猫のお仕事

文字数 803文字

お題 『深夜に起きた出来事』
深夜のお仕事

 俺は『八百屋のトラ』看板猫をはじめて13年。猫に引退という文字は無い。

 昼間はレジ横が俺の指定席。来る客来る客が俺を撫でる。宝くじが当たったとか、子供の受験が受かったとか、噂がどんどん広がって、いつしか招き猫扱い。悪い気はしないが、撫でられ過ぎて頭部が気になるお年頃。

 以前は愛想を振りまいたが、近頃は深夜の仕事に忙しく昼間はほぼ寝ている。撫でてもいいが、起こさない程度に頼む。

 夜、主人が寝静まるのを待って家を出る。小さな風呂敷包みを咥え、困っている猫がいないか確認しながら歩く。月明かりが俺を呼んでるぜ。夜風が俺の歩みを加速させる。町外れの公園が深夜の集会場。ここは近所の猫が集まってちょっとした語らいをするところ。

「あ、トラさん!」

 団子屋の黒猫、チビが出迎えた。

「今夜はみんな遅いです。きっと祭りがあったから主人たち興奮して寝ないんすよ」

「人間の都合で俺達の酒盛りが遅くなるのも困ったものだな」

「まぁ、オレら昼間は寝れるからいいっすけどね。それよりこれ見てください!今日10歳のお祝いにマタタビくれたんす!あとでみんなでいただきましょう!」

「せっかくのお祝いなのにいいのか?」

「ひとつは家でいただいたので、後はみんなで楽しみたいです。ところでその包みは何ですか?」

「あー、『極上の煮干し』だ。息子の主人が持って来た。何でも新しい仕事のリーダーを任されたとかで、お礼なんだと」

「相変わらず招き猫パワーが炸裂してますね」

「俺にそんな力ないのにな、みんなの努力が報われているだけだから、申し訳ないやらありがたいやら……」

「そう思わせることも猫の仕事ですよ。『人間に癒しを!』トラさんの教えはちゃんと伝えていきますからね!それより聞いてくださ~い、オレもうじいさんなのにいまだに『チビ』なんすよ~」

「あ!おまっ、マタタビ噛ったな⁉️ あ~、みんな早く来てくれ~!」
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