鬼(3)

文字数 1,153文字

「どうだ? 俺は鬼だ。人食い鬼が人を食って何が悪い?」

 鬼? 鬼など実在するのだろうか……?

 だが、現実に自称悪魔の耀子先輩や、本体を見たことなどはないが、妖狐と名乗る沼藺(ぬい)ちゃん……。これまで僕は、幾度となく人外と名乗る人たちを見てきている。
 勿論、僕は、前世が何であろうと先輩は間違いなく人間だと思っている。だが、本人たちが人間と違うと言えば、確かに、一般の人間とは異なった能力を持っている点で、その人たちを人外と呼ぶことも可能だろう。
 そう云う意味では、この自称鬼の男も、角を見せたことで、鬼であることを証明したと云っても良いのではなかろうか?

 だが、耀子先輩は角があるにも関わらず、彼を鬼とは認めていない様だった……。

「鬼? 私には人間にしか見えないわ」
「お前の目は節穴か? ま、俺も元は人間として生きてきた。ガキの頃、不思議な力を使う俺は、近所の奴らに気味悪がられて、良く苛められたものだった。
 奴らも分かっていたんだろうな、俺が人間の仲間で無いことを……」
「……」

「だが……、俺は苛められる理由が分からなかった。だから俺は、不思議な力の原因を探した。神秘主義者の集まりにも参加した。古代の文献もあたった。
 そして、やっと分かったのだ。俺は鬼の遺伝子を持った者だとな。そして、鬼として行動すれば、獣が野生に帰る様に、俺も一人前の鬼になれると……。
 俺は人を食った。殺して食った。調理法も独学で学んだ。そうしているうちに、俺の体に変化が現れた。それが、この角だ。俺に角が生えてきた……。あと少しだ。だが人食いは、なかなか難しい……」
「それはそうでしょうね……」

「俺はとある切っ掛けで、マスターと云う人肉食マニアと出逢い、彼に料理を作ることで、金銭的な協力を得ることが出来た。
 金の力とは恐ろしい……。鬼の能力以上だ。人が何人いなくなろうが、全て金で解決できる。死んだ人間を、食材として1頭買いすることだって出来た。
 ただ、俺もマスターも、それだけでは満足できなくなっていった。
 そう云う、養殖ものの人間の死体では駄目なのだ! 生きた人間、それも、自分が殺されて食われるなんて、生まれてから一度も想像したことのない、幸せそうな奴を生きたまま調理する。この快感を忘れることが出来なくなっていたのだ……。
 面白いぞ!
 こいつらは、最初は冗談だと思って先ず信じない。冗談でないと分ると、次は暴れて泣き叫ぶんだ。俺はそいつらを、少しずつ、死なない様に、慎重に切り刻むんだ……。そして、そいつらは、助からないと分ると、悲しそうな目になって、最後に涙を溜めたまま、息絶えて行く……。
 マスターや、その仲間も、それをじっと見て、目を輝かせて喜んでいるんだ。
 どうだ? お前も、また人間を食いたくなったんじゃないか?」
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

加藤亨


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部四回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

白瀬沼藺


要耀子の高校時代の友人。

月宮盈


要耀子に耀公主の力を与えた初代耀公主。

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