夜明けのマーメイド
文字数 1,977文字
人魚の村
日本のとある場所のとある海に、人魚が暮らす小さな村がありました。おばあさんが３人、おばさんが５人、お姉さんが２人、女の子が４人……そう、ここは女の人しかいない村なのです。
「おばあちゃん！例の薬ちょうだい」
「いいよ。その代わりお前の声と引き換えにな……」
ここは人魚の村の最長老にして魔法使いでもあるボルドの家。貝殻を模した小屋にイスがひとつ。ボルドはいつもそのイスに腰掛けて客を待ちます。
本日のお客は『お姉さん』、繁殖期に入ったので、ある薬を買いにきたのです。
「声を貰らっても、腹の足しにもならないでしょ。はい、今日は真鯛！頑張って捕ってきたよ、これで足りるかな？」
「くくく、ちょっと言ってみただけじゃよ。ああ、いつもありがとよ。真鯛は甘くて大好物なんじゃ、お代なんて気にせずにいつでも何でも出してやる。お前達はわしの可愛い家族なのじゃから」
ボルドは持っていた白珊瑚の杖をひと振りすると、海水の中に小さな渦が現れました。そして渦の中から小瓶がぽとりと落ち、ボルドはもう一方の手でそれを受け取りました。
「ほれ、『ナルーン』じゃ。これを人間に飲ませれば相手が人魚になるし、お前さんが飲めば人間になれる。良い伴侶に巡り会えるとよいな」
ボルドはそう言って『お姉さん』に小瓶を渡しました。
この村に男はいません。子孫を残すため繁殖期が来たら人間から伴侶を探さなければいけないのです。しかし、人魚になる人間の男はなかなかいません。なってくれたとしても「生魚飽きた」だの「醤油とワサビが欲しい！」だの、挙げ句の果てには「味噌汁が飲みたい！」などと叫んで、真鯛と引き換えに『ナルーン』を手にし、何人もの男達が消えました。こうしてここは廃村の危機を迎えていたのです。
「おばあちゃん、この『ナルーン』何回飲めるの？飲みすぎると体に悪い？もしかして海の泡になったりして！」
「いや、何回飲んだって何も変わらんよ。『ナルーン』の成分はわしの願望じゃ。そんなもん空気みたいなもんじゃい。ただ人間になってから人魚に戻りたくなっても、この深い海の底には辿り着けんからのぉ、人間になったらもうここには戻ってこれまい」
「ふーん、じゃあさ、これ、錠剤に出来る？瓶だと何かと不便だし、錠剤ならいくつも持ち運び出来るじゃない？」
「ああ、簡単じゃよ。こんな感じでいいかの？」
ボルドが白珊瑚を振ると横２列縦５列の薬剤が１シート現れました。『お姉さん』は思わずニヤリ。
「おばあちゃん、この村もようやく『夜明け』が来るよ。あ、そうだ！これ出せるだけ出しといて！真鯛いっぱい捕ってくるから！」
そう言って『お姉さん』は元気よく外へ飛び出しました。
それから３日後、『お姉さん』は大量の『錠剤ナルーン』を持って、海岸にあがりました。そして同時刻にボルドは日本全土にメッセージを送りました。
『こちらは夜明けのマーメイド。あなたも人魚になりませんか？夜明けの海岸で待っています』
夜中の０時に流れる謎のメッセージ。パソコン、スマホは画面上に、起きている人には空中に、眠っている人には夢で、たった３０秒の宣伝をしたのです。はたしてお客は来るのでしょうか？
夜の海岸で、『お姉さん』は風呂敷包みいっぱいの『錠剤ナルーン』を背負い込み、お客を待ちました。『お姉さん』はもちろん人魚の姿のままです。
すると、明け方にはまだ早い暗い海岸にポツポツと人影が現れました。
「あの……人魚になれるって本当ですか？」
まだ中学生くらいの男の子、周りを気にしながら『お姉さん』に聞きました。『お姉さん』は風呂敷包みを下ろすと、『錠剤ナルーン』を１シート出して、
「ええ、なれますよ。１０錠入ってたったの１０００円。１錠飲めば人魚に、次にまた１錠飲めば人間に、薬が有る限り使えます。副作用なども一切ございません。煮詰まったときに海で思いっきり泳ぐことも出来ますし、人魚の村にもいつでも行けますよ」
そう言って最後は飛び切りの営業スマイル。
「く、ください！これ１シートください！」
「まいどあり～♪」
その中学生が誘い水となり、その後はあれよあれよと『錠剤ナルーン』が大売れです！そして、お客の１人に『お姉さん』の未来の旦那様がいたとかいないとか。
その後、人魚と人間の間はほぼ無くなり、週末は人魚に、老後は人魚に、子育ては海の中で、と、人魚になることは、すっかり生活スタイルのひとつになっていました。
『お姉さん』の作戦は大成功！人魚の村も人口増加で、大きな国になりました。
『錠剤ナルーン』も売れまくりボルドもさぞや金持ちに……と思いますか？いえいえ、ボルドは相変わらず貝殻を模した小屋にイスひとつを置いてお客を待っています。毎日沢山のお客が魚を持ってきては、ボルドと楽しいお喋りをしているそうですよ。
めでたしめでたし
日本のとある場所のとある海に、人魚が暮らす小さな村がありました。おばあさんが３人、おばさんが５人、お姉さんが２人、女の子が４人……そう、ここは女の人しかいない村なのです。
「おばあちゃん！例の薬ちょうだい」
「いいよ。その代わりお前の声と引き換えにな……」
ここは人魚の村の最長老にして魔法使いでもあるボルドの家。貝殻を模した小屋にイスがひとつ。ボルドはいつもそのイスに腰掛けて客を待ちます。
本日のお客は『お姉さん』、繁殖期に入ったので、ある薬を買いにきたのです。
「声を貰らっても、腹の足しにもならないでしょ。はい、今日は真鯛！頑張って捕ってきたよ、これで足りるかな？」
「くくく、ちょっと言ってみただけじゃよ。ああ、いつもありがとよ。真鯛は甘くて大好物なんじゃ、お代なんて気にせずにいつでも何でも出してやる。お前達はわしの可愛い家族なのじゃから」
ボルドは持っていた白珊瑚の杖をひと振りすると、海水の中に小さな渦が現れました。そして渦の中から小瓶がぽとりと落ち、ボルドはもう一方の手でそれを受け取りました。
「ほれ、『ナルーン』じゃ。これを人間に飲ませれば相手が人魚になるし、お前さんが飲めば人間になれる。良い伴侶に巡り会えるとよいな」
ボルドはそう言って『お姉さん』に小瓶を渡しました。
この村に男はいません。子孫を残すため繁殖期が来たら人間から伴侶を探さなければいけないのです。しかし、人魚になる人間の男はなかなかいません。なってくれたとしても「生魚飽きた」だの「醤油とワサビが欲しい！」だの、挙げ句の果てには「味噌汁が飲みたい！」などと叫んで、真鯛と引き換えに『ナルーン』を手にし、何人もの男達が消えました。こうしてここは廃村の危機を迎えていたのです。
「おばあちゃん、この『ナルーン』何回飲めるの？飲みすぎると体に悪い？もしかして海の泡になったりして！」
「いや、何回飲んだって何も変わらんよ。『ナルーン』の成分はわしの願望じゃ。そんなもん空気みたいなもんじゃい。ただ人間になってから人魚に戻りたくなっても、この深い海の底には辿り着けんからのぉ、人間になったらもうここには戻ってこれまい」
「ふーん、じゃあさ、これ、錠剤に出来る？瓶だと何かと不便だし、錠剤ならいくつも持ち運び出来るじゃない？」
「ああ、簡単じゃよ。こんな感じでいいかの？」
ボルドが白珊瑚を振ると横２列縦５列の薬剤が１シート現れました。『お姉さん』は思わずニヤリ。
「おばあちゃん、この村もようやく『夜明け』が来るよ。あ、そうだ！これ出せるだけ出しといて！真鯛いっぱい捕ってくるから！」
そう言って『お姉さん』は元気よく外へ飛び出しました。
それから３日後、『お姉さん』は大量の『錠剤ナルーン』を持って、海岸にあがりました。そして同時刻にボルドは日本全土にメッセージを送りました。
『こちらは夜明けのマーメイド。あなたも人魚になりませんか？夜明けの海岸で待っています』
夜中の０時に流れる謎のメッセージ。パソコン、スマホは画面上に、起きている人には空中に、眠っている人には夢で、たった３０秒の宣伝をしたのです。はたしてお客は来るのでしょうか？
夜の海岸で、『お姉さん』は風呂敷包みいっぱいの『錠剤ナルーン』を背負い込み、お客を待ちました。『お姉さん』はもちろん人魚の姿のままです。
すると、明け方にはまだ早い暗い海岸にポツポツと人影が現れました。
「あの……人魚になれるって本当ですか？」
まだ中学生くらいの男の子、周りを気にしながら『お姉さん』に聞きました。『お姉さん』は風呂敷包みを下ろすと、『錠剤ナルーン』を１シート出して、
「ええ、なれますよ。１０錠入ってたったの１０００円。１錠飲めば人魚に、次にまた１錠飲めば人間に、薬が有る限り使えます。副作用なども一切ございません。煮詰まったときに海で思いっきり泳ぐことも出来ますし、人魚の村にもいつでも行けますよ」
そう言って最後は飛び切りの営業スマイル。
「く、ください！これ１シートください！」
「まいどあり～♪」
その中学生が誘い水となり、その後はあれよあれよと『錠剤ナルーン』が大売れです！そして、お客の１人に『お姉さん』の未来の旦那様がいたとかいないとか。
その後、人魚と人間の間はほぼ無くなり、週末は人魚に、老後は人魚に、子育ては海の中で、と、人魚になることは、すっかり生活スタイルのひとつになっていました。
『お姉さん』の作戦は大成功！人魚の村も人口増加で、大きな国になりました。
『錠剤ナルーン』も売れまくりボルドもさぞや金持ちに……と思いますか？いえいえ、ボルドは相変わらず貝殻を模した小屋にイスひとつを置いてお客を待っています。毎日沢山のお客が魚を持ってきては、ボルドと楽しいお喋りをしているそうですよ。
めでたしめでたし
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