耀子の正体(八)
文字数 1,152文字
耀子先輩は座席の背凭 れに寄り掛かり、上を向いて目を閉じる。表面的に彼女は落ち着いた様に見えているが、心の中では色々なものが渦を巻いている筈だ。
「本当に大丈夫ですか?」
「ええ、脅威による不快感の方はね。でも、あのエロブス年増に対する怒りは、当分の間は納まりそうにないわ」
「エ、エロ年増?」
「そう、変態ブス女」
耀子先輩がこれほど下品な悪態をつくのを、僕は初めて聞いた。
「でも、耀子先輩を心配されていたようですよ。あの人……」
「そんなこと、私にだって分かっている! でも、やり方が何時も身勝手なのよ、あの人。私がこんな気持ちで旅行なんか楽しめる筈ないでしょう?」
「耀子先輩……」
「せめて、兄の鉄男でもいてくれたら……。あ、ごめん、幸四郎……」
「じゃ、一緒に考えましょう。パスワード」
「え?」
僕は耀子先輩に向かって微笑んだ。勿論、これから置いてけ堀を喰って、一人フィールド調査をさせられるのは悲しい。でも、僕はそれ以上に、耀子先輩には笑っていて欲しいんだ。こんな表情の耀子先輩は、僕の耀子先輩ではない。
「ありがとう、幸四郎。でも私には無理だと思う。だってノーヒントだもの……」
「そんなこと無いですよ……。彼女は『定数10桁だ』って言っていました。とすると……悪魔ですから、ベルフェゴール素数なんてどうでしょう?」
「それでは10桁にならないわ。それに小数点以下と盈さんは言っていた。だから素数は流行りだけど違うわね。彼女が本当のことを言っている保証は無いけど、本当だったら、小数で10桁以上ある定数でなければならない筈だわ」
「だったら、アボガドロ数なんてどうですか? あるいは重力定数、または電子の電荷なんてのもある」
「重力定数なんてのは期待出来るかも……、確かに、私たちの師匠は重力を操作する能力の悪魔だった……」
耀子先輩は腕時計の文字盤に見えるタッチパネルから、重力定数の2桁目からを入力していく。しかし、それは腕輪の認証機構に拒否された。
「じゃ、他の定数ですね」
「彼女は数学定数と言っていた。だから、アボガドロ定数とかの科学的や物理的な定数ではないわ。2の平方根とか、3の平方根とか、きっと、そういう物よ」
「そうは言っても、結構あるなぁ……」
「彼女はそんなに数学が得意な方じゃない。だから、難しい定数である筈がないわ。とすると……」
「円周率!」
僕たち二人は声を揃えて答えを導き出した。いや、導き出したと思った。しかし、その値を入力しても、やはり、その腕輪が外れることはなかった。
何度か入力し直したが駄目だった。キー操作を誤った訳ではない。ネットで数値も確認した。間違ってはいない。小数点第2桁、第3桁からも入れてみた。一応、2の平方根、3の平方根も入れてみた。しかし、それも矢張り駄目だった……。
「本当に大丈夫ですか?」
「ええ、脅威による不快感の方はね。でも、あのエロブス年増に対する怒りは、当分の間は納まりそうにないわ」
「エ、エロ年増?」
「そう、変態ブス女」
耀子先輩がこれほど下品な悪態をつくのを、僕は初めて聞いた。
「でも、耀子先輩を心配されていたようですよ。あの人……」
「そんなこと、私にだって分かっている! でも、やり方が何時も身勝手なのよ、あの人。私がこんな気持ちで旅行なんか楽しめる筈ないでしょう?」
「耀子先輩……」
「せめて、兄の鉄男でもいてくれたら……。あ、ごめん、幸四郎……」
「じゃ、一緒に考えましょう。パスワード」
「え?」
僕は耀子先輩に向かって微笑んだ。勿論、これから置いてけ堀を喰って、一人フィールド調査をさせられるのは悲しい。でも、僕はそれ以上に、耀子先輩には笑っていて欲しいんだ。こんな表情の耀子先輩は、僕の耀子先輩ではない。
「ありがとう、幸四郎。でも私には無理だと思う。だってノーヒントだもの……」
「そんなこと無いですよ……。彼女は『定数10桁だ』って言っていました。とすると……悪魔ですから、ベルフェゴール素数なんてどうでしょう?」
「それでは10桁にならないわ。それに小数点以下と盈さんは言っていた。だから素数は流行りだけど違うわね。彼女が本当のことを言っている保証は無いけど、本当だったら、小数で10桁以上ある定数でなければならない筈だわ」
「だったら、アボガドロ数なんてどうですか? あるいは重力定数、または電子の電荷なんてのもある」
「重力定数なんてのは期待出来るかも……、確かに、私たちの師匠は重力を操作する能力の悪魔だった……」
耀子先輩は腕時計の文字盤に見えるタッチパネルから、重力定数の2桁目からを入力していく。しかし、それは腕輪の認証機構に拒否された。
「じゃ、他の定数ですね」
「彼女は数学定数と言っていた。だから、アボガドロ定数とかの科学的や物理的な定数ではないわ。2の平方根とか、3の平方根とか、きっと、そういう物よ」
「そうは言っても、結構あるなぁ……」
「彼女はそんなに数学が得意な方じゃない。だから、難しい定数である筈がないわ。とすると……」
「円周率!」
僕たち二人は声を揃えて答えを導き出した。いや、導き出したと思った。しかし、その値を入力しても、やはり、その腕輪が外れることはなかった。
何度か入力し直したが駄目だった。キー操作を誤った訳ではない。ネットで数値も確認した。間違ってはいない。小数点第2桁、第3桁からも入れてみた。一応、2の平方根、3の平方根も入れてみた。しかし、それも矢張り駄目だった……。