声を上げながら、芋虫の小さな2つの目から涙のように水を流していた。

コマドリノカミが、小さな声でささやく。

「まずいわ」「まずいわね」
「オソガミになりかけてるわ。」

「オソガミって、みんな死ぬ怖い物だと聞いたけど、何?」

「オソガミ(悪祖神)よ、悪いことの始まりのカミ。
ずいぶん昔に1度あったって聞いたけど、山が1つ死んだって聞いたわ。
周りが全部死ぬまで治まらないの。
ヤマからカミが消えて、やっとオソガミは死ぬのよ。」

「そんな!」

つい声が出て、バッと芋虫がこちらを向いた。
思わず口を手で塞いだけれど、もう遅い。
芋虫が、じわりとザンザン水音をさせながらこちらへ向いた。

「オオオオオオ、お前たち……」

「は、はいっ!」

「わたしの、わたしの、わたしの、キミは、キミは、どこだ」

「そ、そんなの……わかんないよ……」

「いないのだ、どこを探してもいないのだ。
いないのだ、いないのだ、私のハジマリノキミがいないのだ。
うううううおおおおおおおおお」

涙に暮れるアジロノヤマミズノカミに、思い切ってイシの話しをしてみた。

「この近くに、光るイシがあるって聞いたんだ!それじゃないかな?」

「ちょっと」「ユラギカゼ」「まだ場所もわかんないよ?」

驚いたことに、アジロノカミの泣き声がピタリと止んだ。
不気味なほどに、あたりは静けさを取り戻し、あれほどザンザン水音を立てていた芋虫のような身体の水が、静かになる。
寒々とした気配に、皆恐れに身を引いた。

「だから二人で一つのフタリカミは怖いのよ。」

コマドリノカミがポツンとささやいた。
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