古物書店
文字数 800文字
お題 『本屋』
不思議な本屋
ここは地方の城下町。景観を意識した古い洋風建築が数多く並んでいた。その中でも目を引いたのがこの本屋だ。
『古物書店』と書かれた看板に薄暗い店内、外からだと何屋なのか全くわからない。入口の扉には営業中の札がかけてある。きっと古書が売っているのであろう。古書は値段も高く、興味はないが、店の中が気になってしかたがなかった。
カランカラン……
扉についたベルが軽快に鳴ると、店の奥から小さな影がこちらへやってきた。
「いらっしゃい、こんな時間にお客が来るとは珍しい。どれ、好きものを選ぶといいよ」
腰の曲がった白髪の老婆はそう言うと、店にある唯一の椅子に座った。
「選ぶ?」
周りに目をやると壁沿いに大きな本棚が並んでいた。天井まで届く棚、それでも入りきれなかった古書がいくつも床に積みあげられている。
「ここは古書が売ってるとこですか?」
「おや、あんた知らずにここに来たんかい?ここは『古物書店』付喪神が買える店さ。欲しいと思わないとこの扉は開かないんだけどねぇ。まあいい、折角来たのだからちょっと見ていくといい」
「はあ……」
私は適当に近くにあった本を手に取った。紙は変色しているが埃は一切被っていない。それどころか古書特有のかび臭さもない。手入れが行き届いている。肝心の本は達筆の筆文字で全く読めない……はずだった。なぜだ、頭に声が響いてくる。
「これは?」
「ああ、その本は『急須』の付喪神さね。それを開けば彼の生い立ちが読めるし、最後のページには彼本体が封印してあるよ。買っていくかい? それとも
────あんた自身を封印してあげようか?」
「え?」
「あんたは『万年筆』の付喪神だね。主人を亡くして持ち主の記憶が混濁しているのだろう。ここで新しい持ち主を待つもよし、そのまま野良でいるもよし、さてどうする?」
───ああ、だからここが気になったのか……
「私をここに置いてください」
不思議な本屋
ここは地方の城下町。景観を意識した古い洋風建築が数多く並んでいた。その中でも目を引いたのがこの本屋だ。
『古物書店』と書かれた看板に薄暗い店内、外からだと何屋なのか全くわからない。入口の扉には営業中の札がかけてある。きっと古書が売っているのであろう。古書は値段も高く、興味はないが、店の中が気になってしかたがなかった。
カランカラン……
扉についたベルが軽快に鳴ると、店の奥から小さな影がこちらへやってきた。
「いらっしゃい、こんな時間にお客が来るとは珍しい。どれ、好きものを選ぶといいよ」
腰の曲がった白髪の老婆はそう言うと、店にある唯一の椅子に座った。
「選ぶ?」
周りに目をやると壁沿いに大きな本棚が並んでいた。天井まで届く棚、それでも入りきれなかった古書がいくつも床に積みあげられている。
「ここは古書が売ってるとこですか?」
「おや、あんた知らずにここに来たんかい?ここは『古物書店』付喪神が買える店さ。欲しいと思わないとこの扉は開かないんだけどねぇ。まあいい、折角来たのだからちょっと見ていくといい」
「はあ……」
私は適当に近くにあった本を手に取った。紙は変色しているが埃は一切被っていない。それどころか古書特有のかび臭さもない。手入れが行き届いている。肝心の本は達筆の筆文字で全く読めない……はずだった。なぜだ、頭に声が響いてくる。
「これは?」
「ああ、その本は『急須』の付喪神さね。それを開けば彼の生い立ちが読めるし、最後のページには彼本体が封印してあるよ。買っていくかい? それとも
────あんた自身を封印してあげようか?」
「え?」
「あんたは『万年筆』の付喪神だね。主人を亡くして持ち主の記憶が混濁しているのだろう。ここで新しい持ち主を待つもよし、そのまま野良でいるもよし、さてどうする?」
───ああ、だからここが気になったのか……
「私をここに置いてください」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)