耀子の罠(5)
文字数 2,090文字
だが、当然、彼女はそう云う意味で言っているのではない。
彼女は妖怪狐の王家の一族……。何か信託を
「耀子先輩のことだね」
「ええ、そうよ。耀子ちゃんについて、あなたに説明して、誤解があるのだったら、それを解いた方が良いと思ったの……」
「誤解……? そうだ! 耀子先輩は何を考えているんだ?!」
「耀子ちゃんが何を考えているかは、私にだって分からないわ……。
訊ねようにも、大刀自様たちと耀子ちゃんで意見が食い違っていて、耀子ちゃんは今、どっかに雲隠れしちゃってるらしいのよ」
僕は少々落胆した。
これでは教えないと言っているのと、何も変わらないじゃないか……。
「私があなたに伝えたいのは……、
耀子ちゃんは間違っているけど、あなたの為に頑張っているってこと……。それだけは信じてあげて欲しいの……」
「そんなこと、
大人げなくも、僕は思わず少女に大声を上げてしまう。それで、周りの視線が、一気にこちらに集中した。
「ご免、つい大声を出しちゃって……」
「だよね。あなた、そう云う人だもん」
確かに、それは否定できない。彼女に何をされても、結局、僕は耀子先輩を信じ続けているんだ。
「今回のことは、隠密捜査なので、詳しく説明できないの。だから、簡単な説明になるけど許してね……」
「はぁ」
「大刀自様たちは今、とある邪悪な組織を壊滅させようと考えているの……。
でね、大刀自様と盈さんは、あなたに囮になって貰って、その組織に捕まった振りをして、敵のアジトに潜入してくれるように依頼しようと考えていたのよ。
もし、あなたが危機に陥っても、その時は耀子ちゃんが、それを検知することが出来るでしょう? そしたら、耀子ちゃんが場所を特定して、全員で討ち入ればいいんだもん。
でも、それを彼女は拒否したの……。
耀子ちゃん、自分1人で囮捜査するって言い張って、あなたを囮にさせない様に、旅行までさせようとしていたのよ……。
なんで、耀子ちゃんがそこまで意固地になるのか、本当に分からないわ……」
「僕が囮に? それで、その組織を壊滅できるのか?」
「大刀自様の推測によると……、
あなたが囮となった場合、あなたが死ぬ確率は、せいぜい20%で、敵のアジトを検知できる確率は
耀子ちゃん1人で潜入した場合、耀子ちゃんが殺される確率が90%くらい。それで耀子ちゃんが殺されたら、敵のアジトが何処に在るかも分からなくなる……。
ね、なんで耀子ちゃんが拒否するか、全然分からないでしょう……?」
まぁ、終わったことだから、もう良いが、流石に僕も、少し
そして同時に、ちゃんと説明してくれなかったと云う不満はあったが、この件に関し、僕は耀子先輩を許す気になっていた。
そんな事より、寧ろ僕は、こっちの方が気になっている。
「何か、大体分かってきた。で、こっちも聞きたいのだけど、
「高田君? 高田君は、耀子ちゃんが中学に編入してきた時からの友達で、ミステリーサークルに一緒にいた人だよ。中高一貫校だったから、2人とも同じ高校に進学したの。だから、4年ちょっとの付き合いかな……」
「ミステリー愛好会? 中学の時から?」
「うん。でも、彼の好きなのは、本格ミステリーなの……。それで、何冊も推理小説を持ち歩いていたわ。だから、そう言うのに興味ない耀子ちゃんとは、あまり、反りは合わなかったんじゃないかな……?
私は高田君とデートしたこともあるけど、耀子ちゃんが高田君と付き合ったなんて、私も聞いたことが無いわね……」
「そんな彼が、なんで、耀子先輩の頼みを受けたんだろう……?」
「高田君がぁ? お金で雇われただけなんじゃないの? で、一体、何の頼み……?」
高田慎太郎の件は、どうやら僕の取り越し苦労だった様だ……。僕は少し安心し、彼に関する話は、ここで終わりにしたのである。
その日、
それでも、彼女の来訪によって、僕の心の中の
今回の囮捜査の件も、もう片付いていたし、後は耀子先輩と仲直り出来れば、全てが丸く修まるだろう……。
僕はそう勝手に思い込んでいた。
月宮盈が、ミステリー愛好会のメンバーをこの潜入捜査の囮に使おうと画策し、あんな調査依頼を作って愛好会の部室に投函するなどとは、露程にも思わずに……。