暗い闇(二)

文字数 1,078文字

 翌日、僕は要耀子のことを色々な先輩に尋ねてみた。すると意外にも、彼女のことは誰もが良く知っていた。しかし、その評判は決して芳しいものではない……。

「要耀子? あいつ出鱈目ばかり言って、直ぐ(けむ)に巻くんだ。結構可愛い顔してるんだけどさ、男嫌いって云うのか、あいつと話しても面白くも何ともないぜ」とか、「耀子ちゃん? あの娘、何か不気味って云うか、妖しいって云うか、ちょっと気持ち悪いのよね。女の子なのに、ミステリー愛好会とかに入っているしさ」とか、「そう言えば、あいつの昔の同級生に話を聞いたんだけど、何か不思議なことばっか、するんだって言ってたぜ」とか……。
 あるいは、「あいつは、アメリカで孤児だったのを拾われたんだって……。で高校の時、一緒に貰われた兄貴が、突然謎の行方不明になったんだって……」なんて、彼女に直接責任のない噂話まで広まっていた……。
 それでも僕は、もう一度彼女に会ってみたいと願っていた……。

 その望みは意外と簡単に叶った。数日後、僕がキャンパスを歩いていると、彼女の方から声を掛けてきたのである。

「幸四郎、久しぶり。あれからどう?」
「あ、要先輩? 一体どうして?」
「一体って、私はここの学生よ。前に言わなかったかしら?」
 僕は返す言葉がなかった。勿論、そんなことは分かっている。分かってはいるが、なんとなく、彼女が異世界の住人の様な気がしていたのだ。しかし、そんな失礼なこと言う訳にも行かず、僕は言葉に詰まってしまった。

「じゃぁ、またね」
 そう言って、耀子先輩は立ち去ろうとしている。僕は彼女を引き留めようと、やっとのことで誘いの言葉を掛けることに成功した。
「要先輩、この前はありがとうございました。感謝の……、いや、お礼と言っては何ですが、お昼奢らせてくれませんか? 駅前の洋食屋で。ハンバーグ定食位ならご馳走できますが……」
「あら、悪いわね。ご馳走になろうかしら」
 意外にも、彼女は僕の誘いに乗ってきた。
 実のところ、僕は結構もてる方だと思っている。でも、仮にそうであったとしても、殆ど面識のない僕の誘いを、こうも簡単に彼女が受けてくれるとは、ちょっと予想をしていなかった。
 僕が聞いた話では、彼女は男嫌いのミステリアスな女性となっていたのだが……。

「じゃあ、お昼に駅前で待ってるね……」
 そう言うと、彼女は唖然としたままの僕を置いて、ひとり、さっさと去って行ってしまった……。
 斯うして、この日の午前中いっぱい、お昼に彼女と話す話題と、今月の残りの生活費をどうするか……、僕は随分と悩まなければならなくなってしまったのである。
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登場人物紹介

要耀子


某医療系大学看護学部三回生。ミステリー愛好会に所属する謎多き女性。

橿原幸四郎


某医療系大学医学部の新入生。

橿原敏子


橿原幸四郎の叔母。以前、奈良県で巫女の仕事をしていた霊感の強い女性。

加藤亨


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会部長。

中田美枝


某医療系大学薬学部三回生。ミステリー愛好会副部長。

是枝啓介


某医療系大学医学部三回生。ミステリー愛好会の会員。

柳美海


某医療系大学医学部二回生。ミステリー愛好会の会員。

白瀬沼藺


要耀子の高校時代の友人。

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