耀子の正体(五)
文字数 1,077文字
珍しいことに、今回のサークルには耀子先輩と僕、二人が一緒に出席している……。とは言っても、僕たち二人が何か活動することもなく、ただ、人の発表を黙って聴いているだけのことだったのだが……。
当然、二人とも目を合わせない様にしているし、端と端の場所に陣取り、お互いの接触は極力避ける様にしていた。
この日は「ぬらりひょんの目撃例とレビー小体型認知症との関係性について」という中田先輩の研究発表である。
ぬらりひょんの目撃者の多くが、レビー小体型認知症を発症しているとのことで、レビー小体型認知症の症状のひとつである幻視が、ぬらりひょんの目撃に大きく関係しているとの統計からの推察であった。
で……。
発表を不機嫌そうに聴いていた僕たちに、余程腹が立ったのか、発表の途中、中田先輩は僕たちを名指しで非難してきた。
「要さんと橿原君、あんたらが仲が悪いのは、あんたらの勝手だけどさ、ここに来てまで不機嫌そうな顔しないでくれる? もう大人なんだから、そう云うのは表情に出さないものよ!」
「別に、僕は、要先輩と仲が悪いなんてこと、ありませんけど……」
僕は不貞腐れて、そう答える。嘘を言っている様でいて、実はこれが真実……。
「あーら、そうかしら? じゃ、次のフィールド調査は二人で行って貰いましょうか? お二人、仲がよろしいのだったら全然問題ないでしょう? 要さんもそれで良くって?」
耀子先輩はそれを聞くと、不機嫌そうに席を立ち、無言のまま教室からさっさと出て行ってしまう。
僕は彼女を追いかけたかったのだが、そこは我慢し、「彼女が帰って清々した……」と云う顔をして、自分の席へドッカリと腰を降ろした。
暗い闇の中……。
「幸四郎! どうするのよ?!」
今晩も、いつも通りの澄んだ声だが、少し怒りが含まれている様だった。
「僕は構いませんよ。一緒にフィールド調査に行きましょうよ!」
「そんなことしたら……」
「大丈夫ですよ! 僕たちはどう見ても相性の悪いカップルですからね。いかにも嫌そうに出かけましょうよ……。本当は、凄く嬉しいですけどね」
「私は本当に嫌ですけど……」
「では、月宮盈さん。フィールド調査、宜しくお願いします!」
「違う! 幸四郎! 今度それを言ったら、幸四郎でも殺すぞ!!」
突然の彼女の口調の変化に、僕は驚くよりも、なんか可笑しくなってきて、思わず吹き出しそうになる……。
何故か耀子先輩は、月宮盈と云う人物と間違えられるのが酷く嫌な様だ。
いつも冷静で、ちょっと上から目線の耀子先輩が、これほど動揺するのなんて驚きだし、本当に先輩が可愛く思えてくる。
当然、二人とも目を合わせない様にしているし、端と端の場所に陣取り、お互いの接触は極力避ける様にしていた。
この日は「ぬらりひょんの目撃例とレビー小体型認知症との関係性について」という中田先輩の研究発表である。
ぬらりひょんの目撃者の多くが、レビー小体型認知症を発症しているとのことで、レビー小体型認知症の症状のひとつである幻視が、ぬらりひょんの目撃に大きく関係しているとの統計からの推察であった。
で……。
発表を不機嫌そうに聴いていた僕たちに、余程腹が立ったのか、発表の途中、中田先輩は僕たちを名指しで非難してきた。
「要さんと橿原君、あんたらが仲が悪いのは、あんたらの勝手だけどさ、ここに来てまで不機嫌そうな顔しないでくれる? もう大人なんだから、そう云うのは表情に出さないものよ!」
「別に、僕は、要先輩と仲が悪いなんてこと、ありませんけど……」
僕は不貞腐れて、そう答える。嘘を言っている様でいて、実はこれが真実……。
「あーら、そうかしら? じゃ、次のフィールド調査は二人で行って貰いましょうか? お二人、仲がよろしいのだったら全然問題ないでしょう? 要さんもそれで良くって?」
耀子先輩はそれを聞くと、不機嫌そうに席を立ち、無言のまま教室からさっさと出て行ってしまう。
僕は彼女を追いかけたかったのだが、そこは我慢し、「彼女が帰って清々した……」と云う顔をして、自分の席へドッカリと腰を降ろした。
暗い闇の中……。
「幸四郎! どうするのよ?!」
今晩も、いつも通りの澄んだ声だが、少し怒りが含まれている様だった。
「僕は構いませんよ。一緒にフィールド調査に行きましょうよ!」
「そんなことしたら……」
「大丈夫ですよ! 僕たちはどう見ても相性の悪いカップルですからね。いかにも嫌そうに出かけましょうよ……。本当は、凄く嬉しいですけどね」
「私は本当に嫌ですけど……」
「では、月宮盈さん。フィールド調査、宜しくお願いします!」
「違う! 幸四郎! 今度それを言ったら、幸四郎でも殺すぞ!!」
突然の彼女の口調の変化に、僕は驚くよりも、なんか可笑しくなってきて、思わず吹き出しそうになる……。
何故か耀子先輩は、月宮盈と云う人物と間違えられるのが酷く嫌な様だ。
いつも冷静で、ちょっと上から目線の耀子先輩が、これほど動揺するのなんて驚きだし、本当に先輩が可愛く思えてくる。