暗い闇(七)
文字数 1,171文字
この不思議な雰囲気を断ち切る様に、僕は二人の会話に割り込んだ。
「さあさあ、要先輩もそんな所に立っていないで、座った、座った。ワインを出す訳には行きませんけどね、僕なりに一所懸命用意したんですよ」
僕は耀子先輩の椅子を引いて彼女を座らせると、叔母をテーブルにエスコートし、準備していたシチューを各人の皿に装 ってテーブルに運んでいった。
「ありがとう。あら、とても美味しそうなシチューだわ!」
「お口に合うと嬉しいんですけどね」
僕が準備を終えて席に着くと、敏子叔母の「じゃ食べましょうか」と云う合図で、三人の、この豪華な昼食が始まった。
この昼食は緊張の中、静かに節度を持って進んでいった。時折、部屋の奥で床の軋る音や不思議な物音が聞こえるのだが、耀子先輩がそこに、にっこりと笑顔を向けると、何か悪戯っ子の様な気配が、恥ずかしそうにさっと隠れてしまうのだ。
この後、何事もなくランチは終了し、先輩もきちんと礼をし、帰っていった。
午後になって落ち着いた時、リビングのロッキングチェアに戻った叔母が、僕に耀子先輩の話を持ち出して来た。
「ま、無駄だと思うけど、一応忠告をして置いてやるよ。幸四郎、あの娘 はちょっと諦めた方がいいと思うんだけどね……」
「なんでさ? 別に礼儀がなってないとか、そんなこと無いだろ?」
「身分違いって言うのかね……」
「何言ってるんだよ、叔母さん、彼女の出生なんて、叔母さんには分からないだろう? それに彼女がどんな立場の人間だって、今の日本では、身分違いなんてない筈だよ! 別に僕が神様に仕えている訳でもないし……。今の世の中、仮に彼女が妖怪だって構わないじゃないか!」
「お前、勘違いしている様だけど、あの娘 の身分が低いんじゃなくて、高すぎるんだよ。彼女は神仏では無いって言っていたけど、この物の怪たちの様子を見て御覧な。恐怖で怯えているんじゃなくて、喜びで興奮してるんだよ。丁度、アイドルがやってきたか、外国の皇族が来たみたいにさ。あの娘 はきっと、とんでもない娘だよ……」
「そういえば、僕が物の怪に化かされていた時、『政木様に言いつける』とか言っていたなぁ。そうしたら、物の怪が一瞬で引っ込んじゃった様な気がして、それって……」
「政木狐か……、妖狐界の大立者だね。確か政木狐の娘で、妖狐シラヌイとか言うのがいるって聞いたことがあるよ。あの娘 がシラヌイかどうかは分からないが、政木狐に直接会うことの出来る程の地位にあることは間違いないだろうね……」
斯うして、僕と耀子先輩と云う謎の女性との付き合いは始まった……。
この後、僕はミステリー愛好会に再び参加する様になり、耀子先輩もミステリー愛好会に徐々に現れ出した。しかし、僕たち二人が、特別親しいと思われる言動を取ることは、僕も耀子先輩も、
「さあさあ、要先輩もそんな所に立っていないで、座った、座った。ワインを出す訳には行きませんけどね、僕なりに一所懸命用意したんですよ」
僕は耀子先輩の椅子を引いて彼女を座らせると、叔母をテーブルにエスコートし、準備していたシチューを各人の皿に
「ありがとう。あら、とても美味しそうなシチューだわ!」
「お口に合うと嬉しいんですけどね」
僕が準備を終えて席に着くと、敏子叔母の「じゃ食べましょうか」と云う合図で、三人の、この豪華な昼食が始まった。
この昼食は緊張の中、静かに節度を持って進んでいった。時折、部屋の奥で床の軋る音や不思議な物音が聞こえるのだが、耀子先輩がそこに、にっこりと笑顔を向けると、何か悪戯っ子の様な気配が、恥ずかしそうにさっと隠れてしまうのだ。
この後、何事もなくランチは終了し、先輩もきちんと礼をし、帰っていった。
午後になって落ち着いた時、リビングのロッキングチェアに戻った叔母が、僕に耀子先輩の話を持ち出して来た。
「ま、無駄だと思うけど、一応忠告をして置いてやるよ。幸四郎、あの
「なんでさ? 別に礼儀がなってないとか、そんなこと無いだろ?」
「身分違いって言うのかね……」
「何言ってるんだよ、叔母さん、彼女の出生なんて、叔母さんには分からないだろう? それに彼女がどんな立場の人間だって、今の日本では、身分違いなんてない筈だよ! 別に僕が神様に仕えている訳でもないし……。今の世の中、仮に彼女が妖怪だって構わないじゃないか!」
「お前、勘違いしている様だけど、あの
「そういえば、僕が物の怪に化かされていた時、『政木様に言いつける』とか言っていたなぁ。そうしたら、物の怪が一瞬で引っ込んじゃった様な気がして、それって……」
「政木狐か……、妖狐界の大立者だね。確か政木狐の娘で、妖狐シラヌイとか言うのがいるって聞いたことがあるよ。あの
斯うして、僕と耀子先輩と云う謎の女性との付き合いは始まった……。
この後、僕はミステリー愛好会に再び参加する様になり、耀子先輩もミステリー愛好会に徐々に現れ出した。しかし、僕たち二人が、特別親しいと思われる言動を取ることは、僕も耀子先輩も、
表向きには
決してしなかったのである。