妖狐と耀子(一)
文字数 1,484文字
僕、橿原幸四郎は、某医療系大学のミステリー愛好会なるサークルに所属している。
このサークルは、不可思議な伝説や怪しい噂話を調べ、科学的な観点から、その真偽やその噂の発生した背景などをまとめ、報告することを目的としている……。
と言えば聞こえは良いのだが、要するに、怪しい噂話のある場所へ旅行して、それをネタに楽しもうと云う、お楽しみサークルに他ならない。
そして今日も、物置の様な部室の中で、ミステリー愛好会の先輩たちから、今度のフィールド調査へのお誘いを受けていた……。
「で、要先輩は行かないんですか?」
「安心しろよ、あいつはこう云うのには絶対に出ないから。お前、苦手なんだろう? 要のことを」
要と言うのは、僕の二つ上の要耀子先輩のことである。彼女は看護学部、僕は医学部と学部こそ異なるが、一応このミステリー愛好会にふたりとも在籍している。
「そんなこと無いですよ……」
「別に気にしなくていいぜ。あいつを嫌いな奴、結構多いから……。お前、他の奴とは良く話すけど、要には近づきもせんもんな」
確かに、僕はサークル内で耀子先輩と言葉を交わすことはない。しかし、それが彼女のことを苦手だとか、嫌いだとか、そう云うことでは決して無いのだが……。
「大体、彼女、ここに所属しているけど、殆ど発表とかしないし、フィールドに出たことなんか、一度も無いんじゃないかしら?」
「あたし行ったよ。男の子、怪物、出るって噂の場所に……。何処だったかな? 結局、昔からの伝説に尾鰭ついた、都市伝説みたいなものだったよ」
「で、どうだった? 要とは」
「殆ど話さなかったよ。でも何か、こんなこと、言ってた……。彼女、高校の時、行方、分からない兄いて、その兄が、化け物か、妖怪にでもなってるんじゃないかって。そう思うと、つい探しちゃうんだって……。そう冗談言って笑ってたよ」
「あいつが冗談ねぇ……」
サークルのメンバーの噂話を聞きながら、僕は耀子先輩のことを考えていた。
「耀子先輩って、一体何者なのだろう?」
僕は参加するかの返事を保留して、大学から最寄駅までの道を歩いて帰ることにした。
僕の通う医科大学は、郊外とは言え、都内にあり、決して人里離れた田舎にあると云う訳ではない。だが、そんな所であっても、決して闇が無いこともないのだ。
この歩いて帰る道には、途中に住宅地でありながら、人の気配のしない深くて暗い闇がある。そして、その闇には僕の大切な友人、耀子先輩がいるのだ。
で、いつもの様に闇の一番濃いあたりで、僕の背後から澄んだ声が響いてくる。
「幸四郎、何の用? 丁度いいわ、私もあなたに忠告したいことがあるの」
「要先輩は、今度のフィールド調査には、行かないんですか?」
「私は行かないわ。誘われてもないし……」
「それは先輩が、そう云う態度を取っているからじゃないですか?!」
「別に怒っている訳じゃないの。私には興味が無いだけ。そして、彼らもそれを知っている。だから誘わない。それだけのことよ」
「僕は、先輩と一緒に旅行がしたいです」
「止 めた方がいいわ。それに、この旅行も止 めた方がいい……」
「どうしてですか? また何か悪い事でも起きるのですか? この前の時は、僕だけ助かって、みんな結構危ない目に遭っているんですよ。なんか、僕だけって……」
「誰も彼も助けるほど、私はお人好しじゃないの……」
「サークルの仲間じゃないですか。今回、僕は行きますよ!」
「分かったわ。それが幸四郎の判断なら」
「僕を助けてはくれないですか? 一緒に旅行に行って……」
「行くのはあなたの勝手。私に、そこまでする義務はない!」
このサークルは、不可思議な伝説や怪しい噂話を調べ、科学的な観点から、その真偽やその噂の発生した背景などをまとめ、報告することを目的としている……。
と言えば聞こえは良いのだが、要するに、怪しい噂話のある場所へ旅行して、それをネタに楽しもうと云う、お楽しみサークルに他ならない。
そして今日も、物置の様な部室の中で、ミステリー愛好会の先輩たちから、今度のフィールド調査へのお誘いを受けていた……。
「で、要先輩は行かないんですか?」
「安心しろよ、あいつはこう云うのには絶対に出ないから。お前、苦手なんだろう? 要のことを」
要と言うのは、僕の二つ上の要耀子先輩のことである。彼女は看護学部、僕は医学部と学部こそ異なるが、一応このミステリー愛好会にふたりとも在籍している。
「そんなこと無いですよ……」
「別に気にしなくていいぜ。あいつを嫌いな奴、結構多いから……。お前、他の奴とは良く話すけど、要には近づきもせんもんな」
確かに、僕はサークル内で耀子先輩と言葉を交わすことはない。しかし、それが彼女のことを苦手だとか、嫌いだとか、そう云うことでは決して無いのだが……。
「大体、彼女、ここに所属しているけど、殆ど発表とかしないし、フィールドに出たことなんか、一度も無いんじゃないかしら?」
「あたし行ったよ。男の子、怪物、出るって噂の場所に……。何処だったかな? 結局、昔からの伝説に尾鰭ついた、都市伝説みたいなものだったよ」
「で、どうだった? 要とは」
「殆ど話さなかったよ。でも何か、こんなこと、言ってた……。彼女、高校の時、行方、分からない兄いて、その兄が、化け物か、妖怪にでもなってるんじゃないかって。そう思うと、つい探しちゃうんだって……。そう冗談言って笑ってたよ」
「あいつが冗談ねぇ……」
サークルのメンバーの噂話を聞きながら、僕は耀子先輩のことを考えていた。
「耀子先輩って、一体何者なのだろう?」
僕は参加するかの返事を保留して、大学から最寄駅までの道を歩いて帰ることにした。
僕の通う医科大学は、郊外とは言え、都内にあり、決して人里離れた田舎にあると云う訳ではない。だが、そんな所であっても、決して闇が無いこともないのだ。
この歩いて帰る道には、途中に住宅地でありながら、人の気配のしない深くて暗い闇がある。そして、その闇には僕の大切な友人、耀子先輩がいるのだ。
で、いつもの様に闇の一番濃いあたりで、僕の背後から澄んだ声が響いてくる。
「幸四郎、何の用? 丁度いいわ、私もあなたに忠告したいことがあるの」
「要先輩は、今度のフィールド調査には、行かないんですか?」
「私は行かないわ。誘われてもないし……」
「それは先輩が、そう云う態度を取っているからじゃないですか?!」
「別に怒っている訳じゃないの。私には興味が無いだけ。そして、彼らもそれを知っている。だから誘わない。それだけのことよ」
「僕は、先輩と一緒に旅行がしたいです」
「
「どうしてですか? また何か悪い事でも起きるのですか? この前の時は、僕だけ助かって、みんな結構危ない目に遭っているんですよ。なんか、僕だけって……」
「誰も彼も助けるほど、私はお人好しじゃないの……」
「サークルの仲間じゃないですか。今回、僕は行きますよ!」
「分かったわ。それが幸四郎の判断なら」
「僕を助けてはくれないですか? 一緒に旅行に行って……」
「行くのはあなたの勝手。私に、そこまでする義務はない!」