罪なき者、先ず石を擲て(3)
文字数 1,842文字
耀子先輩の、恐らく前世の記憶であろうが、彼女の悠久の歴史の一部を、僕は覗くことが出来た……。
大悪魔として旅をしながらも、何か満たされない生活。心休まるのは友人たちと練習する格闘術の時間、そして兄との語らい。
そうだ、お兄さん……、鉄男さんだ。
転生して赤ん坊だったり、成長して大人だったり、でも、確かに写真の人だ。耀子先輩は僕に嘘を吐いていたんじゃない。ちゃんと鉄男さんの写真を見せていたんだ……。
でも、先輩が最後に指さしたのは、高田君の方ですよ。兄さんは、こっちの人だったじゃないですか……。
(そう……。要鉄男ってのは、幸四郎といる今の世界での彼の名前よ……。今は、何処の誰なのかも分からない)
耀子先輩とお兄さんは、前後左右、上下まで星空の世界を手を取り合って逃げて行く。そうだった、僕とお兄さんは、大悪魔から逃げ出したんだった……。
悪魔が嫌になったから? それもある。
生きた人間を食べるのが可哀想だったから? それも間違いでは無い。
でも、何か、もっと、前向きなものだった。何か、夢があった。そう、何か、細 やかな、それでいて大それた夢……。
(前に話したでしょう……?
私、人間になってみたかったの。それと、仲間が欲しかったの。独りぼっちじゃないって言える様な仲間が……)
そうか……、
それが、細 やかで、大それた夢か。
耀子先輩は中学生になっていた。これは今いる世界だ。人間として、ご両親と暮らして、普通の学生生活を送っている。
先輩と鉄男さんは生まれ変わって、人間になれたんだ……。
それに、親切そうなご両親。2人とも、とっても幸せそうじゃないか……。
(幸四郎、秘密なんて無いって言ったけど。中学3年の時の記憶を覗くのは止めて欲しいな。私の初恋って云うのか、しまっておきたい大切な思い出なの……)
確かに、人には自分の胸にだけ納めておきたい大事な記憶って物がある。少し惜しい気もするけど、僕はそれを覗くのだけは我慢することにした。
高校になると……、あまり変わらないなぁ。お兄さんは相変わらず、ぼーっとしているし、高田君は何考えているか分かんない。親友の早苗は、可愛い顔して、また馬鹿言ってるし……。
これは、白瀬沼藺 ちゃんが転校してきた日のことだ……。何? 鉄男さん、沼藺 ちゃんを見て真っ赤になってる。なんか、懐かしいなぁ……。
そうだ、今度の事件だ!
どうしてこんなことに……。
僕の前には、月宮盈が腕を組んで難しそうな表情で立っている。
「耀子、考え直せ。お前が1人で行っても、あいつらは感付いて出て来ない。私が何回も試している。能力を全て封じる腕輪をしても、あいつらは出て来なかった。奴らの仲間に予知能力か、私たちの様に『危険察知』の能力を持った奴がいるのだ」
「それは外せる腕輪だったからでしょう? テンキーの無い、外せない腕輪を作ってくれれば、もう人間と同じ。奴らだって、私を普通の人間だと思うわ」
「耀子! 自分の言っていることが分かっているのか? 人間として捕まると云うことは、食われに行くと言うことなのだぞ!
それに、そうなると、お前は十人並みの強さになって、私の脅威では失くなってしまう。それでは私は、耀子を検知出来ず、助けに行く事も出来ないのだぞ!」
「分かってる。ひとりで何とかする!」
「橿原君と言ったか……? 彼を囮にすれば、耀子が探し出して助けに行ける。耀子が『絶対に彼を殺させない!』 そう云う気持ちで闘えば良いではないか? 大刀自の指示通り琰だって渡してある。彼に憑依さえすれば、彼の肉体を守ることも出来るのだ……。
それでも、もし、彼が死ぬ様なことになったら、男を守れない様な情けない女悪魔、私が殺してやる。
それで、彼だけで無く、耀子も命賭けの闘いになるだろう? それで我慢しろ!」
「あなたが私の立場だったら、1%でも死ぬ危険にある場所に、黙って彼を囮に行かせるの? そうやって、確率を計算しながら、男の人と付き合っているの?」
月宮盈は、それを聞いて考え込んでいる様だった。そして、溜息をひとつ吐いた。
「相変わらず、計算ひとつ出来ない愚か者だな、耀子は……。勝手にしろ! 腕輪は造ってやる。
だが、囮にする作戦は、政木大全たちが既に準備を終えている。もう止めることなど出来ないぞ。その前に、奴らの組織を壊滅させてしまうんだな……」
(でも残念なことに、腕輪より先に幸四郎がフィールド調査に出ちゃったのよ……。ぎりぎりだったんだけどね……)
大悪魔として旅をしながらも、何か満たされない生活。心休まるのは友人たちと練習する格闘術の時間、そして兄との語らい。
そうだ、お兄さん……、鉄男さんだ。
転生して赤ん坊だったり、成長して大人だったり、でも、確かに写真の人だ。耀子先輩は僕に嘘を吐いていたんじゃない。ちゃんと鉄男さんの写真を見せていたんだ……。
でも、先輩が最後に指さしたのは、高田君の方ですよ。兄さんは、こっちの人だったじゃないですか……。
(そう……。要鉄男ってのは、幸四郎といる今の世界での彼の名前よ……。今は、何処の誰なのかも分からない)
耀子先輩とお兄さんは、前後左右、上下まで星空の世界を手を取り合って逃げて行く。そうだった、僕とお兄さんは、大悪魔から逃げ出したんだった……。
悪魔が嫌になったから? それもある。
生きた人間を食べるのが可哀想だったから? それも間違いでは無い。
でも、何か、もっと、前向きなものだった。何か、夢があった。そう、何か、
(前に話したでしょう……?
私、人間になってみたかったの。それと、仲間が欲しかったの。独りぼっちじゃないって言える様な仲間が……)
そうか……、
それが、
耀子先輩は中学生になっていた。これは今いる世界だ。人間として、ご両親と暮らして、普通の学生生活を送っている。
先輩と鉄男さんは生まれ変わって、人間になれたんだ……。
それに、親切そうなご両親。2人とも、とっても幸せそうじゃないか……。
(幸四郎、秘密なんて無いって言ったけど。中学3年の時の記憶を覗くのは止めて欲しいな。私の初恋って云うのか、しまっておきたい大切な思い出なの……)
確かに、人には自分の胸にだけ納めておきたい大事な記憶って物がある。少し惜しい気もするけど、僕はそれを覗くのだけは我慢することにした。
高校になると……、あまり変わらないなぁ。お兄さんは相変わらず、ぼーっとしているし、高田君は何考えているか分かんない。親友の早苗は、可愛い顔して、また馬鹿言ってるし……。
これは、白瀬
そうだ、今度の事件だ!
どうしてこんなことに……。
僕の前には、月宮盈が腕を組んで難しそうな表情で立っている。
「耀子、考え直せ。お前が1人で行っても、あいつらは感付いて出て来ない。私が何回も試している。能力を全て封じる腕輪をしても、あいつらは出て来なかった。奴らの仲間に予知能力か、私たちの様に『危険察知』の能力を持った奴がいるのだ」
「それは外せる腕輪だったからでしょう? テンキーの無い、外せない腕輪を作ってくれれば、もう人間と同じ。奴らだって、私を普通の人間だと思うわ」
「耀子! 自分の言っていることが分かっているのか? 人間として捕まると云うことは、食われに行くと言うことなのだぞ!
それに、そうなると、お前は十人並みの強さになって、私の脅威では失くなってしまう。それでは私は、耀子を検知出来ず、助けに行く事も出来ないのだぞ!」
「分かってる。ひとりで何とかする!」
「橿原君と言ったか……? 彼を囮にすれば、耀子が探し出して助けに行ける。耀子が『絶対に彼を殺させない!』 そう云う気持ちで闘えば良いではないか? 大刀自の指示通り琰だって渡してある。彼に憑依さえすれば、彼の肉体を守ることも出来るのだ……。
それでも、もし、彼が死ぬ様なことになったら、男を守れない様な情けない女悪魔、私が殺してやる。
それで、彼だけで無く、耀子も命賭けの闘いになるだろう? それで我慢しろ!」
「あなたが私の立場だったら、1%でも死ぬ危険にある場所に、黙って彼を囮に行かせるの? そうやって、確率を計算しながら、男の人と付き合っているの?」
月宮盈は、それを聞いて考え込んでいる様だった。そして、溜息をひとつ吐いた。
「相変わらず、計算ひとつ出来ない愚か者だな、耀子は……。勝手にしろ! 腕輪は造ってやる。
だが、囮にする作戦は、政木大全たちが既に準備を終えている。もう止めることなど出来ないぞ。その前に、奴らの組織を壊滅させてしまうんだな……」
(でも残念なことに、腕輪より先に幸四郎がフィールド調査に出ちゃったのよ……。ぎりぎりだったんだけどね……)