最終話 ミッション・コンプリート!
文字数 1,497文字
僕の部屋へと入った二人。
そこへ黒いスーツを着た細身の男が現れた。サタンだ。
「さぁ、元の身体へ戻るための審議をしようか」
元に戻るのを拒んでいる人はもういない。
順調にいけば戻れるはずだ。
「元に戻す前に前回のおさらいをしようか。
この部屋のゴミ箱にある大量のティッシュ。あれは何をしたものかな?」
自分の身体 の顔が赤くなりうつむいた。
しばらく沈黙が続き、顔を上げた。
「分かった。認めるわ」
イブキさんが堪えきれずに話し出した。
「細石 君の身体でオナニーしたことを告白します」
イブキさんが懺悔を始めた。
「〝もしあなたの右の目が罪を犯させるなら、それを抜き出して捨てなさい。五体の一部を失っても、全身が地獄に投げ入れられない方が、あなたにとって益である〟と言います」
この部分は夕拝のときに聞いたことがある。『マタイによる福音書』だ。
「この股間が情欲を生むのであれば切り捨てても構いません。どうか罪深いボクをお許しください」
「ちょ、ちょっと、それ僕の身体! 勝手に切り取らないで!」
サタンがニヤリと笑った。
「この中で石を投げられるやつはいるかい?」
姦淫の罪で石打の刑にさようとした女性のときの話だ。
この中といってもイブキさんの他には僕かサタンしかいない。
もちろん僕はイブキさんを責めることはできない。
健全な男子ならみんなやっていることだ。
「いないようだな。
ふふ、いいぜ。正直に告白したし許してやるぜ。
それに身体だけは絶対に傷つけるなと言われているからな」
一瞬目の前が暗くなり、景色が変わって目の前にヨシアさん。
もはやサタンの姿は消えていた。
「よかった……」
「でもサタンは何がしたかったんだ? たんに僕らを苛めただけ?」
「神様のお考えはボク達には理解が及ばないものよ」
こうして僕らの奇妙な入れ替わり生活は終わりを告げた。
イブキさんとは文通を始める約束をした。
メールやSNSでないのは彼女がスマホを持っていないからだ。
僕の部屋にはイブキさんが残していった聖書がある。
パラパラとめくっていたら〝家造りらの捨てた石が隅のかしら石になった〟という文を見つけた。
赤鉛筆で線を引いてある。イブキさんが引いたものだ。
気になって調べると家造りとは大工のことで、かしら石というのは土台となる石のことだった。
つまり、大工が建物に使えなくて不要だと思って捨てた石が実は重要な石だったということだ。
石繋がりで岩の文字にも目が留まった。ここにも赤線が引いてある。
〝そこで、わたしもあなたに言う。あなたはペテロである。そして、わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てよう。黄泉 の力もそれに打ち勝つことはない〟
調べてみるとペテロというのはイエス・キリストの弟子で、ペテロというのは岩という意味らしい。
僕の名前は細石 巌央 。細石は小さな石。それが集まって巌という大きな岩になる。
岩繋がりでペテロに勝手に親近感を覚える僕。
親に期待されずに育った僕も、なにがしか人の役に立つ人物になることもできるのだろうか?
一週間ぶりに自分の学校へ登校した僕。
友達は一人もいない生活へと戻った。
昼休みに購買でパンを買って食べる。
〝人はパンだけで生きるものではない〟という聖書の言葉が頭をよぎった。
聖ジョルジオ女学園でみんなと過ごした楽しい日々が背中を押す。
「ねぇ、一緒に食べない?」
小さな石ころが集まり始めた瞬間だった。
そこへ黒いスーツを着た細身の男が現れた。サタンだ。
「さぁ、元の身体へ戻るための審議をしようか」
元に戻るのを拒んでいる人はもういない。
順調にいけば戻れるはずだ。
「元に戻す前に前回のおさらいをしようか。
この部屋のゴミ箱にある大量のティッシュ。あれは何をしたものかな?」
しばらく沈黙が続き、顔を上げた。
「分かった。認めるわ」
イブキさんが堪えきれずに話し出した。
「
イブキさんが懺悔を始めた。
「〝もしあなたの右の目が罪を犯させるなら、それを抜き出して捨てなさい。五体の一部を失っても、全身が地獄に投げ入れられない方が、あなたにとって益である〟と言います」
この部分は夕拝のときに聞いたことがある。『マタイによる福音書』だ。
「この股間が情欲を生むのであれば切り捨てても構いません。どうか罪深いボクをお許しください」
「ちょ、ちょっと、それ僕の身体! 勝手に切り取らないで!」
サタンがニヤリと笑った。
「この中で石を投げられるやつはいるかい?」
姦淫の罪で石打の刑にさようとした女性のときの話だ。
この中といってもイブキさんの他には僕かサタンしかいない。
もちろん僕はイブキさんを責めることはできない。
健全な男子ならみんなやっていることだ。
「いないようだな。
ふふ、いいぜ。正直に告白したし許してやるぜ。
それに身体だけは絶対に傷つけるなと言われているからな」
一瞬目の前が暗くなり、景色が変わって目の前にヨシアさん。
もはやサタンの姿は消えていた。
「よかった……」
「でもサタンは何がしたかったんだ? たんに僕らを苛めただけ?」
「神様のお考えはボク達には理解が及ばないものよ」
こうして僕らの奇妙な入れ替わり生活は終わりを告げた。
イブキさんとは文通を始める約束をした。
メールやSNSでないのは彼女がスマホを持っていないからだ。
僕の部屋にはイブキさんが残していった聖書がある。
パラパラとめくっていたら〝家造りらの捨てた石が隅のかしら石になった〟という文を見つけた。
赤鉛筆で線を引いてある。イブキさんが引いたものだ。
気になって調べると家造りとは大工のことで、かしら石というのは土台となる石のことだった。
つまり、大工が建物に使えなくて不要だと思って捨てた石が実は重要な石だったということだ。
石繋がりで岩の文字にも目が留まった。ここにも赤線が引いてある。
〝そこで、わたしもあなたに言う。あなたはペテロである。そして、わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てよう。
調べてみるとペテロというのはイエス・キリストの弟子で、ペテロというのは岩という意味らしい。
僕の名前は
岩繋がりでペテロに勝手に親近感を覚える僕。
親に期待されずに育った僕も、なにがしか人の役に立つ人物になることもできるのだろうか?
一週間ぶりに自分の学校へ登校した僕。
友達は一人もいない生活へと戻った。
昼休みに購買でパンを買って食べる。
〝人はパンだけで生きるものではない〟という聖書の言葉が頭をよぎった。
聖ジョルジオ女学園でみんなと過ごした楽しい日々が背中を押す。
「ねぇ、一緒に食べない?」
小さな石ころが集まり始めた瞬間だった。