鬼(4)

文字数 1,443文字

 そう言えば……、
 古事記か何かに

と云う様な名前の渡来人の記載があった気がする。
 もし、そう云う形質を持った人間が先祖にいるなら、何かの拍子に角が生えてきたとしても、別段不思議なことではないだろう。
 この男は、そう云う遺伝的体質を持った者だったのかも知れない。

 考えてみると……、
 

は単なる渡来人としてではなく、特別な能力の持ち主として(あが)められていたのではないだろうか? そして、そう云う人たちのことを、古代の人は鬼と呼んで、恐れ敬っていたのかも知れない。

「うん。私、決めた!」
 僕(耀子先輩)は、それまでの重荷を下ろしたかの様に微笑んだ。
「でも、その前に……。
 あなた、普通の人間よ。それ、角じゃないわ。人間って刺激を与え続けると、骨が変形したり、皮膚が角質化することがあるのよ。
 あなた、自分を鬼だと信じ込み、いつか角が生えてくるものと思いこんだ……。
 だから、針で突いたか何かして、角が出て来ないかを毎日確認してたんじゃない?
 それが偶然か意図したものか、私には分からないけど……。恐らく、それに由って皮膚が角質化し隆起したのね」
「な、何だと……?」
「それが隆起した時は、あなた、(さぞ)や嬉しかったでしょうね……。また、マスターとか云う人物を騙すのにも、その突起は随分と重宝したんじゃないかと思うわ……。だって、目の前に、人を食べて鬼になった実例があるんですもの」

「確かに、俺は額を針で突いた! だが、それと角とは関係ない!」
「ま、確かに、角であっても、角でなくても、全然関係ないけどね……。あなたが人間であろうと、鬼であろうと、私は、あなたを殺すことにしたんだから……」
「人食いのお前が、俺を罰すると云うのか? 何の権利があって……」

 あいつの首は、その台詞を言い終える前に、宙を舞っていた。

 僕(耀子先輩)は右手に持った(いつの間に持ったんだ?)逆反りの刀……。確か、「布津御魂剣(ふつみたまのつるぎ)」と云う名の刀を、さっと横殴りに振っていたのである。

 しかし、それにしても……。
 あいつとは、5メートル以上は離れていた筈だ。しかし、今、あいつの首の無い体とは1メートルも離れていない。ただ、首だけが遠くへと飛んで落ちている。

「吹っ切れたわ……。私は人間に成ろうと、無理していたみたい……。
 私は所詮、人食い悪魔……。確かに、あなたの罪を罰することなど、到底、私には出来ないわ。でもね、正義とか裁きとか、そう云うことじゃないのよ。私、あなたを殺したくなった。唯、それだけのことなの……」
 そして、耀子先輩は、自分に言い聞かせる様にこう呟いた……。
「だって、悪魔は欲望の儘に生きる……。それが自然な姿なんですもの……」

 相手の強さを感知できる2人……。
 1人は人間として生まれ、人を食って鬼と成ろうとした。1人は人食い悪魔として生まれ、人を食うのを止めて、人間として生まれ変わった。僕には、この2人がコインの裏表の様に思えて仕方がない……。

 こうして全ては終わった……。
 看守の料理人は頸を跳ねられ死んだ。
 そして今、僕(耀子先輩)はトンネルの端に座り込んでいる……。
 超人耀公主にも、最後の時が訪れようとしていたのだ。

(ご免ね、幸四郎。大悪魔の回復力でも、この薬の解毒は無理だったみたい……)
(いいですよ……。じゃ、一緒にあの世で暮らしましょうか?)
(そうね、それも悪くないわね……)

 僕(耀子先輩)はゆっくりと目を閉じ、静かに眠りに落ちていく。永遠の安息に誘われたかの様に……。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部四回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会所属。

加藤亨


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部四回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部四回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

白瀬沼藺


要耀子の高校時代の友人。

月宮盈


要耀子に耀公主の力を与えた初代耀公主。

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