空手バックパッカー VS 破壊王ベビス1

文字数 1,368文字

「立ち会おうか」ってそれで立ち会うのはマズい。

それじゃ相手の気合を受けることになるし、そこの空き地ってのは相手の土俵です。
ことごとくがカッサバ先生の教えに反する。

ニコラのときもヤバかったけど、破壊王ベビスといえば対戦相手を五体満足では帰さないといわれる男。
もっとヤバいです。
そんなのとまともに立ち会って無事に済むわけがありません。
まずは口車だ!

「いやいや、ベビス先生。僕はご挨拶に伺っただけで、別に戦いに来たわけではありません。それにもう間もなくコロンボに帰るところなんですよ」
なんとか戦いを避けようと、必死です。

「何を言うんだトミー。せっかく縁あってふたりの空手家が出会ったのに、一手も交えずに帰る気か?空手家の挨拶はまずは拳で語り合うことだろ?」
ああ、ダメだ。なにか作戦を考えなきゃ・・・

そこの空き地。単なる普通の空き地です。土の地面。
私はいつものゴム草履、ベビスもゴムサンダル・・ニコラのときの手は使えない。
もうこうなったら走って逃げるか?しかしベビスの方が足が速かったらどうする?

・・・まったく良い考えが浮かびません。

「トミーどうした?何を考えこんでるんだ?気楽にやろう」

・・・破壊王相手に気楽にやれるかっての!

「まあいいから、来いよ」
そう言うとベビスは空き地の方に歩いて行きます。
今が逃げるチャンスですが、それをするには目撃者が多すぎる。
このまま逃げたら、勝ち負けどころか日本の空手家が敵前逃亡したという話がここに残るでしょう。
それはマズい。

しぶしぶ・・・私はベビスの後を追って空き地に向かいます。

こうなったらカッサバ先生の教えの最後の手段。
ボコボコにされても負けを認めない・・あれしか残ってないのか?
しかし破壊王にボコボコにされるってことは、二度と立ち上がれない身体になるってことじゃないの。
嫌だ、嫌だ、嫌だ!

そんなことを考えているうちにも、ここはもう空き地です。

ベビスがこちらに向き合うと、丁寧に礼をします。
思わず私も礼を返しました。
でも、これってゴングが鳴ったってことだよね?

ベビスは両手の拳をすっと上げてオーソドックスに構えます。
特に動き回るわけではなく、どっしりと待つ構えです。

・・・この拳が何人もの人間を破壊し、再起不能にした拳か。
いや、悠長に眺めている場合じゃないぞ。作戦、作戦を早く!

「トミー、何やってる?さあ、構えて。時間が無いんだろ?」

作戦、作戦・・・あああああ!何も思い浮かばない!どうしよう?

そのときふと、日本を出るときの空港での中川先生の言葉を思い出しました。
『もし戦いが避けられないときは、どんな卑怯な手を使っても負けてはならない。必ず勝て。噛り付いても勝て』

・・・噛り付いても?

そうだ、もはやその手しか無い!
私には度胸などこれっぽちもありませんが、意地だけはありました。
この男と立ち会って、どうせこっちが破壊されるのなら、喉笛を噛みちぎってやる!
・・・僕は再起不能になるかもしれないが、それならベビスも道連れにしてやる!

私は腹をくくりました。そして構えた。
私のこれまでの人生で、もっとも悲壮感あふれる構えです。
・・・ああ、そういうキャラじゃなかったのになあ・・・
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