第26話 個人レッスン(サムエル記サウル編)

文字数 1,225文字

「モーセの死後も士師と呼ばれる強い指導者がイスラエルの民をひきいていたの。
 そのうち人々から王様が欲しいという声が高まってきて士師サムエルが神様の指示で王様を選ぶことになったの。
 選ばれたのはサウルという人。王に選ばれた証しとして、サムエルはサウルに油を注いだの。
 この油を注がれた人というのがメシアと呼ばれる人なの」
「メシアって救世主だよね?」
「そう、メシアっていうのはヘブライ語で、ギリシア語ではキリスト」
「じゃあ、イエス・キリストって油を注がれた人っていうことなんだ」
「サウルはイスラエルの最初の王様になったの。
 最初は謙虚だったけど、そのうち神様の命令を聞かないようになってしまったの。
 それで神様は新しい王として羊飼いのダビデを選んだの。
 ダビデもサウルと同じようにサムエルによって油を注がれたの」
「じゃあ王様交代?」
「それがすぐには変わらずに神様に選ばれたことを隠してサウルの元で竪琴を弾く仕事に就くの。
 ボランティア部の人形劇で『ダビデとゴリアテ』をやったわよね。あれはこのときの話なの」
「子供が巨人を倒したジャイアントキリングの話だね」
「それからダビデは常にペリシテとの戦いに勝利して人々の人気も高まっていったの。
 そのうちサウル王の娘ミカルと愛し合うようになり、結婚の約束をするの。
 サウル王の出した結婚を許すための条件はペリシテ人の(よう)の皮百人分をとってくること」
「陽の皮って?」
「えっと……その……、男の人の大事なところの皮で……」
「ひゃっ!」
 自分のが切られるところを想像して思わず股間に手を当てたが、今の自分にはそもそも付いていなかった。
「ユダヤ人は神様との契約の印として生後八日目に割礼をするの。
 逆にユダヤ人でない人は大人になっても皮がある状態で……」
「もういい! だいたい分かったからそれ以上はもういいよ」
「じゃあ続けるわね。
 ダビデは百人でいいところを二百人分持ってきたの。
 これで結婚を認めないわけにはいかないサウル王。
 でも、ダビデの人気を妬んだサウル王はダビデを殺そうとしたの。
 サウル王は息子のヨナタンにもダビデを殺す命令をしたの。
 ところがヨナタンはダビデの親友。
 ヨナタンはダビデこそが時期王にふさわしいと思っていたのでダビデを逃がすことにしたの」
「ああ、高橋さんが書いてたダビデ×ヨナタンのBL本の……」
「ダビデを殺そうとしたのはすべて失敗。
 逆にダビデはサウル王を殺す機会が何度もあったけど殺さないで和解を試みたの」
孟獲(もうかく)を逃がす孔明みたいなものかな?」
「?」
「三国志の話です。すみません、続けてください」
「最終的にサウル王はペリシテとの戦いに敗れて死んでしまうの」
「ヨナタンはどうなったの?」
「ヨナタンも戦いで死んでしまうの」
「そう……なんだ」
「こうしてダビデがイスラエルの王になったの」

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登場人物紹介

細石 巌央(さざれいし いわお)


男子校に通う高校二年生

キリスト教の知識はほとんどない

微妙に日本の昔話に詳しい


後藤 伊吹(ごとう いぶき)


ミッション系スクール【聖ジェルジオ女学園】に通う高校二年生

現在は、細石巌央と魂が入れ替わってる最中


園原 芳愛(そのはら よしあ)


後藤伊吹のルームメイト

困っている人をほっとけない性分

記憶喪失(という設定)の後藤伊吹(中の人は細石巌央)に聖書の内容を教えてくれる

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