耀子の正体(二)
文字数 1,309文字
帰ってリビングに入るなり、僕は叔母に何でもっと早くに耀子先輩の来訪を知らせてこないのかと叱責を受けた。
で、その言い訳をしようとした将にその時、玄関のチャイムが「ピンポーン」と響く。どうも、僕の帰宅に先輩は来訪を合わせてくれていた様だ。
玄関に急ぎ走って僕はドアを開く。前回とは異なり、耀子先輩は大学に現れるようなラフな服装のままで、彼女自身あまり準備が出来ている様には見えなかった。
にも関わらず、彼女をリビングまで案内する間、わーっと云う様な、音の聞こえない歓声が、屋敷中を包んでいる様に僕には感じられる。然もありなん。この家に住む怪しいモノたちの間では、先輩の人気は絶大なものがあるのだ。
「小母様、ご無沙汰しております。今晩は、突然お邪魔して申し訳ありません」
「本当、久しぶりだわ。済みませんね、どうせまた、幸四郎がとんでもない頼み事をしたんでしょうね。貴女 とはずっとお話がしたかったのよ。用事が済んだらこちらにいらしてね。もし宜しかったら、泊まっていって頂けると嬉しいわ」
「宜しいんですか?」
「ええ、お父様お母様が心配なさるでしょうから、連絡される時、一言、ご挨拶をさせてね。馬鹿な甥には、絶対手出しなどはさせませんって言いますから……」
僕は流石に苦笑するしかなかった。
耀子先輩は自宅に連絡を入れ、外泊する旨を伝え、そのまま叔母と替わった。なんか気が合うのか、敏子叔母は楽しそうに先輩のお母さんと話をしている。
そして、それも済み、耀子先輩はスマホを叔母から受け取ると、僕と共に勉強部屋に入った。これがもう少し、時間に余裕がある状況であれば……と僕は思ったのだが、そうであったなら、先輩がこんな時刻に来てくれる筈もない。
僕は教科書 を1ページ1ページ捲っていく、そうして、時折耀子先輩が指示を出していき、僕がその指示のあった部分をメモする。そして、その合間に耀子先輩がドイツ語の質問をし、僕が答えられるようにフォローしてくれて、僕がそれを覚えていく。
先輩に言わせると、指示のあった部分が出題箇所であり、それさえ覚えておけば間違いなく追試をクリア出来るとのことだ。
その一連の作業が全て終了したのは、もう夜中を過ぎた頃だった……。
リビングに降りて来た時には、僕は勿論、流石に耀子先輩も疲れの色を隠せない。その二人を待っていたのは、ロッキングチェアに座っている叔母の敏子と、彼女が用意してくれた簡単な軽食のサンドウィッチだった。
「うわぁ、おいしそう!」
耀子先輩は声に出して、その喜びを表してしまう。僕も思わず目尻が下がった。
「叔母さん、ありがとう。腹減ったなぁ」
「とりあえず、お食べなさい。それからお話しましょう?」
叔母に勧められ、僕と耀子先輩は遠慮なしにサンドウィッチを頬張った。
後に、敏子叔母は、この要耀子と云う女性のことを、今ひとつ、近づきがたい印象だと思っていたらしいのだが、その無邪気にサンドウィッチを食べる姿を見て、始めて「ああ、普通のお嬢さんなんだな……」と云う感想を持ったと言っている。
このミステリアスな女性も、空腹の時だけは、単なる一人の人間に戻ってしまうのかも知れない……。
で、その言い訳をしようとした将にその時、玄関のチャイムが「ピンポーン」と響く。どうも、僕の帰宅に先輩は来訪を合わせてくれていた様だ。
玄関に急ぎ走って僕はドアを開く。前回とは異なり、耀子先輩は大学に現れるようなラフな服装のままで、彼女自身あまり準備が出来ている様には見えなかった。
にも関わらず、彼女をリビングまで案内する間、わーっと云う様な、音の聞こえない歓声が、屋敷中を包んでいる様に僕には感じられる。然もありなん。この家に住む怪しいモノたちの間では、先輩の人気は絶大なものがあるのだ。
「小母様、ご無沙汰しております。今晩は、突然お邪魔して申し訳ありません」
「本当、久しぶりだわ。済みませんね、どうせまた、幸四郎がとんでもない頼み事をしたんでしょうね。
「宜しいんですか?」
「ええ、お父様お母様が心配なさるでしょうから、連絡される時、一言、ご挨拶をさせてね。馬鹿な甥には、絶対手出しなどはさせませんって言いますから……」
僕は流石に苦笑するしかなかった。
耀子先輩は自宅に連絡を入れ、外泊する旨を伝え、そのまま叔母と替わった。なんか気が合うのか、敏子叔母は楽しそうに先輩のお母さんと話をしている。
そして、それも済み、耀子先輩はスマホを叔母から受け取ると、僕と共に勉強部屋に入った。これがもう少し、時間に余裕がある状況であれば……と僕は思ったのだが、そうであったなら、先輩がこんな時刻に来てくれる筈もない。
僕は
先輩に言わせると、指示のあった部分が出題箇所であり、それさえ覚えておけば間違いなく追試をクリア出来るとのことだ。
その一連の作業が全て終了したのは、もう夜中を過ぎた頃だった……。
リビングに降りて来た時には、僕は勿論、流石に耀子先輩も疲れの色を隠せない。その二人を待っていたのは、ロッキングチェアに座っている叔母の敏子と、彼女が用意してくれた簡単な軽食のサンドウィッチだった。
「うわぁ、おいしそう!」
耀子先輩は声に出して、その喜びを表してしまう。僕も思わず目尻が下がった。
「叔母さん、ありがとう。腹減ったなぁ」
「とりあえず、お食べなさい。それからお話しましょう?」
叔母に勧められ、僕と耀子先輩は遠慮なしにサンドウィッチを頬張った。
後に、敏子叔母は、この要耀子と云う女性のことを、今ひとつ、近づきがたい印象だと思っていたらしいのだが、その無邪気にサンドウィッチを食べる姿を見て、始めて「ああ、普通のお嬢さんなんだな……」と云う感想を持ったと言っている。
このミステリアスな女性も、空腹の時だけは、単なる一人の人間に戻ってしまうのかも知れない……。