耀子の兄・鉄男の幻影(3)
文字数 1,156文字
それから暫くの間、ミステリー愛好会でも、大学のキャンパスでも、僕は耀子先輩を目にすることが無くなってしまう。
別にそれは驚くべき事ではない。以前にも、その様な事は幾度となくあった。ただ今回は、僕だけでなく、誰も彼女の姿を目にしていないらしいのだ……。
つまり彼女は、本当に行方を晦ましてしまったのである。
耀子先輩が何時もいる暗い闇へ行ってみたりもした。だが、彼女の澄んだ声は聞こえて来ることはなかった……。
これが普通の時であったならば、僕もそんなには、心配をしていなかっただろう。
先輩は人間ながら、特別な能力を持っているのだ。そんな先輩が、並みの妖怪なんかに殺られる筈がない!
だが『僕が彼女の脅威だ』と耀子先輩が言った事を思い出し、僕の心に不吉な思いがムクムクと湧いて来たのである……。
耀子先輩は、自分に降りかかる危険を、何か特殊な力で感じとることが出来る……。僕は何度もそれを見ているし、僕自身、試験のヤマを張るのに、一度その力のお世話になったことがある。
彼女も、その能力には絶対の自信を持っている様で、『その力がある限り、自分は無敵だ』と豪語していた……。
僕が耀子先輩の命を脅かす訳がない。なのに何故、僕を脅威と感じたのだろうか?
以前、彼女の『危険察知』の能力が封じられたことがある。
今回、もしかすると、彼女の能力を誤らせる者が現れたのかも知れない……。
そうだとすると、これは由々しき一大事だ。耀子先輩は、自分の能力に全幅の信頼を寄せている。それを意図的に変更されたら、間接的に、彼女を操ることすら出来てしまうのではなかろうか?
そうなったら、彼女自身も無敵どころか、非常に危険な状態にあると言わなければならない。
ま、そうは言っても……、
耀子先輩は、自身の能力が僕を危険と見なしているのに、僕を排除しようとはしなかった。僕を信頼してくれているのだろう……。
ならば僕は、彼女の信頼に応えなくてはならない!
僕は、叔母にも相談してみた。
叔母は以前、奈良で巫女をしていた霊感の強い女性で、耀子先輩とも何度か会ったことがある。因みに、耀子先輩のことを『悪魔喰いの悪魔・耀公主だ』と言い出したのも、実は叔母が最初だった。
叔母の敏子は、何時もの様に、リビングのロッキングチェアに腰掛けたまま、面倒臭そうに僕の問いに答える。
「さあね……。私らなんぞじゃ、耀公主の考えは理解出来ないだろうね。彼女が姿を見せない心算なら、私たちにはとても探せないし、もう会わない心算なら、二度と会うことは出来ないだろうよ……」
「でも……、万が一、耀子先輩がピンチだとしたら……」
「私たちでは何も出来はしないさ。黙って見てるしかないね」
叔母はそう言うと、明り取りの窓から見える、巨大な盈月に目を遣るのであった。
別にそれは驚くべき事ではない。以前にも、その様な事は幾度となくあった。ただ今回は、僕だけでなく、誰も彼女の姿を目にしていないらしいのだ……。
つまり彼女は、本当に行方を晦ましてしまったのである。
耀子先輩が何時もいる暗い闇へ行ってみたりもした。だが、彼女の澄んだ声は聞こえて来ることはなかった……。
これが普通の時であったならば、僕もそんなには、心配をしていなかっただろう。
先輩は人間ながら、特別な能力を持っているのだ。そんな先輩が、並みの妖怪なんかに殺られる筈がない!
だが『僕が彼女の脅威だ』と耀子先輩が言った事を思い出し、僕の心に不吉な思いがムクムクと湧いて来たのである……。
耀子先輩は、自分に降りかかる危険を、何か特殊な力で感じとることが出来る……。僕は何度もそれを見ているし、僕自身、試験のヤマを張るのに、一度その力のお世話になったことがある。
彼女も、その能力には絶対の自信を持っている様で、『その力がある限り、自分は無敵だ』と豪語していた……。
僕が耀子先輩の命を脅かす訳がない。なのに何故、僕を脅威と感じたのだろうか?
以前、彼女の『危険察知』の能力が封じられたことがある。
今回、もしかすると、彼女の能力を誤らせる者が現れたのかも知れない……。
そうだとすると、これは由々しき一大事だ。耀子先輩は、自分の能力に全幅の信頼を寄せている。それを意図的に変更されたら、間接的に、彼女を操ることすら出来てしまうのではなかろうか?
そうなったら、彼女自身も無敵どころか、非常に危険な状態にあると言わなければならない。
ま、そうは言っても……、
耀子先輩は、自身の能力が僕を危険と見なしているのに、僕を排除しようとはしなかった。僕を信頼してくれているのだろう……。
ならば僕は、彼女の信頼に応えなくてはならない!
僕は、叔母にも相談してみた。
叔母は以前、奈良で巫女をしていた霊感の強い女性で、耀子先輩とも何度か会ったことがある。因みに、耀子先輩のことを『悪魔喰いの悪魔・耀公主だ』と言い出したのも、実は叔母が最初だった。
叔母の敏子は、何時もの様に、リビングのロッキングチェアに腰掛けたまま、面倒臭そうに僕の問いに答える。
「さあね……。私らなんぞじゃ、耀公主の考えは理解出来ないだろうね。彼女が姿を見せない心算なら、私たちにはとても探せないし、もう会わない心算なら、二度と会うことは出来ないだろうよ……」
「でも……、万が一、耀子先輩がピンチだとしたら……」
「私たちでは何も出来はしないさ。黙って見てるしかないね」
叔母はそう言うと、明り取りの窓から見える、巨大な盈月に目を遣るのであった。