空手バックパッカー VS 破壊王ベビス2

文字数 1,155文字

・・・とにかく喉に噛り付く。

そこに持ち込むまでどうしのぐかが目下の課題です。

私はおそらく致命的なダメージを負うでしょう。
肋骨や手足の骨折などは避けられないかもしれない。
しかしそれでも、意識を失うことは許されない。
ダウンしてもベビスが油断して近づいてきたら、喉に食らいつくチャンスはあるはずです。

私は腕で顔をガードする構えです。
ベビスの上段突きを受けた選手は、顎が粉砕骨折したという。
顎が砕けたら噛みつくことができなくなります。
前歯をへし折られてもいけない。
なので、たとえ腕を折られても、顎と歯だけは最後まで死守しなければならないのです。

一方のベビスはというと、相変わらずどっしりと構えています。
余裕の構えです。
こちらの攻撃を待ってカウンターを狙っているかもしれません。
どうせやられるのなら、こちらから仕掛けて一発でも食らわせられないものか?

私は**大学空手部の監督さんから聞いた、ベビスのプロファイルを思い出します。

ベビスは元プロボクサーだ。
そして空手の試合で壊された男が貰ったのは上段突き。
ベビスの戦いでは「呪われた拳」の伝説がやたら強調されますが、蹴り技については語られていない。

おそらくベビスは突き主体の戦闘が得意で、あまり蹴りは使わないタイプなのでしょう。
それならこっちは蹴りだ!蹴りのラッシュを仕掛けてやる。

絶望的な状況は変わりませんが、頭の中で作戦が組み立てられ始めました。

よし・・・なんかいつもの調子が出てきたぞ!

「いくぞ!破壊王!」私は叫びました。

これは威嚇ではありません。自分を鼓舞するための叫びです。

まず送り足から中段への前蹴り、つづいて右の下段回し蹴り、左上段回し蹴り、回転して右後ろ回し蹴り。
中川先生曰く「花拳繍腿(見た目は華やかだが実戦の役には立たない)」な技ですが、とにかく連続して蹴る。

ラッシュを受けたベビスはボクサーの習性でクリンチに持ち込むかもしれません。
そうなれば、喉に食いつくチャンスが早くも訪れるでしょう。

・・・ところが・・・

ベビスはほんの数センチほどステップバックした程度で、ほとんど動きません。
なのに私の蹴りのラッシュはことごとくが空を切っています。

・・・あれ?この状況はどこかで・・そうだ、カッサバ先生とやったときと同じだ!

私はあわてて飛びのいて間合いを取り、この空き地の地面を見つめます。

・・・いつの間に歩幅を計られたのだろう?しかもどうやって?

この空き地の地面はどう見てもただの土です。
カッサバ先生の寺院の僧房や、デワ道場の床のようなマス目はありません。
私の歩幅を計る目盛りは何もないのです。

・・・ベビスは目算で間合いを見切ることができるのか!
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