第82話 部屋風呂

文字数 1,887文字

「ふ、太るとか言わないで! 最近少し気になってるのに!」

愛理が自身の腹部を抑えながら奏に言うと、奏はなら食べ過ぎなきゃいいのにと言った。すると、美味しいものは食べなきゃ損よと愛理が言うとエレナもそれに賛同した。

「後で後悔するなら今食べる!」

エレナがそう言うと、愛理はうんうんと首を縦に振っていた。

「はいはい。 部屋に戻りましょう」

奏は愛理とエレナに部屋に戻ろうと言うと、愛理がもう少しだけ待ってと言った。

「まだ何かあるの?」

愛理に奏が話しかけると、これを飲まなきゃ今日は終わらないわと腰に手を当てて言う。愛理が飲もうとしていたのは、この旅館でしか販売をしていない試飲が出来る出汁で出来ている飲み物である。

愛理はこの旅館に来た時から目をつけており、絶対飲みたいと思っていた。しかし、なかなか飲むことが出来なかったので愛理は今がチャンスとばかりに飲むと決めた。

「売店に来たけど、数人しか他の人いないなー」

愛理は売店エリアにいる人の少なさに残念がるも、試飲ができる場所まで歩いて紙コップで出汁を飲み始めた。

「あー美味しい! この大根やカツオに昆布みたいな味が混ざった味がして美味しい!」

愛理は一杯のつもりが三杯も飲んでしまったが、美味しかったからいいやと紙コップを側にあるゴミ箱に捨てた。飲み終わった愛理は奏たちのもとに小走りで駆け寄る。愛理はお待たせと言うと、三人で部屋に戻っていった。夜の旅館は静かながらに誰かとすれ違うことはなく、お客の人々は部屋で思い思いの過ごし方をしているのかなと考えていた。

「やっと部屋に到着! 部屋でゆっくり過ごそうね!」

愛理がそう元気に言うと、奏とエレナもそうだねと賛同していた。特別な広い部屋に入ると、そこでは楓がお酒を飲んだりつまみを食べながらテレビを見ていた。

「お帰りー。 遅かったね!」

楓がそう三人に言うと。エレナが旅行楽しいと笑顔で言いながらソファーで寛いでいる楓に抱き着いた。抱き着かれた楓は零れると言いながらエレナを抱き返すと、エレナはママと言って強めに抱き着いた。

「急にママなんてどうしたの?」

楓は突然ママと言われたことに驚いて、どうしてママと呼んだか聞いてみた。すると、エレナが愛理はお姉ちゃんだし、奏は同い年の双子な感じだから楓はママなのと笑顔で言う。

「そうなのね そう思ってくれてよかったわ! これからもずっと私たちは家族よ」

そう聞いたエレナはずっと一緒だよと楓に抱き続けて、そのまま寝てしまった。

「突然寝ちゃった!? 疲れてたのかな?」

楓は愛理と奏を呼んで、三人でエレナをベットに寝せた。寝息を立てながら寝るエレナを見て、愛理はエレナには助けられてばかりだなと思っていた。それからは愛理と奏で部屋についている温泉に入ったり、奏は露天風呂に行くと言って部屋を出て行っていた。愛理は奏が露天風呂に行っても、部屋付きの露天風呂に入り続けていた。ベランダに出ることによって入れるその露天風呂は、長方形の大理石で出来ている露天風呂であり、源泉かけ流しとなっている。

部屋付きのその露天風呂からは、近くにある海や綺麗な空が見える。愛理は露天風呂の端に頭を乗せて空を見ていた。夜なことや、この地域の空気が綺麗なために夜空がはっきりと見えていた。

「はぁ~こんなに綺麗な夜空なんて初めて見たわ。 星空校長先生に感謝だわ」

愛理は身体を伸ばして夜空を見続ける。愛理はこの短い期間の中で、多くのことを経験して生き抜いてきたことを思い出していた。怪物のことやシンのこと、自身の弱さなど多くのことを思い出した。

「この短い間に色々なことがあったなぁ……全部奇跡で切り抜けたようなものだけど、皆の力があってこそだから慢心はしないわ」

愛理は慢心だけはしないと決め、これからを生きて行こうと決めた。愛理は部屋付き露天風呂に入り続けていると、不意に窓が開いてエレナが入ってきた。

「ちょっ、えっ、なに!?」

愛理が驚いていると、エレナは着ていた服を脱いで愛理の入っている露天風呂に入ってきた。エレナは愛理の左隣に座ると、愛理の左肩に頭を乗せた。

「この露天風呂に一緒に入りたかったのに、先に入らないでよー」

愛理の左肩に頭を乗せながら、頬を膨らませてエレナは文句を言う。それに対して愛理がごめんねと返した。

「本当だよー。 一人より二人の方が楽しいよ」

エレナが無邪気な笑顔を愛理に向けると、愛理はそうだねと言いながらエレナの頭を優しく撫でた。
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