人間料理(4)

文字数 2,024文字

 耀子先輩は、この看守の料理人の提案に暫く考えている様であった。そして、結局は僕が一番恐れている結論を出したのである。
 だが、それはもう最初から明白なことだった。ここで、僕を危険に晒してでも闘えるものだったら、耀子先輩は最初から、僕のみを囮に使って、80%の確率に賭けていた筈だ。それが出来ない耀子先輩が、他の選択を出来る訳がない……。

「分かったわ。約束だったわね。いいわ、今度は私が食事代を払う番。結局、そう云う運命だった様ね……」
 耀子先輩はそう言うと、構えを解いて両腕をだらりと下げる。料理人はそれを見て、耀子先輩を捉えていた男達に顎で指図をした。
 男2人は耀子先輩の両腕を、今度は二度と逃すまいとばかりに、力を込めて抱え込む。しかし、その必要は無い様だった。耀子先輩は口元に笑みを浮かべたまま、何も抵抗しようとはしなかった。
 耀子先輩は、結局、この舞台に登場した時と同じ状態に戻ってしまった……。
 僕のせいで……。

 男たちは、もう無抵抗の耀子先輩を、ダブルベッドのサイズはある俎板の上に、仰向け寝かせ押さえつけた。そして、先ず右手を横に開かせ、直径1センチの太さはあろうかと云う鉄の杭で、掌の真ん中を打ちつける。
 僕は、彼らが大きな槌でその杭を打ち込むのを見ることが出来ず、思わず目を逸らしていた。だが、俎板を叩いた槌の音と、耀子先輩の思わず漏らした苦痛の叫びに、それが何時打ち込まれたか、嫌でも知らされることになる。同様に、腕輪を嵌めた方の左掌も、俎板の上に串刺しにされたらしい。
 そして、今度は両足を俎板に打ち着ける心算の様だ。足は掌の様には行かないらしく、脛の所で腓骨と脛骨の間に杭を打ち込んでいる。意地っ張りの耀子先輩ではあったが、これには、流石に苦痛の悲鳴を上げずにはいられなかった様だった……。
 こうして耀子先輩は、仰向けに両手両足を大きく広げられた大の字の格好で、捌かれる前の鰻の様に目打ちされ、無残にも磔にされてしまったのである……。

 ゲストたちは騒動に肝を冷やした様だったが、最後に耀子先輩が観念し、俎板に打ちつけられたを見て、口々に勝手なことを喋り出している。
「若くて生きの良い女か……、儂は小陰唇を薄造りにして湯引きした物が大好きでな、是非、それを作ってくれんかなぁ」
「おい、そこは儂が先約じゃ。小陰唇(それ)(タン)に見立てて、ネギ塩で焼いて貰うことで話が通っちょる。ここは希少部位じゃ、何時もお主が独占するのは狡いぞ。じゃが、ちゃんと消毒は出来ておるのじゃろうな?」
 それが聞こえたのか、心得たりとばかりに、看守の料理人が答える。
「ええ、この女、なかなか肝が据わっておりましてね、自ら陰毛の処理をした上で、小陰唇どころか、膣も肛門も自分でちゃんと消毒液で掃除してくれましたよ。いつもこうだと良いのですがね」
「当然でしょう? 腕、脛、脇の無駄毛だけじゃなく、VIOゾーンのお手入れも女の子の基本よ」
 耀子先輩は苦痛に(うめ)きながらも、無理して軽口を叩いていた。
「じゃ、そろそろ腕輪を爆発させて貰おうかしら。この腕輪は私の神経と繋がっていて、実は何時でも爆発させることが出来るのよ」
「おい、そ、その物騒な、腕輪は……、腕ごと……、き、切り落としてしまえ!」
 ホストの男が、看守の料理人に指差しながらそう叫ぶ。そして、その指先は恐怖を感じていたのか、小刻みに震えていた。
 だが、看守の料理人は、それに従おうとはしなかった……。
「マスター。この腕を切り落とし、腕輪を離したら、ここにいる全員助かりませんよ。これはこの女、耀公主の力を封じている魔封じの腕輪なのですからね……」

 耀子先輩は、一瞬驚きの表情を浮かべた。しかし、それも直ぐに元の、悟った様な表情へと戻っていく。
「あなたは……、知ってたのね……。そうか、相手の強さを量ることの出来る霊能力者って、あなたのことだったのか……」
「ああ、そうだ。俺には小さい頃からそう云う能力があった。だから、そう云う霊能力者の世界にも興味を持っていた。そして、その世界の仲間から、美しくも恐ろしい化け物で、耀公主ってのがいるって噂を、俺は以前から聞いていたんだ。
 だから、お前じゃない方の耀公主が現れた時、直ぐに分かったぜ……。この強さ、こいつが耀公主だってな。
 だが、2度目は強くなかった、3度目は普通の人間と変わらなかった。俺は不思議に思った。それで女を追けてみた。
 理由が分かったよ。腕輪を外すと元のとんでもない強さに戻ったんだ。耀公主っては、この腕輪で能力を封じてるんだってな」

「もう、あのエロ年増! どうして黙って追けられるのよ!」
「そりゃ、腕輪をしてたからだろう? だが、それで俺は理解した。耀公主であっても、腕輪を外させなければ人間と変わらない。俺でも料理が出来るとな……。
 そこに、お前が現れたと云う寸法さ……」
「……」
 耀子先輩は苦痛の為か、それに対し、言葉を返そうとはしなかった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

加藤亨


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部四回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

白瀬沼藺


要耀子の高校時代の友人。

月宮盈


要耀子に耀公主の力を与えた初代耀公主。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み