後編
文字数 1,842文字
晴臣と加志目は澪をそばに見物の中、笙明達は大蛇に向かっていた。
まずは篠が斬り込むと大蛇は毒煙を吐き首を伸ばして来た。この首を龍牙が斬ろうとしたが交わされてしまった。ここで笙明は早々と笛を取り出し美しい調べを奏でた。
すると蛇の動きが散漫になって来た。
「俺が気を引くから。龍牙が首を切って!」
「ああ。しかしできるかの」
そういう篠は大蛇の背に乗りその体に剣を刺した。痛みで暴れる蛇の首。これを落とそうと龍牙は念を込めて太刀を振るった。しかし。奮わず、体を切りつけるだけで、致命傷を与えるまでには至らなかった。ここで笙明は笛を止めた。
「滅、死、苦、消、痛……」
ここで苦しみ出した蛇。この時、体に上っていた篠が、目に太刀を指した。これを逃さず、笙明は妖刀にて首をさっと落とした。
「龍牙、妖の塊を」
「おお。どこだ、どこにある」
蛇の屍。これを見た晴臣は嬉々とした笑みを浮かべた。
「見事であった、弟よ」
「笙明様。さすがにございます」
「兄者。加志目よ。これは話がうますぎまする」
あまりにも手応えがない、と話す笙明に二人も顔色を変えた。
「では敵の狙いはなんとする」
「蛇を倒せば済む話ではありませぬか」
「う、ううう」
ここで澪は目を覚ました。目の前の晴臣に逃げるように彼女は笙明に縋り付いた。
「この方達は?」
「澪よ。私の兄者だ。こちらは家臣の加志目」
彼女はようやくじっと晴臣を見た。いつか水鏡越しに見た男に、彼女は胸の鼓動を抑えていた。
「そうですか。あなた様は笙明様のお兄様……」
「晴臣だ。お主が鷺娘の澪か」
彼女を見つめる兄に違和感を抱きつつ、笙明は思いを巡らした。
「我らをここにまとめて、何を一体」
「天代の考えることだ。我が八田家への画策であるのは間違いない」
その時。加志目があっと声をあげた。
「見てください城の方が何やら明るいです」
「明るい……」
「もしかして。兄者」
城がある方向はまるで日が沈むような明るさだった。
「火の手?」
「城が?まさかそんな」
篠と龍牙が目を丸くしている時、晴臣は目を閉じて念じていた。
「……どうやらこれが敵の目的のようだな」
「え?何がどうしたっていうの」
篠の問いに加志目が答えた。
「何者かが城に火を放ったのです。城以外に妖がいると言い、晴臣様や夕水様を城外に向かわせ、その手薄の時に火を放ったのでしょう」
「誰か、とは天代じゃな。そして、父上は今?」
八田家はそれぞれ妖退治に出向き、城の外だと語った。
「俺たちを足止めする気だったんだな」
「そして城に火を。せっかく蘇ったのというのに」
「はい。そして結界を張るのに必要な八田家陰陽師を追い出したかったのでしょうね」
「こうしてはおられぬ。皆で城に戻るのじゃ」
「そうですね。篠、龍牙。澪。参るぞ」
はい、と澪は晴臣の腕を離れ、笙明の胸にすがった。これを晴臣が見ていたのを笙明はまだ知らずにいた。
支度を整えた彼らは急ぎ城へ戻ると話した。晴臣と加志目は馬で先に帰ると話した。
「笙明。その娘に先に城に飛び、弦翠に子細を伝えられぬか」
「澪は確かに弦翠を知っておりますが」
兄の申し出であるが、彼は澪を心配そうに見つめた。澪はよく分からぬまま支度をしていた。
「澪よ。こちらにおいで。お前は、先に行き、弦翠兄者に話が出来るか」
「笙明様がそうおっしゃるなら。澪は何でも致します」
「そうか。澪。決して無理をするなよ」
そのため澪は晴臣達と一緒に先に行くことになった。三人は加志目の馬に乗る澪に手を振り見送ったのだった。
小柄な加志目であったが、その背に娘を置き静かに馬を進めていた。主人の晴臣は無言で先へ進んでいった。行き交う人々は城方面から逃げるように彼らとすれ違っていた。澪は加志目の耳に声をかけた。
「加志目様。どこまで行くのですか」
「時期に止まります。ここのようです。どうどう」
道中の橋の前。晴臣が馬を止めたので、加志目もそれに習った。晴臣はすっと天を見上げた。
「お澪。あの方角に弦翠がいる。弟には今回のは天代宗の仕業という話と、我らが城に向かっていると伝えてくれ」
「はい」
「そしてお前は。城にいてくれ。我らの到着を待て」
「はい」
馬を降りた澪はくるりと回転したかと思うと鷺になっていた。そして大きな翼を広げ天に舞っていた。
「お綺麗ですね……人間の姿もお美しいですが、鳥の時はまた気品があって」
見惚れている加志目を無視するかのように晴臣は馬の腹を蹴った。
「行くぞ。我らも早く城に戻るのだ」
「はい」
炎立つ帝都。陰陽師晴臣は、鬼神の如く馬を走らせていくのだった。
続く
まずは篠が斬り込むと大蛇は毒煙を吐き首を伸ばして来た。この首を龍牙が斬ろうとしたが交わされてしまった。ここで笙明は早々と笛を取り出し美しい調べを奏でた。
すると蛇の動きが散漫になって来た。
「俺が気を引くから。龍牙が首を切って!」
「ああ。しかしできるかの」
そういう篠は大蛇の背に乗りその体に剣を刺した。痛みで暴れる蛇の首。これを落とそうと龍牙は念を込めて太刀を振るった。しかし。奮わず、体を切りつけるだけで、致命傷を与えるまでには至らなかった。ここで笙明は笛を止めた。
「滅、死、苦、消、痛……」
ここで苦しみ出した蛇。この時、体に上っていた篠が、目に太刀を指した。これを逃さず、笙明は妖刀にて首をさっと落とした。
「龍牙、妖の塊を」
「おお。どこだ、どこにある」
蛇の屍。これを見た晴臣は嬉々とした笑みを浮かべた。
「見事であった、弟よ」
「笙明様。さすがにございます」
「兄者。加志目よ。これは話がうますぎまする」
あまりにも手応えがない、と話す笙明に二人も顔色を変えた。
「では敵の狙いはなんとする」
「蛇を倒せば済む話ではありませぬか」
「う、ううう」
ここで澪は目を覚ました。目の前の晴臣に逃げるように彼女は笙明に縋り付いた。
「この方達は?」
「澪よ。私の兄者だ。こちらは家臣の加志目」
彼女はようやくじっと晴臣を見た。いつか水鏡越しに見た男に、彼女は胸の鼓動を抑えていた。
「そうですか。あなた様は笙明様のお兄様……」
「晴臣だ。お主が鷺娘の澪か」
彼女を見つめる兄に違和感を抱きつつ、笙明は思いを巡らした。
「我らをここにまとめて、何を一体」
「天代の考えることだ。我が八田家への画策であるのは間違いない」
その時。加志目があっと声をあげた。
「見てください城の方が何やら明るいです」
「明るい……」
「もしかして。兄者」
城がある方向はまるで日が沈むような明るさだった。
「火の手?」
「城が?まさかそんな」
篠と龍牙が目を丸くしている時、晴臣は目を閉じて念じていた。
「……どうやらこれが敵の目的のようだな」
「え?何がどうしたっていうの」
篠の問いに加志目が答えた。
「何者かが城に火を放ったのです。城以外に妖がいると言い、晴臣様や夕水様を城外に向かわせ、その手薄の時に火を放ったのでしょう」
「誰か、とは天代じゃな。そして、父上は今?」
八田家はそれぞれ妖退治に出向き、城の外だと語った。
「俺たちを足止めする気だったんだな」
「そして城に火を。せっかく蘇ったのというのに」
「はい。そして結界を張るのに必要な八田家陰陽師を追い出したかったのでしょうね」
「こうしてはおられぬ。皆で城に戻るのじゃ」
「そうですね。篠、龍牙。澪。参るぞ」
はい、と澪は晴臣の腕を離れ、笙明の胸にすがった。これを晴臣が見ていたのを笙明はまだ知らずにいた。
支度を整えた彼らは急ぎ城へ戻ると話した。晴臣と加志目は馬で先に帰ると話した。
「笙明。その娘に先に城に飛び、弦翠に子細を伝えられぬか」
「澪は確かに弦翠を知っておりますが」
兄の申し出であるが、彼は澪を心配そうに見つめた。澪はよく分からぬまま支度をしていた。
「澪よ。こちらにおいで。お前は、先に行き、弦翠兄者に話が出来るか」
「笙明様がそうおっしゃるなら。澪は何でも致します」
「そうか。澪。決して無理をするなよ」
そのため澪は晴臣達と一緒に先に行くことになった。三人は加志目の馬に乗る澪に手を振り見送ったのだった。
小柄な加志目であったが、その背に娘を置き静かに馬を進めていた。主人の晴臣は無言で先へ進んでいった。行き交う人々は城方面から逃げるように彼らとすれ違っていた。澪は加志目の耳に声をかけた。
「加志目様。どこまで行くのですか」
「時期に止まります。ここのようです。どうどう」
道中の橋の前。晴臣が馬を止めたので、加志目もそれに習った。晴臣はすっと天を見上げた。
「お澪。あの方角に弦翠がいる。弟には今回のは天代宗の仕業という話と、我らが城に向かっていると伝えてくれ」
「はい」
「そしてお前は。城にいてくれ。我らの到着を待て」
「はい」
馬を降りた澪はくるりと回転したかと思うと鷺になっていた。そして大きな翼を広げ天に舞っていた。
「お綺麗ですね……人間の姿もお美しいですが、鳥の時はまた気品があって」
見惚れている加志目を無視するかのように晴臣は馬の腹を蹴った。
「行くぞ。我らも早く城に戻るのだ」
「はい」
炎立つ帝都。陰陽師晴臣は、鬼神の如く馬を走らせていくのだった。
続く