第16話 お雑煮とセリ

文字数 1,850文字

 三年前、私が働いていたのは今は閉店したスーパーマーケットの青果コーナーだった。
 売り場に物を陳列・補充しに行くこともあるが、主にベテランのパートさんや社員さんが担当し、自分はバックヤードで入荷した野菜や果物を検品し、袋詰めし、生産地と値段を入れていた。
 年の瀬、冬至の怒涛の柚子大波、クリスマス・イチゴの嵐が過ぎ去ると、ぼちぼちお正月用の季節野菜が入荷してくる。
 ケーキ屋さんにおろすイチゴは小粒。店頭に並べるのは見栄えのする大粒の真っ赤な種類だ。
 お客様がパックの底を高く上げて透かして見ても、上に罹っているセロファンから零れ落ちないように、四か所をテープ止めして補強するのも大事な仕事だ。
 12月に入りカボチャ以外じりじり値上がりしてきた野菜は、クリスマスを過ぎると一気に高くなる。
 卸値からして、日一日と目を疑うほど高くなっていくのだ。
 すると京ニンジンや八つ頭、ユリ根、セリに糸三つ葉等々がどっと入荷してくる。
 ホウレンソウや小松菜の葉物野菜は1袋300円近くになる。
 安い時期に買って茹でて、小分けにして冷凍しておくことをお勧めする。
 ブロッコリーも小房に沸けてレンチンして冷凍して置くと、葉物以上に美味しくいただけるのでよい。
 
 さて、大学進学で上京した際驚いた事に、セリの姿かたちがある。
 東京で売られているセリはすらりと長く、根三つ葉のように美しく葉も繊細で、シュッとしているのである。
 長く伸びた、中学生の男子バスケット部員のようなセリたちが、束になってテープで止められ、ビニールの袋に入れられ、真っ直ぐな姿のまま売り場に並んでいた。
 ほうれん草もそうだ。いじけることなく、のびのびと長い。

 山形県の地元の店ではそうではなかった。
 大手のスーパーチェーンだとどうかわからないが、少なくとも私が過ごした昭和58年までの地元の八百屋は、セリと言ったら冬の水田の下からスコップで雪をかいて収穫した、地面に葉と茎を丸く這わせた(ロゼット状)丈も短い物だった。
 ほうれん草も、雪の降らない太平洋側の宮城県や福島県の浜通りから入荷したものは、短く、歯もギザギザで、根元が真赤に染まった肉厚の物だった。
 いずれもアクが強めで、茹でた後充分に水にさらさなければならないが、甘みが強く、青青しい香りも高く、野菜を食べたという実感があった。
 都会育ちの夫は反対に、霜にあたって味の濃い葉物野菜は苦手らしい。
 サラダホウレンソウのような味の柔らかい、私にしてみたら食べた気がしない淡泊なものを好む。
 夫の実家がそうなのだ。
 仕事で扱っていたのもシュッとした美少年のような、真っ直ぐ長いセリである。
 束ねられたセリの黄色い葉や泥汚れ、くっついてきた他の野草を指でとり、長いビニール袋に入れて封をするのも私の仕事だ。
 香りもきつくなく、柔らかい。
 これは都会向けのシャレオツな若者たちのようだ、と思っていたら、作業が終わった指先はすっかりアクでどす黒く染まり、強いセリの野生の香りが付いていた。

 一見軟弱で洗練され、毒を抜かれたように見えた都会のセリくん達、体内にアクの強い自己主張を隠した、頼もしい奴らだったのだ。


 レシピ
 お雑煮。

 山形県南部、山に囲まれた地方のお雑煮は色々具沢山。
 家によって中身は違いますが、基本は鶏肉で醤油味です。
 4人分の分量で書きます。

 鶏もも肉1枚は大きめの一口切りにし、ひたひたの水から煮ます。中火。
 新鮮なら下茹ではいりません。
 冷凍を解凍した物なら熱湯でさっと下茹でしましょう。
 柔かくなるまでコトコト煮て、まずスープをとります。
 出来た鶏肉入りスープに舞茸1パック、ニンジンの薄切り適量、ささがきにして薄い酢水につけたゴボウ20センチ分くらい、水を切り角切りにした木綿豆腐半丁を入れ、ごぼうとニンジンが柔らかくなったら酒、みりん、しょうゆで味付けします。
 弱火にし、角餅を入れます。
 セリも2センチほどに刻んで入れます。
 餅が柔らかくなり、セリの香りが立ってきたら出来上がり。
 煮過ぎると餅がとろけて「餅ポタージュ」になってしまいます。

 餅を焼いてお椀に入れておき、いただく直前に具入りのつゆをはるというやり方もありますが、とにかく具沢山なので大きめのお椀がいいでしょう。

 実家では大晦日に神棚や水神さんに供え物として上げておいた野菜とお餅を、元日朝に若水を備える際に下げて、それを材料にしてお雑煮を作っていました。
 だから神棚にゴボウやきのこ類が上がっていました。
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