鬼(1)

文字数 1,439文字

 僕(耀子先輩)が目を開くと、目の前に月宮盈の姿があった……。
 そうか。僕に憑依したことで、腕輪の呪縛から離れ、耀子先輩は自身の大悪魔能力を復活することが出来たんだ……。それで月宮盈も、先輩を検知できたのに違いない。
 場所は……、
 どうやら先程の舞台の上の様だ。しかし、妖しい目出し帽のホストやゲストは、もう誰ひとり、テーブルに座ってはいない。

「おふたりさん……、性交(セックス)の途中で悪いんだけど、仕事よ」
「何言ってるのよ! そんなことしてないでしょう?」
 僕(耀子先輩)は、月宮盈の台詞に真っ赤になって抗議する。
「あら、性交(セックス)の基本は細胞の接合。ゾウリムシの様な単細胞生物の昔から、お互いの遺伝子を交換することが目的で性交(セックス)は行われているのよ。つまり分かり易く云うと経験の共有ね。あなたがたがしていたのは、記憶と云う経験の共有。これはつまり、セックス以外の何物でもないでしょう?」
 しかし……、そう云う解釈も出来るのか。

「分かったわ。はいはい、私は幸四郎と性交(セックス)してました。で、何をするの? もう粗方片付いているみたいだけど……」
「もう少し、嬉し恥ずかしそうな顔して喜びなさいよ……」
 そう言って、月宮盈は詰まらなさそうに溜息を吐いた。

「耀子には、あいつの裁きを任せるわ。今、そこの出口から逃げ出した所だから」
 あいつ? ホストのことか? それとも看守の料理人か?
「どうしたら良いの? あいつを殺せって云う指示かしら?」
「今回の件に関しては、耀子の判断に任せるそうよ。殺したら、組織の方で死体を処理するし、逃すのだったら、これ以前のあいつの罪は不問にする。今はあいつが逃げられない様に取り囲んでいるけど、耀子が許すのだったら包囲網は解かれるわ」
「分かった。私が処理する……」

 僕(耀子先輩)は、後ろを向くと、月宮盈を置いて出口へと走った。どうやら出口は、この食堂の大広間から出た廊下にある2つ目の左、エントランスに出て、正面の扉の先にあるらしい。

 正面扉を出ると、扉を中心に半径5メートル程の広さの、ドームの様に煉瓦塀で囲われた広場に出た。そこは暗く井戸の底の様な場所であった。それが井戸と違うのは、この半円形の場所には天井があること、そして扉の先に幅1メートル、高さ2メートル程度の通路が続いていることであった。
 僕(耀子先輩)は、人ひとり通れる煉瓦で出来たこの通路をどんどん先へと走って行く。そして、だんだんと正面に通路の終わりが見えてきた。
 正面に、やはり煉瓦で出来た塀があり、そこで通路は終りになっている。だが、 僕(耀子先輩)は、そんなもの無いかの様に壁に体当たり……。
 それは、回転扉の様になっていて、僕の体は通路の外へと飛び出していた。

 そこは薄明るい隧道(トンネル)で、2車線の車道を持っている様だった。
(ここは?)
(どうやら……、ここは、昭和第一トンネルの様ね……)
(昭和第一トンネル?)
(そう、通称大正のトンネル。成程ね、明治のトンネルで『祥白童子』の事件を起こして、そっちに目を向けさせて置き、実際は大正トンネルの脇に秘密の隠れ家を建設していたって訳か……。
 確かに、拉致した食材を人目に付かない様に運ぶには近くて好都合。それに、こっちはバイパスに使う車以外、好事家も含め、滅多に人は通らないしね……)

 僕(耀子先輩)は話の途中から、大正トンネルのことなど、もうどうでも良くなっていた。その理由は簡単だ。僕(耀子先輩)の視線の先、隧道(トンネル)の出口に黒い人影が浮かび上がって見えたからだ。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

加藤亨


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部四回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

白瀬沼藺


要耀子の高校時代の友人。

月宮盈


要耀子に耀公主の力を与えた初代耀公主。

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