囚われの二人(2)
文字数 1,701文字
耀子先輩は鉄格子の前までやって来て、正面を向いて割座(俗に云うトンビ座り)で腰を下ろした。そして、僕にこっちに来るように手で合図をする。
僕の前だと云うのに、耀子先輩は何も隠そうとしない。自然に、あるがままにそこに座っている。男の僕の方が恥ずかしがるなんて、そんな失礼なこと出来る訳がない。僕は敢えて何も隠さず、耀子先輩の正面に胡坐 を掻いて座った。
耀子先輩はそんな僕を見て、にっこりと微笑んでいる。
「幸四郎、ご免ね。結局、幸四郎を捲き込んじゃったね……」
「そんな……、僕が望んだんです」
「私なんかと付き合ってなければ、こんなことには、ならなかったのに……。幸四郎と始めて出逢った時、私が声を掛けたばかりに、こんなことになっちゃって……」
「耀子先輩のせいじゃ無いです。それに、僕は東京に出てきて、本当に良かったと思っています。だって、こんなに素敵な女性と友達になれたんですから……」
そして、調子に乗った僕は、余分なことまでつい口にしてしまう。
「耀子先輩、素敵です。先輩の身体、とても美しいです。僕は先輩と出逢えて、本当に幸せです」
僕は酷く後悔した。だが、そんな失礼な台詞にも、先輩は優しく包み込んでくれる。
「幸四郎、あなたも逞しくて素敵よ」
僕はそれを聞いて、身体の一部がより逞しくなりそうだった。もう、ここが牢屋であることすら僕は忘れそうだ。
このまま鉄格子を突き破り、耀子先輩のいる向う側の部屋へ、直ぐにでも跳び込んで行きたい! 僕の衝動は抑えきれないくらい高まっていた。
「でも、私思うの。幸四郎って、どうして、私なんかに構うのかって……」
え? そんなこと?
いつも言ってる筈なんだが……。
「幸四郎はハンサムで格好いいけど、私なんか、誰からも愛されない、我儘で身勝手な嫌われ者。幸四郎の周りには、私より美人なんて何人もいるし、可愛い娘 だって沢山いる。不細工で性格の悪い私なんかより、素敵な人はいっぱいいるじゃない? 絶対あり得ないわよね……。
だから、幸四郎は私を揶揄ってるのか、単に同情してくれている。そう云う風に私思う様にしているの。それでもね、本当はやっぱり嬉しいのよ。でも、もしかしたら、本気なのって、そう思う時だってあるの……」
「もう、何度言わせるんですか?! 僕は耀子先輩を、本気で好きなんですよ!!」
耀子先輩は、僕の告白に少し驚いた様な表情を見せた。
しかし、これ迄、何度好きだと言ったと思っているんだ? いまさら驚くか……?
「嬉しい! うん、嘘でもいい! こんな状況でも、そんな風に言ってくれる幸四郎って、私大好きよ。そうね、信じたい。嘘でも信じていたい!!」
「だから、なんで僕が嘘を言うと思うんです? 最初に見た時から、僕は耀子先輩の虜なんです。それが何で分からないんですか? 耀子先輩の方こそ、僕をいつも揶揄っているじゃないですか?」
僕の不満気な表情を見て、耀子先輩は泣き笑いの様な妙な表情で、僕にその理由を説明してくれた。
「私ね、ずっと恋をしたことが無かったの。何年も、何百年も、何万年もよ。勿論、性行為はしていたわ、自分の快楽の為に……。
でも、普通の人間の様に、異性を好きになって、一緒に歩いたり、食事をしたり、デートをしたりって経験が、悪魔時代には一度も無かったの……」
耀子先輩は不思議なことを語り出した。
それは、耀子先輩の潜在意識が造り出した。仮想的な前世の記憶なのかも知れない。だが、それでも、僕は否定せず、唯、聴くことにした。
「だから、紛い物かも知れないけど、幸四郎と恋人同士の様にしているのは、本当に楽しかった。でも、それと同時に不安でもあったの……。結局、これは全部紛い物で、直ぐに消えてしまう幻なんだって……。
だから、その時泣かない様に、嘘だと思っておかなくちゃいけないんだって……。ずっと、そう思っていた……」
「耀子先輩……」
「ありがとう、幸四郎。うん、信じる。死ぬまでそう思っていられたら、私幸せだもん。だから、幸四郎だけは、私が死んでも護るからね。安心して!」
僕は高田慎太郎のことが、ほんの少し気になったが、今は考えないことにした。
僕の前だと云うのに、耀子先輩は何も隠そうとしない。自然に、あるがままにそこに座っている。男の僕の方が恥ずかしがるなんて、そんな失礼なこと出来る訳がない。僕は敢えて何も隠さず、耀子先輩の正面に
耀子先輩はそんな僕を見て、にっこりと微笑んでいる。
「幸四郎、ご免ね。結局、幸四郎を捲き込んじゃったね……」
「そんな……、僕が望んだんです」
「私なんかと付き合ってなければ、こんなことには、ならなかったのに……。幸四郎と始めて出逢った時、私が声を掛けたばかりに、こんなことになっちゃって……」
「耀子先輩のせいじゃ無いです。それに、僕は東京に出てきて、本当に良かったと思っています。だって、こんなに素敵な女性と友達になれたんですから……」
そして、調子に乗った僕は、余分なことまでつい口にしてしまう。
「耀子先輩、素敵です。先輩の身体、とても美しいです。僕は先輩と出逢えて、本当に幸せです」
僕は酷く後悔した。だが、そんな失礼な台詞にも、先輩は優しく包み込んでくれる。
「幸四郎、あなたも逞しくて素敵よ」
僕はそれを聞いて、身体の一部がより逞しくなりそうだった。もう、ここが牢屋であることすら僕は忘れそうだ。
このまま鉄格子を突き破り、耀子先輩のいる向う側の部屋へ、直ぐにでも跳び込んで行きたい! 僕の衝動は抑えきれないくらい高まっていた。
「でも、私思うの。幸四郎って、どうして、私なんかに構うのかって……」
え? そんなこと?
いつも言ってる筈なんだが……。
「幸四郎はハンサムで格好いいけど、私なんか、誰からも愛されない、我儘で身勝手な嫌われ者。幸四郎の周りには、私より美人なんて何人もいるし、可愛い
だから、幸四郎は私を揶揄ってるのか、単に同情してくれている。そう云う風に私思う様にしているの。それでもね、本当はやっぱり嬉しいのよ。でも、もしかしたら、本気なのって、そう思う時だってあるの……」
「もう、何度言わせるんですか?! 僕は耀子先輩を、本気で好きなんですよ!!」
耀子先輩は、僕の告白に少し驚いた様な表情を見せた。
しかし、これ迄、何度好きだと言ったと思っているんだ? いまさら驚くか……?
「嬉しい! うん、嘘でもいい! こんな状況でも、そんな風に言ってくれる幸四郎って、私大好きよ。そうね、信じたい。嘘でも信じていたい!!」
「だから、なんで僕が嘘を言うと思うんです? 最初に見た時から、僕は耀子先輩の虜なんです。それが何で分からないんですか? 耀子先輩の方こそ、僕をいつも揶揄っているじゃないですか?」
僕の不満気な表情を見て、耀子先輩は泣き笑いの様な妙な表情で、僕にその理由を説明してくれた。
「私ね、ずっと恋をしたことが無かったの。何年も、何百年も、何万年もよ。勿論、性行為はしていたわ、自分の快楽の為に……。
でも、普通の人間の様に、異性を好きになって、一緒に歩いたり、食事をしたり、デートをしたりって経験が、悪魔時代には一度も無かったの……」
耀子先輩は不思議なことを語り出した。
それは、耀子先輩の潜在意識が造り出した。仮想的な前世の記憶なのかも知れない。だが、それでも、僕は否定せず、唯、聴くことにした。
「だから、紛い物かも知れないけど、幸四郎と恋人同士の様にしているのは、本当に楽しかった。でも、それと同時に不安でもあったの……。結局、これは全部紛い物で、直ぐに消えてしまう幻なんだって……。
だから、その時泣かない様に、嘘だと思っておかなくちゃいけないんだって……。ずっと、そう思っていた……」
「耀子先輩……」
「ありがとう、幸四郎。うん、信じる。死ぬまでそう思っていられたら、私幸せだもん。だから、幸四郎だけは、私が死んでも護るからね。安心して!」
僕は高田慎太郎のことが、ほんの少し気になったが、今は考えないことにした。