耀子の正体(四)
文字数 1,198文字
叔母の、その最後の台詞を聞いて、耀子先輩はガックリと項垂れてしまう。そして、暫くの間は、あまりのショックの為に、声を出すことすら出来なくなってしまったようだ。
「あの……、小母様……、それ……、違いますけど……」
「え? 何? 人違いだって言うの?」
「お世話になった小母様でなければ、私、あなたを殺していたかも知れませんよ。私は月宮盈ではありません。いくら何でも、彼女と間違うなんて……、酷過ぎます……」
「あら、おかしいわね? 光臨派って耀公主と闘っている宗派でしょ?
あのお坊さん、貴女 と対決していたって言っていたけど……。確か、現代の耀公主って月宮盈で、まだ次に憑依していないと思ったんだけどねぇ……」
「と、取り敢えず……、人違いです。私は要耀子です……」
その後、この部屋の空気は、異常な脱力感で満たされた。耀子先輩は客室に案内され、僕自身も自室に戻った。そして、一人残ったのは叔母の敏子だけになる。
「おかしいねぇ。間違いないと思ったんだけどねぇ。あのお嬢さんが嘘を吐いている様にも見えないしねぇ。おかしいねぇ……」
叔母は、ロッキングチェアに座ったまま、眠りにつくまで、ずっと同じことを呟いていたのだそうだ。
翌朝、どうにも昨夜の脱力感から回復できない耀子先輩は、簡単なトーストとカフェオレの朝食を食べ、そのままフラフラと自宅へと帰って行った。
僕はと云うと、昨日の自習の成果を試すべく試練の追試に臨み、叔母は、矢張りその日1日、ずっと首を捻っていた。
一週間後……。
「で、どうだった? 幸四郎」
いつも通り澄んだ声が、僕の背中の方から聞こえてくる。
「何とかセーフです。で、あの……、お礼に……」
「じゃ、五円頂戴ね」
「でも、そんな少しのお礼じゃ……」
「駄目よ。そこのルールは守らないと、脅威の検知が出来なくなるの。あなた、途中で『ヤマが外れても、お礼だけはしよう……』なんて思ったでしょ? 脅威の検知が出来なくなりそうだったわ」
「やっぱり、そうだったんですね。耀子先輩がお礼を要求するなんて、変だと思ったんですよ。良かった。そう思って『失敗したら、お金を渡さない』って、心の中で連呼していたんです」
「正解ね。でも、そんなこと考えていて、覚えられたのかしら?」
「危なかったですけどね……。ヤマが当たっているのに、なかなか答えが思い出せなくて、苦戦しました」
「じゃ、五円頂戴……。早くして、私、急いでるの」
「どうしたんですか?」
「幸四郎には関係の無いことよ」
「悪魔狩りですね……。僕もついて行っていいですか?」
「駄目よ! それに悪魔狩りでは無いわ。五円を渡しなさい!」
「連れて行ってくれたらお渡しします」
「それなら後で頂くわ」
「要先輩!」
その最後の台詞には、耀子先輩の返事は返って来なかった。そして勿論、僕が振り返っても、そこに彼女の姿はなく、深くて暗い闇が満たされているだけだったのである。
「あの……、小母様……、それ……、違いますけど……」
「え? 何? 人違いだって言うの?」
「お世話になった小母様でなければ、私、あなたを殺していたかも知れませんよ。私は月宮盈ではありません。いくら何でも、彼女と間違うなんて……、酷過ぎます……」
「あら、おかしいわね? 光臨派って耀公主と闘っている宗派でしょ?
あのお坊さん、
「と、取り敢えず……、人違いです。私は要耀子です……」
その後、この部屋の空気は、異常な脱力感で満たされた。耀子先輩は客室に案内され、僕自身も自室に戻った。そして、一人残ったのは叔母の敏子だけになる。
「おかしいねぇ。間違いないと思ったんだけどねぇ。あのお嬢さんが嘘を吐いている様にも見えないしねぇ。おかしいねぇ……」
叔母は、ロッキングチェアに座ったまま、眠りにつくまで、ずっと同じことを呟いていたのだそうだ。
翌朝、どうにも昨夜の脱力感から回復できない耀子先輩は、簡単なトーストとカフェオレの朝食を食べ、そのままフラフラと自宅へと帰って行った。
僕はと云うと、昨日の自習の成果を試すべく試練の追試に臨み、叔母は、矢張りその日1日、ずっと首を捻っていた。
一週間後……。
「で、どうだった? 幸四郎」
いつも通り澄んだ声が、僕の背中の方から聞こえてくる。
「何とかセーフです。で、あの……、お礼に……」
「じゃ、五円頂戴ね」
「でも、そんな少しのお礼じゃ……」
「駄目よ。そこのルールは守らないと、脅威の検知が出来なくなるの。あなた、途中で『ヤマが外れても、お礼だけはしよう……』なんて思ったでしょ? 脅威の検知が出来なくなりそうだったわ」
「やっぱり、そうだったんですね。耀子先輩がお礼を要求するなんて、変だと思ったんですよ。良かった。そう思って『失敗したら、お金を渡さない』って、心の中で連呼していたんです」
「正解ね。でも、そんなこと考えていて、覚えられたのかしら?」
「危なかったですけどね……。ヤマが当たっているのに、なかなか答えが思い出せなくて、苦戦しました」
「じゃ、五円頂戴……。早くして、私、急いでるの」
「どうしたんですか?」
「幸四郎には関係の無いことよ」
「悪魔狩りですね……。僕もついて行っていいですか?」
「駄目よ! それに悪魔狩りでは無いわ。五円を渡しなさい!」
「連れて行ってくれたらお渡しします」
「それなら後で頂くわ」
「要先輩!」
その最後の台詞には、耀子先輩の返事は返って来なかった。そして勿論、僕が振り返っても、そこに彼女の姿はなく、深くて暗い闇が満たされているだけだったのである。