第19話 ミズクサノカミの死の臭い
文字数 1,656文字
ピピピピピ、チチチッ
ユラギカゼたちのいる場所から少し離れた森で、小鳥たちが
空を見上げて話しをしていた。
「そろそろ、雨降らないかな?」
「水浴びしたいよね。」
「ヤマミズノカミ、まだ戻らないのかな?」
「なんか探してるらしいよ。向こうの縄張りの。」
「ふうん、そう言えばいつだったかミズノカミを見かけたってだれか言ってたなあ。
何か探してたんだって。」
「見つかったら、また泉を作ってくれるかな?」
「だろうね、ここよりいい所はないもの。」
鳥たちが話しをしていると、上から声がした。
「ミズノカミが泉を作ったらしいよ。」
「ほんと?!どこに?」
「ほら、ミズクサノヤマミズノカミが死んだとこ。
ハジマリノキミが朽ちて死んで、他のミズノカミは死の臭いがするって近づかなかったのに、なんかそこに来て水場を作ってるらしいよ。」
「行ってみようよ!」
「うん!」
パタパタと鳥が嬉しそうに飛び交い、ミズクサノカミが昔いた場所へと急ぐ。
そこはミズクサノヤマミズノカミが移動した水脈を追うのをやめて、ハジマリノキミと朽ちて死んだ場所だ。
なぜ水脈を追うことを止めたのかはわからない。
ただ、運悪く病気の鹿がほとりで死んで、腐った悪気にあてられ水が濁って気力を失ってしまった。
その3つの死が重なり、良い場所では無い事だけはみんな知っていた。
でも、この辺には大きい水場がない。
そこに水場が出来るのは、みんなとても助かるので口伝いで広がっていった。
その場所は、確かに荒れ果てた泉のあとにたっぷりと水をたたえていた。
水は風が吹いても波紋さえ起きず、しんとした重い、重苦しい雰囲気の中、水音さえ立てずに日の光をギラギラと反射する。
日の光に温められて、蒸気がゆらゆらと立ち上り、どこか不気味な静けさに包まれていた。
パササ……
飛んできた鳥が、一呼吸でポトリと水面に落ちた。
ゆっくりとした波紋の真ん中で、鳥は痙攣しながら動かなくなる。
泉の中央に波紋が起きて、頭の無い、奇妙な形のヤマミズノカミが静かに浮き上がってきた。
その鳥を、水の中から指がいくつも欠けた手が現れ、すくいあげる。
『 ト、ト、モ、、ダ、チ、、キタヨ、キミ、キミ、カワイイネ、ハジマリノ、キミ 』
抑揚の無い声が、小さく、ささやくように泉から聞こえる。
やがて、背中からせり上がるように、遅れて首がにょっきり生えた。
ダラダラと、のっぺらぼうの顔らしき場所から水が流れる。
その水は水音も無く重くしぶきも上げずに泉へと流れていく。
顔の無いヤマミズノカミが水の中から浮上すると、その死骸を長い両手で大切に包み込む。
中途まですくい上げた所で、片腕が肘から落ちた。
『 ハジマリノキミ、キミ、ドコダイ?ドコ?ホラ、ホラ、トモダチダヨ 』
鳥の死骸にのっぺらぼうの顔で頬ずりして、首がもげてドボンと落ちる。
独り言がボソボソしばらくして、落ちた片腕の代わりに脇腹から2本手が生え、死骸を身体の中に入れた。
もう一羽、上からぼとりと落ちてくる。
それをすくうと、また急いで身体に入れる。
『 トモダチ、トモダチ、ミズヲ、オノミヨ、ミズヲ 』
ぱちゃん、ぱちゃん、
首の無いヤマミズノカミが水面を叩いて、グルグル回る。
身体の中には、沢山の鳥や小動物の死骸が漂っていた。
『 キミ、キミ、ゴラン、ホシガ、キレイダネ、ゴラン、ホシガ、キレイダネ
キミ、ゴラン、ゴラン、ホシガ、ホシガ、ホシガ 』
グルグル回りながら、お日様を指さす。
グルグル回るごとに泉は渦を巻き、水はあふれて周囲の草木は枯れて行く。
カワの無い泉からは水が森にあふれ、そしてその水に触れると次々としおれて生気を失った。
『 キミ、タイセツナ、キミ、ボクノ、ボクノ、ハジマリノキミ、ボクノ、ボクノ 』
同じ言葉を繰り返し、首から声だけ響く。
飛んできた鳥は蒸気に触れると死に、またその死骸をすくっては身体に入れた。
『 カワズノコガ、ウマレタヨ、ウレシイネ、キミ、ボクノ、ハジマリノキミ 』
それは、ハジマリノキミを失ったヤマミズノカミ。
孤独からオソガミになり果てた、ハレニギノヤマミズノカミだった。
ユラギカゼたちのいる場所から少し離れた森で、小鳥たちが
空を見上げて話しをしていた。
「そろそろ、雨降らないかな?」
「水浴びしたいよね。」
「ヤマミズノカミ、まだ戻らないのかな?」
「なんか探してるらしいよ。向こうの縄張りの。」
「ふうん、そう言えばいつだったかミズノカミを見かけたってだれか言ってたなあ。
何か探してたんだって。」
「見つかったら、また泉を作ってくれるかな?」
「だろうね、ここよりいい所はないもの。」
鳥たちが話しをしていると、上から声がした。
「ミズノカミが泉を作ったらしいよ。」
「ほんと?!どこに?」
「ほら、ミズクサノヤマミズノカミが死んだとこ。
ハジマリノキミが朽ちて死んで、他のミズノカミは死の臭いがするって近づかなかったのに、なんかそこに来て水場を作ってるらしいよ。」
「行ってみようよ!」
「うん!」
パタパタと鳥が嬉しそうに飛び交い、ミズクサノカミが昔いた場所へと急ぐ。
そこはミズクサノヤマミズノカミが移動した水脈を追うのをやめて、ハジマリノキミと朽ちて死んだ場所だ。
なぜ水脈を追うことを止めたのかはわからない。
ただ、運悪く病気の鹿がほとりで死んで、腐った悪気にあてられ水が濁って気力を失ってしまった。
その3つの死が重なり、良い場所では無い事だけはみんな知っていた。
でも、この辺には大きい水場がない。
そこに水場が出来るのは、みんなとても助かるので口伝いで広がっていった。
その場所は、確かに荒れ果てた泉のあとにたっぷりと水をたたえていた。
水は風が吹いても波紋さえ起きず、しんとした重い、重苦しい雰囲気の中、水音さえ立てずに日の光をギラギラと反射する。
日の光に温められて、蒸気がゆらゆらと立ち上り、どこか不気味な静けさに包まれていた。
パササ……
飛んできた鳥が、一呼吸でポトリと水面に落ちた。
ゆっくりとした波紋の真ん中で、鳥は痙攣しながら動かなくなる。
泉の中央に波紋が起きて、頭の無い、奇妙な形のヤマミズノカミが静かに浮き上がってきた。
その鳥を、水の中から指がいくつも欠けた手が現れ、すくいあげる。
『 ト、ト、モ、、ダ、チ、、キタヨ、キミ、キミ、カワイイネ、ハジマリノ、キミ 』
抑揚の無い声が、小さく、ささやくように泉から聞こえる。
やがて、背中からせり上がるように、遅れて首がにょっきり生えた。
ダラダラと、のっぺらぼうの顔らしき場所から水が流れる。
その水は水音も無く重くしぶきも上げずに泉へと流れていく。
顔の無いヤマミズノカミが水の中から浮上すると、その死骸を長い両手で大切に包み込む。
中途まですくい上げた所で、片腕が肘から落ちた。
『 ハジマリノキミ、キミ、ドコダイ?ドコ?ホラ、ホラ、トモダチダヨ 』
鳥の死骸にのっぺらぼうの顔で頬ずりして、首がもげてドボンと落ちる。
独り言がボソボソしばらくして、落ちた片腕の代わりに脇腹から2本手が生え、死骸を身体の中に入れた。
もう一羽、上からぼとりと落ちてくる。
それをすくうと、また急いで身体に入れる。
『 トモダチ、トモダチ、ミズヲ、オノミヨ、ミズヲ 』
ぱちゃん、ぱちゃん、
首の無いヤマミズノカミが水面を叩いて、グルグル回る。
身体の中には、沢山の鳥や小動物の死骸が漂っていた。
『 キミ、キミ、ゴラン、ホシガ、キレイダネ、ゴラン、ホシガ、キレイダネ
キミ、ゴラン、ゴラン、ホシガ、ホシガ、ホシガ 』
グルグル回りながら、お日様を指さす。
グルグル回るごとに泉は渦を巻き、水はあふれて周囲の草木は枯れて行く。
カワの無い泉からは水が森にあふれ、そしてその水に触れると次々としおれて生気を失った。
『 キミ、タイセツナ、キミ、ボクノ、ボクノ、ハジマリノキミ、ボクノ、ボクノ 』
同じ言葉を繰り返し、首から声だけ響く。
飛んできた鳥は蒸気に触れると死に、またその死骸をすくっては身体に入れた。
『 カワズノコガ、ウマレタヨ、ウレシイネ、キミ、ボクノ、ハジマリノキミ 』
それは、ハジマリノキミを失ったヤマミズノカミ。
孤独からオソガミになり果てた、ハレニギノヤマミズノカミだった。