宇津ノ谷の鬼伝説(3)
文字数 1,267文字
この伝説の調査について、是枝先輩はあまり乗り気ではない様だった……。
「主人が難病だからって、腫れ物に口付けて血膿を吸い取るか? 百歩譲って吸ったとしても、普通はそれを吐き出すだろう? 第一、血膿を吸い続けたとして、その味をしめて人肉を食いたがるか? 血膿の味と、普通の肉の味は、抑 、違うだろうが!」
僕はつい、是枝先輩に質問してしまう。あまり興味がある話では無かったのだが……。
「味、違うんですか?」
「橿原、お前、歯肉が膿んだことくらいあるだろう? あれが潰れた時、凄く不味くなかったか? それより、傷口から吸った血の方が美味いだろうが!」
是枝先輩の台詞は、人間のものとは思えなかったが、それでも先輩は人間、これは先輩の軽い冗談に過ぎない。
「まぁ、いずれにしても、祥白童子は後半の話の登場人物で、人肉を食べる様になったこの小僧が変化 した鬼とのことだよ……。で、中田、手紙には何て書いてあるんだ? 退治しろと云う依頼なのか?」
加藤部長は、中田先輩に手紙の内容について尋ねる。
中田先輩も面倒臭くなったらしく、「何も……。出るって話だけよ」と、それ以上の説明などせずに、そのまま封筒ごと手紙を加藤部長に渡した。
その後、それを読んだ加藤部長は、是枝先輩に手渡し、順次、全員が手紙の内容を自分の目で読んだ。唯一人、今日の部会を欠席した人を除いてだが……。
「で、話を戻すけど、誰が『祥白童子』の調査に行くの?」
「そんなの欠席裁判だろ? サボってる要耀子に決まってるじゃん!」
中田先輩と是枝先輩の間では、この役目は耀子先輩に決まりそうだった……。
しかし、どうせ彼女は、そんなの無視して行かないに決まっている。それに、彼女とは今、連絡が着かないじゃないか……。
加藤部長は、若干この話に興味がありそうだったが、彼も臨床実習の真っ只中、簡単に休んで静岡まで旅行と云う訳にも行かない。
柳さんは、何が何だか分からない様で、この会話にも参加できていない。
そうなると、必然、僕しかいないだろう。
それに僕は、ちょっと気分転換と、グルメ旅行を兼ねて、旅行でもしたい気分だった。
「僕が行ってきますよ。どうせまたガセでしょう? それでもいいですよ。丸子 なら美味い名物もあるし……。そこから岡部まで、峠越えのハイキング……。結構楽しそうじゃないですか」
その後、簡単な調整が行われ、僕がこの調査の担当に決まった。しかし、僕があまりに楽しそうに話したので、柳さんはこの調査に行きたいと思った様で、僕の方を羨ましそうに眺めている。
結局、中田先輩から「登り降りをたっぷり歩かなけりゃならないわよ」と言われて、お土産の丸子紅茶を僕に約束させ、調査の同行は諦めてくれたのだが……。
確かに、彼女がこの調査を諦めたのは正解だった……。
この調査は、決して楽しいと言えるものでは無かった。そんなこと、誰かが黙って交通費を払ってくれたことからも、容易に推察できるだろう。考えてみて欲しい。五万円もの大金を、何の目的も無くポイと差し出すことなど、あろう筈がないのだ。
「主人が難病だからって、腫れ物に口付けて血膿を吸い取るか? 百歩譲って吸ったとしても、普通はそれを吐き出すだろう? 第一、血膿を吸い続けたとして、その味をしめて人肉を食いたがるか? 血膿の味と、普通の肉の味は、
僕はつい、是枝先輩に質問してしまう。あまり興味がある話では無かったのだが……。
「味、違うんですか?」
「橿原、お前、歯肉が膿んだことくらいあるだろう? あれが潰れた時、凄く不味くなかったか? それより、傷口から吸った血の方が美味いだろうが!」
是枝先輩の台詞は、人間のものとは思えなかったが、それでも先輩は人間、これは先輩の軽い冗談に過ぎない。
「まぁ、いずれにしても、祥白童子は後半の話の登場人物で、人肉を食べる様になったこの小僧が
加藤部長は、中田先輩に手紙の内容について尋ねる。
中田先輩も面倒臭くなったらしく、「何も……。出るって話だけよ」と、それ以上の説明などせずに、そのまま封筒ごと手紙を加藤部長に渡した。
その後、それを読んだ加藤部長は、是枝先輩に手渡し、順次、全員が手紙の内容を自分の目で読んだ。唯一人、今日の部会を欠席した人を除いてだが……。
「で、話を戻すけど、誰が『祥白童子』の調査に行くの?」
「そんなの欠席裁判だろ? サボってる要耀子に決まってるじゃん!」
中田先輩と是枝先輩の間では、この役目は耀子先輩に決まりそうだった……。
しかし、どうせ彼女は、そんなの無視して行かないに決まっている。それに、彼女とは今、連絡が着かないじゃないか……。
加藤部長は、若干この話に興味がありそうだったが、彼も臨床実習の真っ只中、簡単に休んで静岡まで旅行と云う訳にも行かない。
柳さんは、何が何だか分からない様で、この会話にも参加できていない。
そうなると、必然、僕しかいないだろう。
それに僕は、ちょっと気分転換と、グルメ旅行を兼ねて、旅行でもしたい気分だった。
「僕が行ってきますよ。どうせまたガセでしょう? それでもいいですよ。
その後、簡単な調整が行われ、僕がこの調査の担当に決まった。しかし、僕があまりに楽しそうに話したので、柳さんはこの調査に行きたいと思った様で、僕の方を羨ましそうに眺めている。
結局、中田先輩から「登り降りをたっぷり歩かなけりゃならないわよ」と言われて、お土産の丸子紅茶を僕に約束させ、調査の同行は諦めてくれたのだが……。
確かに、彼女がこの調査を諦めたのは正解だった……。
この調査は、決して楽しいと言えるものでは無かった。そんなこと、誰かが黙って交通費を払ってくれたことからも、容易に推察できるだろう。考えてみて欲しい。五万円もの大金を、何の目的も無くポイと差し出すことなど、あろう筈がないのだ。