第５３話　帰れる家

「ありがとう奏……そう言ってもらえると嬉しいわ！」

愛理は左に座る奏の頭を撫でながら言うと、エレナが私も撫でてと言ってきた。愛理は右に座っているエレナの頭も撫でると、無邪気な笑顔で気持ちいいと笑っていた。三人の笑っている姿を見ている正人と楓は、こんな幸せな時間が永遠に続けばいいのにと考えていた。しかし怪物が攻めてくる以上、こんな幸せが続かないので、怪物なんてもういなくなればいいのにと二人は考えていた。

エレナも含めて娘たちが笑顔で暮らせる毎日が必ず来て欲しい、幸せな毎日を過ごしてほしい、苦痛がなく幸せな笑顔溢れる人生を送ってほしい。ただこれだけのことを怪物のせいで成すことができない。正人と楓は娘たちに危機が迫って、死ぬかもしれない状況に陥った時には、自分たちの命を差し出してでも生きてほしいと二人で決めていた。

「また愛理があのような状況になったら、私たちが決めたように命をかけてでも救いましょう。 娘たちが幸せに生きるために……」

後部座席で三人が笑っている中で、楓が正人に話しかけた。正人は楓のその言葉に当然だと返事をした。車内で様々な考えが進む中で、車は一本橋を走行していく。エレナは綺麗な海だと目を輝かせ、愛理は窓を開けて身体を乗り出して景色を見ているエレナを止めたり奏はその様子をスマートフォンのカメラで撮影をしていた。

「三人共そろそろ市街地に出るぞー。 おとなしくしとけよ」

正人が前を見ながら後部座席で騒ぐ三人に注意をする。注意を受けた三人ははーいとハモりながら言うと、おとなしくなった。楓は突然おとなしくなったので可笑しく思って微笑していた。そして、市街地に到着すると愛理の家まではそれほど時間はかからないので、愛理は知ってる景色になってきたとウキウキとしていた。エレナはこんなに人がいると声を上げている。奏はエレナにこれから色々と一緒に経験しようねと話しかけた。 それを聞いたエレナは、沢山経験していきたいと笑顔で返答をしていた。

「奏と仲良くしてくれてありがとう。 私だけじゃなくて、奏とも沢山遊んでね！」

愛理が笑顔で言うと、エレナはうんと眩しい笑顔で返した。そして、三人で楽しく談笑をしていると、正人が家に到着したぞと言っていた。愛理はもう着いたのと驚くと、楽しく話していると時間ってすぐ経つわねとしみじみと腕を組んで頷いていた。奏は愛理にすぐ降りてと言ってエレナの腕を掴んでここが私たちの家だよと紹介をしていた。エレナはここで今日から暮らすんだと口を開けて家を眺めていた。

その様子を見ていた楓はエレナの背中を優しく押して、今日からあなたの住む家よと屈んで目を合わせて言う。エレナはありがとうと言いながら楓に抱き着くと、楓はエレナの頭を優しくなで始めた。 緊張しなくても、ここがあなたの帰る場所よと優しい笑顔を見せていた。

「私の帰る場所……帰る場所ができた！」

エレナのその言葉を聞いた愛理は、遠慮しないで家に入ろうと言う。 そのままエレナの手を引いて家の中に入ると、エレナはそのまま床に抱き着くように倒れる。一瞬何をしたのか理解が出来なかったが、エレナが愛理の家を感じてると言って頭を抱えてしまう。

「そんなことしなくていいから、早く二階に行こう！」

エレナを抱き起して階段を上っていくと、二階にあるリビングに到着をした。リビングに入ると、テレビの前にあるソファーにエレナを座らせた。愛理は冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注ぐと、注いだコップをエレナに渡す。

「これはなに？」

エレナはその液体が何なのか理解が出来ていないので、愛理に質問をした。愛理はお茶を知らないんだと理解をすると、先に愛理が飲んでこれは美味しい飲み物だよと教えたら、エレナは一気に飲み干した。

「美味しい！ 何この液体美味しいよ！」

エレナはもっと頂戴と愛理に言い始めた。あとから上がってきた正人たちは何を騒いでいるのかと愛理に聞くと、エレナがお茶が美味しいって騒いでたのと説明をした。