月夜の遭遇

文字数 1,066文字

お題 月夜の遭遇

伝説のヒーロー

 月のきれいな夜の事。
 とある神社の境内に、ひときわ響く猫の声。
 んにゃ~ごぉぉぉ んにゃあごぉぉぉ
 地域猫が主流になった現在、猫の(さかり)りは一年中。今宵も熱い告白が、あっちもこっちも大賑わい。


「よお、よお、彼女。そろそろお年頃だね。俺様はここいらで一等縄張りを持つトラジロウってんだ。どうだい? お前さんが望むなら俺様の六番目の妻にしてやってもいいぞ~」

 茶トラのトラジロウが、幼さの残る白猫に声をかけました。白猫は恐ろしさのあまり声が出せません。それもそのはず、トラジロウの大きな体とたくさんの傷跡がボスの貫禄を醸し出していたのです。

「おい、小娘。トラジロウ様が直々にそう仰っているのだぞ、はやく良い返事をせぬか!」

「小娘、早く自分からお願いしろ!」

 トラジロウの脇を固める二匹の手下猫が言いました。
 望むもなにも、トラジロウに目を付けられたメス猫に選択の余地などはありません。

「ほれ、もっと俺様の近くに……」

 トラジロウが白猫の肩に前足をかけると、白猫はビクリと震えました。
 
 その時です、

「彼女に触れるな!!」

 境内に声が響きます。でも、一体どこから?
 トラジロウも手下猫も白猫も辺りをキョロキョロ。どこにも姿はありません。

「やいやい、どこにいやがる。姿をあらわせ卑怯もの!」

「俺は逃げも隠れもしない! 屋根の上だ!」

 猫たちは一斉に神社の屋根を見上げます。
 そこには光輝く満月と、月の影になった黒いシルエットの猫がいました。

「なんだ、まだ子猫じゃないか、たいした度胸だな。俺様に楯突いて無事ですむと思うなよ」

 トラジロウは前足の爪を出して舌舐めずりをしました。手下猫もじりじりと神社へと近付きます。

「おっと、これが見えない? これ、『天水桶(てんすいおけ)』と言ってね、雨水を貯めておく桶なんだ。これを頭からかけてあげようか、この冬の夜に」

 そういって子猫が天水桶に体を寄せると、ゴトッと鈍い音がしました。

「ぐっ、こんな真冬に水はたまらん、ものどもずらかるぞ!」


***

 「こうして白猫はクロネコ様に助けてもらったのでした。おしまい」

 白猫が境内のメス猫と子猫を集め、昨晩の話をしていました。

「あー、クロネコ様にまた会いたい。結婚するなら彼のように男らしくて賢い猫がいいわね」

 白猫をはじめ、メス猫達がにゃーにゃーと騒ぎだしました。しかし、それを聞いていたたキジトラの子猫だけは困った顔をしています。

「ぼく、クロネコじゃないんだけどな」

 こうして正義のヒーローは伝説になったのでした。

 めでたし めでたし(ФωФ)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み