とある妖精の1日

文字数 1,588文字

桃太郎を読んでみた

 ここは妖精の森、
 神様が描いた落書きたちが暮らす世界。


 神様はね、ホント気まぐれなの。思い付きで落書きをする。そしてそれは命が吹き込まれて妖精になるんだ。でね、妖精の種類も神様の一言で決まっちゃうの。


「君はコンセントに似ているね」


 と神様が言ったから、ぼくはコンセントの妖精になった。全身真っ白の棒人間にお肉をちょっと足した体と、真っ直ぐな縦の目と三角口。

( |∇|)ぼく、コンセントくん!


 だからぼくの目にプラグを挿すと電気が流れるんだよ。妖精の森でぼくは唯一の電源だから、みんなぼくを大事にしてくれるんだ。


「コンセントくん、ちょっといい?」


 今日は、ストーブとカラオケとオーブンとテレビのプラグを挿したよ。みんなすごく楽しそうだった。ぼくにはその姿が見えないけどね。みんなの笑い声を、膝をかかえて何時間も聞いていたよ。これってある意味拷問だよね。

( |∇|)でも泣かないよ、漏電しちゃうから。


 だからぼくは真っ白な体なのに、体の中は真っ黒な闇なんだ。ま、いいけどね。

( |∇|) ふふふ


 ぼく、今日ね『桃太郎』の絵本を読んだんだ。桃太郎はね、犬、猿、きじのお供を連れて鬼ヶ島に鬼退治に行くんだよ。すごいよね。かっこいいよね。憧れちゃう。

 ここは妖精の森だから、探せば犬も猿もきじもいるかもしんない。ぼく、桃太郎ごっこがしたい!

( |∇|) よし、やるぞー!


『きび団子の妖精、犬の妖精、猿の妖精、きじの妖精、鬼の妖精募集!』


 と、広場の伝言板に書いてみた。

 するとみんな暇人なのですぐに集まったよ。鬼の妖精はいなかったけどね。でも、鬼なら神様にお面をかぶってもらうからいいや、まずはきび団子を手に入れよう。

( |∇|)らんらんら~ん♪


 顔のあるきび団子に手足が生えている。これがきび団子の妖精さん。


「きび団子の妖精さん、ぼくにきび団子を沢山くださいな」


「このご時世に誰がタダでやるか」


 と言うので、ぼくの電力をあげようと、きび団子さんの手をぼくの目に……全力で拒否されました。なぜでしょう? そしてこのご時世にきび団子をタダでくれました。とてもいい人です。

 次に犬、猿、きじの妖精さんに仲間になって欲しいとお願いをしました。


「きび団子くれたらいいよ」


 と言うので、みんなで一緒に食べました。みんなで食べると美味しいです。でも、ちょっと甘過ぎたので、


「しょっぱいものも欲しくなっちゃった」


 とぼくが塩を出すと、犬と猿が同時にきじを見ました。不思議だね、ぼくも目がいっちゃった。


 さて、腹ごしらえもしたので犬と猿のお供を連れてイザ神様の元へ! 神様も暇人なので、いつもの野原でお昼寝をしています。


「神様ー!」


「おや、コンセントくんどうしたんだい?」


「今ね、桃太郎ごっこをしているの。でもね、鬼の妖精がいなかったから神様に鬼役やってもらいたくて」


「は、は、は、鬼の妖精か!じゃあ今から鬼の妖精を作ってあげよう……」


 そういって、神様は羽ペンと紙を出しました。大変です、神様がまた無駄に命を作ろうとしています。ぼくは思わず、


「鬼だ、かかれー!」


 と叫びました。犬の妖精が羽ペンを噛み砕き、猿が紙を破り捨てました。これ以上妖精の森の住民を増やしてはいけないのです。暇なことは辛いのです。

 最後に神様の手をぼくの目まで持っていきます。

 !!


「ごめんなさい! 描かないから! ゆるして!」


 神様は必死に叫びます。

 だから手を入れるのをやめました。そして犬と猿と神様と一緒に仲良くきび団子を食べました。これで仲直りです。

 ぱくぱくもぐもぐ美味しいです。

 でも、


「やっぱりしょっぱいものが欲しくなるね」


 そう言って塩を出しちゃいました。

 すると今度は犬の妖精さんがみんなの注目を浴びています。そして、ぼくも犬さんから目が離せません。犬さん人気者です。



 めでたし めでたし 

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