耀子の正体(九)
文字数 1,465文字
僕たちは途方に暮れた。答えを見つけた思ったのに、円周率は正しいパスワードでは無かった。もう、僕たちにはどうすることも出来ない。
「幸四郎、ご免ね。盈さんって、ああ云う人なのよ。いつも嘘ばっかり言っている。それを信じた私が馬鹿だったわ。結局、答えは無意味な数字の羅列だったのよ!」
耀子先輩は、溜息交じりに僕の労をねぎらってくれた。
「所詮、嘘つきの戯言。彼女が本当のことを云う可能性なんて低いもの……」
「待ってください。何か、そう、まだ簡単な定数があると思います」
「無駄よ。諦めなさい」
「何か……、あった様な気がするんですよ、別の定数が。高校で習う様な、語呂合わせで覚える簡単な定数が。何だったろう?
あ……、あった、別の定数。オイラー数」
耀子先輩は、ささっと、その数字を入れた様だった。
「5571……。駄目よ、これも駄目だわ」
「違いますよ、自然対数の底の方です」
「71828…で何だったかしら?」
「はい、今ネットで調べましたよ、これ入力してみてください」
僕の示した数字を耀子先輩がキー入力すると、時計にも似たその腕輪は、音を立てて外れ下へと落ちていく。それこそ間違いなく腕輪を外す為のパスワードだったのである。
耀子先輩は腕輪の嵌っていた手首を摩った。そこには別段、締め付けられた跡がある訳ではない。
「幸四郎、ありがとう。ごめんね、こうなった以上、私、行かなければならないわ」
「仕方ないです、後で埋め合わせしてくださいよ。でも、早く終ったら、少しでもいいですから、こっちに来てくださいね。待っていますから」
「さぁどうかしら、結構大変なのよ、相手が相手だけに……」
「強いんですか? その……、何とかって云うのは?」
「パズズとラバルトゥ。ライオン顔の夫婦の悪魔よ。どうせまた夫婦喧嘩して、こっちの世界に迷惑かけに来たのよ。あいつら結構強いから、追い払うのがせいぜいなの。取り敢えず、アッカドまで行ってくるわ」
「アッカド? 何処ですか、そこは?」
「メソポタニア。今のイラクね。でも、そんなこと考える必要もないわ。そうでしょう? 大全さん?」
先輩の席の後ろから、太い男の声が聞こえてくる。
「そうでしょうね……。お気付きになるとは思っていましたけど……」
「盈さんが移動するのだから、あなたたちが瞬間移動を手伝わなければならないものね。で、見張りなの? 私を運ばないと言うのなら、大全さんと云えども容赦しないわよ」
「私も母も、あなたは行くべきだと思っていますよ……。ご先代の月宮盈様に止められていましたから、私は敢えて何も言いませんでしたけどね……」
「じゃ、よろしくね。あと、幸四郎のこともお願い出来るかしら?」
「お任せください。何れにしても、妹の風花が新花巻駅でお待ち申しております。風花が幸四郎様のご案内を致しますし、馬神様、姫神様のお二人も、幸四郎様のフィールド調査のお手伝いをして下さることでしょう」
耀子先輩はそれを聞いて、にっこりと微笑んだ。僕も上手くいっているようで、満足そうに頷く。
「でも、結局あの人も、本当は耀子先輩に来て欲しかったんじゃないですか? だって、先輩に『微積が分からない』なんてヒントも与えてくれていたんですから……」
「そう云う人なのよ、月宮盈って人は……」
耀子先輩は立ち上がる前、何かを思い出した様に別の話題を切り出した。
「じゃぁ、小母様にちゃんと言っておいてね。『現在の耀公主は、月宮盈じゃなくて、最強の大悪魔、要耀子だ』って!」
そう言うと、耀子先輩は席を立ち、連結部の方へと歩き出したのである。
「幸四郎、ご免ね。盈さんって、ああ云う人なのよ。いつも嘘ばっかり言っている。それを信じた私が馬鹿だったわ。結局、答えは無意味な数字の羅列だったのよ!」
耀子先輩は、溜息交じりに僕の労をねぎらってくれた。
「所詮、嘘つきの戯言。彼女が本当のことを云う可能性なんて低いもの……」
「待ってください。何か、そう、まだ簡単な定数があると思います」
「無駄よ。諦めなさい」
「何か……、あった様な気がするんですよ、別の定数が。高校で習う様な、語呂合わせで覚える簡単な定数が。何だったろう?
あ……、あった、別の定数。オイラー数」
耀子先輩は、ささっと、その数字を入れた様だった。
「5571……。駄目よ、これも駄目だわ」
「違いますよ、自然対数の底の方です」
「71828…で何だったかしら?」
「はい、今ネットで調べましたよ、これ入力してみてください」
僕の示した数字を耀子先輩がキー入力すると、時計にも似たその腕輪は、音を立てて外れ下へと落ちていく。それこそ間違いなく腕輪を外す為のパスワードだったのである。
耀子先輩は腕輪の嵌っていた手首を摩った。そこには別段、締め付けられた跡がある訳ではない。
「幸四郎、ありがとう。ごめんね、こうなった以上、私、行かなければならないわ」
「仕方ないです、後で埋め合わせしてくださいよ。でも、早く終ったら、少しでもいいですから、こっちに来てくださいね。待っていますから」
「さぁどうかしら、結構大変なのよ、相手が相手だけに……」
「強いんですか? その……、何とかって云うのは?」
「パズズとラバルトゥ。ライオン顔の夫婦の悪魔よ。どうせまた夫婦喧嘩して、こっちの世界に迷惑かけに来たのよ。あいつら結構強いから、追い払うのがせいぜいなの。取り敢えず、アッカドまで行ってくるわ」
「アッカド? 何処ですか、そこは?」
「メソポタニア。今のイラクね。でも、そんなこと考える必要もないわ。そうでしょう? 大全さん?」
先輩の席の後ろから、太い男の声が聞こえてくる。
「そうでしょうね……。お気付きになるとは思っていましたけど……」
「盈さんが移動するのだから、あなたたちが瞬間移動を手伝わなければならないものね。で、見張りなの? 私を運ばないと言うのなら、大全さんと云えども容赦しないわよ」
「私も母も、あなたは行くべきだと思っていますよ……。ご先代の月宮盈様に止められていましたから、私は敢えて何も言いませんでしたけどね……」
「じゃ、よろしくね。あと、幸四郎のこともお願い出来るかしら?」
「お任せください。何れにしても、妹の風花が新花巻駅でお待ち申しております。風花が幸四郎様のご案内を致しますし、馬神様、姫神様のお二人も、幸四郎様のフィールド調査のお手伝いをして下さることでしょう」
耀子先輩はそれを聞いて、にっこりと微笑んだ。僕も上手くいっているようで、満足そうに頷く。
「でも、結局あの人も、本当は耀子先輩に来て欲しかったんじゃないですか? だって、先輩に『微積が分からない』なんてヒントも与えてくれていたんですから……」
「そう云う人なのよ、月宮盈って人は……」
耀子先輩は立ち上がる前、何かを思い出した様に別の話題を切り出した。
「じゃぁ、小母様にちゃんと言っておいてね。『現在の耀公主は、月宮盈じゃなくて、最強の大悪魔、要耀子だ』って!」
そう言うと、耀子先輩は席を立ち、連結部の方へと歩き出したのである。