第49話 無垢な子

文字数 1,762文字

愛理は当時の奏が虫を押していた時を思い出し、何かの幼虫やミドリムシ美味しいと騒いでいた時を思い出していた。 愛理は虫は食べたくないと騒いでおり、奏はお姉ちゃんにはあげないもんと言いながら一人で愛理の分も食べていた。

「虫押しの時もあったなぁ……奏はいつも楽しく人生を生きてるなぁ」

愛理は奏にしかできない人生を歩んでいると思いながら、自分も早く身体を治して怪物を倒さないととガッツポーズをしていた。 そして、雑誌を読み進めると、奏が家族のことを語っている項目があった。

「家族のことについて話してる……お姉ちゃんは今回の怪物との戦いで重傷を負ってしまいましたがって、そこ話していいんだ!」

怪物との戦いのことを話していたので、この本で話せばある程度聞かれることはないのかと思ったのかなと愛理は感じた。 そして、雑誌をさらに読み進めると、奏の氷魔法について書かれている項目があった。

「奏は昔から氷属性の魔法を使って活動をしていたのねー」

愛理は奏の努力を垣間見た気がして、姉として誇らしいと感じた。 雑誌を全て読み終えると、週刊魔法使いを側にある棚に置いた。

「ちょっと疲れたわ……少し寝ようかしら……」

そう呟くと、枕に頭を静かに置いて目を閉じた。 特に夢など見ずに熟睡をしていると、誰かに身体を揺さぶられている感覚を感じた。

「誰よ……」

静かに目を開けて、身体を起こした愛理の目線の先にいたのは奏であった。

「うーん……なんで奏がここにいるのぉ?」

寝ぼけ眼で目を擦りながら目の前にいる奏を見ていると、お姉ちゃん寝ぼけすぎと奏は笑いながら愛理を指さして笑い始める。

「どれだけ寝てたのお姉ちゃん。 もう晩ご飯置かれて大分たってるよ?」

奏は愛理のベットに付けられている、小さな長方形の机の上に置かれている晩御飯を指さすと、早く食べようと言った。愛理はその言葉を聞くと、そうねと言って身体の態勢を整えた。 とりあえずと言ってペットボトルのお茶を飲み、寝ぼけ眼が収まった眼で晩御飯を見ると、またおかゆかと落胆した。

「もうおかゆ嫌! 他の食べたい!」

嫌だ嫌だと愛理が言うと、なら私が食べちゃうよと奏が小悪魔に見える表情で言う。 その顔を見た愛理は、ダメよと言ってすぐさま食べ始めた。

「このご飯は私の物よ!」

愛理は奏をおかゆを食べながら睨んでいると、奏がスパゲッティ食べてきたからもう食べないよと言った。

「スパゲッティ!? そんな良いもの食べたの!? 奏だけずるいいいい!」

愛理は髪を振り乱しながらずるいと言い続けると、退院したら一緒に食べに行こうねと言って奏は愛理を鎮めた。

「絶対だよ!? 絶対だからね!」

愛理は何度も念を押すと奏は、はいはいと言って呆れた顔をしていた。そんな姉妹の微笑ましい一幕がある最中、どこかの次元、どこかの漆黒の闇が支配する世界で一人の奏と同じ年の女の子が泥の中から生まれた。 全身泥で塗れているその女の子は初めは歩けないのか、赤ちゃんと同じく両手両足を使って前に進むが、次第に二足歩行になった。その女の子は奏と同じ身長をし、初めは頭髪がなかったが徐々に頭髪が生えた。 髪の長さは肩にかかる程度の長さに留まり、髪色は黒色をしていた。

二足歩行になると首を上に向けて、漆黒の世界を見渡す。 まだ声も出せない中で、声を出し慣れていない擦れた声で黒羽愛理と名前を呼んだ。そして何度も愛理の名前を呼ぶと、擦れた声からはっきり良く聞こえる声色に変化をした。 その声は鈴が鳴るような綺麗な耳に良く通る声であった。

頭部以外の泥が落ちると、スタイルがいい綺麗な白い肌が露出した。 また、その女の子の顔はとても綺麗で目鼻立ちがハッキリとして、目の色が水色の二重の目がとても強調的であった。

「黒羽愛理……会わないと……私を救ってくれる唯一の存在……」

泥から生まれた女の子は愛理に会わないとと言いながら、静かに足を進めていく。 すると、歩く女の子の後方の空間が裂け、そこから骸骨の怪物が出現した。その怪物は速足で右腕に持っている銅の剣を振りながら迫ってきた。 それを見た女の子は恐怖に慄きながらも、会いに行かないとと小さな声で呟きながら走り始めた。
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