最終話 遠き都に日は落ちて

文字数 1,455文字

「右大臣様。それは妖でござりますか。では退治ですね」
「ああ。八田家に頼んだぞ」
「は。承知しました」

八田陰陽師は、宮廷の依頼を受けて本家で父親に相談した。

「東山道に退治とな。それはいかん。私が参る」
「父上は無理でございます。私が参ります」
「清明は天満宮の宮司ではないか。そなたも無理じゃ」

最高宮司の八田晴臣は息子にそう言い放った。若き宮司の清明は美貌の青年に育っていた。その力強く、今までにない最高能力者として高い評価を得ていた。

この話の中、老齢の弦翠や紀章も行くと話したが、清明は適任者がいると言い出した。

「笙明様です。私が生まれる前。大活躍だったそうではありませぬか」
「しかし。今度は私が」
「父上には無理です。というわけで。笙明伯父上様。いかがですか」
「お前に言われたら、行かねばなるまいの」

四十歳になった彼は妻を病でなくし独り身であった。神職を務めていたが、それも加志目に譲り悠々自適に過ごしていた。

「私で良ければ参るがの。供が必要じゃ」
「それは心得ておりまする」

晴明の仕切りで話がまとまった。笙明は再び東山道の旅に行くことになった。
そして出立の日。

「笙明様。こちらです!早く」
「篠は手厳しいな」
「あなたはもっと厳しかったですよ」

立派な青年となった篠は、妻と幼い妻のために妖退治に参加した。そんな二人は後、一人を待った。

「こっちだよ!ええと。君は?」
「我、修験僧、龍牙の孫。虎眼(とらめ)なり!」
「わかったよ。ほら、落ち着いて」
「ははは。篠はもっと生意気だったぞ」

青年の篠。年配の笙明。そして子供の虎目。昔と同じ構成の三人はどこか新しく、どこか懐かしい思いで出発しようとしていた。そこに清明が忘れ物だと手を叩いた。

「伯父上様。何かお忘れではありませぬか」
「はて。刀は持ったし。支度もあるぞ」

すると篠が目を丸くした。

「し、笙明様。後ろ、後ろ」
「なんだ……おお」

そこにはいつかのそれと変わらぬ娘が恥ずかしそうに立っていた。彼女の手を清明が取り、皆に案内していた。


「この方を忘れては困りまする。鷺の方のお澪様です」
「澪、本当に澪なのか」
「はい。笙明様。お久しぶりでございます」

二十年ぶりの再会。シワと白髪が目立つ笙明であったが、澪は全く変わっていなかった。彼は馬を降り、澪に駆け寄るとその白い頬を撫でた。

「澪……会いたかった。なぜ。会いに来てくれなかった」
「ごめんなさい。夕水様と約束で。二十年待てと」
「そうであったか」

笙明は優しく澪を抱きしめた。澪が抱き返すと二人は眩しい光に包まれた。そしてそれが消えた時、笙明は若かりし姿に戻っていた。

「なんと?伯父上様。見違えました」
「澪のおかげか。ほう。篠より若くなった」
「ひどい。ねえ。澪。あとで俺にもやってね」
「なんの話?ねえ、なんの話だよ!」

篠と虎目に澪は微笑んだ。そして澪は清明に向かった。

「私がついていますので。清明様はご安心なさってくださいませ」
「はい、あの。伯父上様。いや……父上。母上。お気をつけて」


見送る若き清明を晴臣が優しく肩を叩いた。
四名はこうして都を後にした。

「さて。のんびりゆくか」

「何を言っているんだよ。一人だけ馬に乗ってるし。ねえ。さっさと退治して都に戻るぞ」
「篠って怒ってばかりだね。父上のいう通りだ」
「虎目ちゃんはお父さんに似て正直者ね。ふふふ。さあ、日が暮れぬ前に、参りましょう」


都を背にした四名は歩みを始めた。先にいるのはどのような妖か。彼らの旅はこれからも続くのだった。







長きに渡りのご愛読、感謝申し上げます。

2020年木枯らしの頃

みちふむ

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