秘技・三角飛び

文字数 1,766文字

空手最大の秘技「三角飛び」・・・

劇画などで有名になった技ですが、これはけっして劇画原作者によるまったくの創作ではありません。
古書を紐解けば空手の歴史に伝説として伝わる秘術であることがわかります。

『唐手術に三角飛びの極意あり。この極意を授けられし者、最早天下に恐るべきものなし』

一説には沖縄の空手の大家であった知花朝信がこの三角飛びの使い手であり、彼の残したクーシャンクーの型には密かにその極意が隠されているともいわれます。

劇画などではこの技は、いったん敵とは方向違いの壁などにに向かって飛び、その壁を蹴る反動で空中を三角に飛び、死角より敵に蹴りを決めるといった描写が多いです。
また古書によれば、この術には2種類あるそうです。
ひとつは飛び上がると同時にひとりの敵を片足で蹴り、残る足でもうひとりを蹴る。
もうひとつは地面に対して水平に飛び、片足、片手、頭の三つの武器を使い3人の敵を攻撃する。

要するに三角飛びというのは複数の敵に囲まれた際に、同時にそれらの敵を倒す技ということでしょう。

このように「三角飛び」には明確な型が存在せず、名前のみが独り歩きしている幻の技なのです。
「これが三角飛びだ」という具体的なものは特に存在しないので、私がはったりで技を創作してもまあ許されるんじゃないかと考えていたわけです。

私は2人の空手部員にキックミットを持たせ、1mほどの間隔でこちら向けに立たせました。
結び立ちで彼らに礼をしてから、型の演武のように用意姿勢を取りながら大声で叫びました。

「三角飛び・初段っ!」

猫足立ち手刀受けの構えで前進し、間合いに入ったところで左足から飛び上がり向かって左のミットを蹴り、その反動で右足を上げ向かって右のミットを蹴ります。
これは二段蹴りの応用で左右に蹴り分けただけです。

着地すると同時に猫足立ちの構えに戻り、十分な残身を取ってから直れの姿勢になり礼をします。
パチパチと拍手の音。

以前も書きましたが、海外で技を見せる場合は、技それ自体が大したことなくても、前後のポーズを決めるとそれなりに見えるものです。

つづいて、今度はミットを上段から下向けに構えさせます。

「三角飛び・二段!」

猫足立ちの構えから両足で飛んで足を左右に開いて同時に蹴ります。
これはジャッキー・チェンの映画で覚えた蹴りです。

ふたたび残身を取ってから礼。さっきより大きな拍手。
悪くない手ごたえです。
そして次は私の最大の大技です。

自分を時計の中心と見るなら、部員を12時と9時の方向にミットを構えて立たせます。

「三角飛び・三段!」

プロレスのドロップキックのように地面に水平に飛んで、左足を9時方向にまっすぐに伸ばすと同時に右足を90度の角度に広げて12時方向に伸ばします。
これはかつてデワの書斎にあったカンフー雑誌”Inside Kung fu”で見た女性の表演にヒントを得て練習したはったり三角飛びです。
バシ、バシッとミットが連続して良い音を立てました。
私は両手で受け身を取ってから、床を前転するようにころがり起きて構えを取ります。

おおっ!と声があがり、一層大きな拍手。
はったり大成功のようです。

「これで三角飛びの演武を終わります。ありがとうございました。押忍」

監督さんが駆け寄ってきて、握手を求めます。
「今日は貴重な秘技を公開していただき、ありがとうございました。三角飛び、話には聞いたことありますが実際に見たのは初めてです」
・・・そうでしょうね。私は一度も見たことありません。

「ウチの部員もたいへんな勉強になったと思います」
「いえ、お粗末なものをお見せしました。こちらこそ勉強させていただきました」
「このあとお時間ございますか?よろしければ食事でもご一緒させてください」
とのことで、監督さんと夕食の約束をしました。

ええ、派手なバトルとかを期待されていた読者の皆さんには申し訳ありませんが、ニコラ戦みたいなのを毎回やっていたのでは私の身が持ちません。
私はほとんどの場合、このように口車とはったりで乗り切っていました。

それでも・・・ごく、たまーにですが・・・命の危険にさらされたこともありますが、それはまた後の話。
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