第29話 ラスト・ミッション
文字数 1,686文字
今までは頼りになるルームメイトだと思っていたヨシアさん。イブキさんと身体が入れ替わってからは何かと面倒をみてくれて助かっていた。でも、慣れてきてもいまだに面倒を見てくれる。それどころか、以前にも増して構ってくれるようになった気がする。
「イブキさん起きて」
「どうしたの? 今日は日曜日だからもっとユックリしててもいいよね」
「何言ってるの? 日曜だから日曜礼拝に行かなくちゃ」
「あっ、そうだった!」
日曜日は日曜礼拝があり、みんなで聖堂に集まって礼拝をしないといけない。
「ふふ、イブキさんは私がいないとダメなんだから」
日曜礼拝が終わり、みんなが解散していくなか、自分の身体 に会った。
「あっ、ヨシアさん、僕これから用事があるんで一人で帰って」
ヨシアさんと自分の身体 が目を合わせた。
「またあの人? 大丈夫? 面倒なことになっていない? 私も付いて行きましょうか?」
「大丈夫だよ。そんなんじゃないから」
なんとかヨシアさんを帰らせて自分の身体 のところへ行く。
「ちょっと今後のことを話そうと思って」
「また僕の部屋へ行く?」
「そうね。ついてきて」
聖堂を出て二人並んで歩いていると後ろから足音がしてきた。
「あなた、イブキさんとどういう関係?」
寮に帰ったと思っていたヨシアさんが追いかけてきたのだ。
「二人のこれからについて相談があるんだ。悪いけど二人っきりにしてくれない?」
「イブキさんは私がいないとダメなんだから、私も行く」
ヨシアさんが困っている様子を見て自分の身体 はちょっと嬉しそうだった。
「悪いけど、元の後藤伊吹に戻るためだから我慢して。芳愛 さん」
「どうして私の名を知っているの?
それよりも『元の後藤伊吹』って!?
確かに、記憶を失ってから前と違うけど……」
「後藤伊吹の記憶が戻らなくてもいいの?」
「構わないわ。
むしろ今のイブキさんの方が何も知らなくて教え甲斐があるわ。
今のイブキさんのままでも私は好きよ」
女の子に初めて好きって言われた。男の僕にじゃないけど。
「それだと本来の後藤伊吹も困ると思うんだ」
自分の身体 が僕の右腕をとって自分に引き寄せた。
か、顔が近い……。
「ダメ! イブキさんは今のままでいるの」
ヨシアさんが僕の左腕を取って引っ張った。
女の子二人が僕の取り合いをする日が来るなんて。
もっとも一方は魂が女の子で身体は男なんだけど。
そういえば、このあいだサタンが『どうも元の状態に戻らせたくない奴が居るらしい』と言っていた。
これってヨシアさんのことでは?
「芳愛 さんはいつもそう。
困っている人を見ると必要以上に手助けしちゃう。
もう少し相手を信じたらいいのに」
「今日初めて話したあなたに何が分かるっていうの!
とにかくイブキさんは私がいないとダメなんだから一緒に寮に帰るのよ」
両腕を引っ張られ腕が引きちぎれそう。
「痛い!」
パッと手を放したのは自分の身体 。
そりゃ本来の自分の身体を傷つかせるわけにはいかない。
それを受けてヨシアさんはハッとした表情をし、うつむいた。
ソロモンの逸話だ。大岡裁きだ。
先に手を離さなかった自分に気がつき、相手の方がイブキさんのことを想っていると判断して落ち込んだのだろう。
ヨシアさんは握っていた腕を放し、トボトボと帰っていった。
「よかった……のかな?」
「大丈夫。芳愛 さんもボクのことを想ってのことだと思うから。
元に戻ったら戻ったで嬉しがると思うわ」
「サタンが言っていたんだよ。
そろそろ元に戻してやってもいいって。
でも、引き留めている人がいるからダメだって」
「芳愛 さんね」
「これで元に戻れるのかな?」
「さあ……。とりあえず部屋に行きましょ」
僕たちは、エジプトのファラオを振り切ったモーセたちのように約束された未来へと歩み始めた。
「イブキさん起きて」
「どうしたの? 今日は日曜日だからもっとユックリしててもいいよね」
「何言ってるの? 日曜だから日曜礼拝に行かなくちゃ」
「あっ、そうだった!」
日曜日は日曜礼拝があり、みんなで聖堂に集まって礼拝をしないといけない。
「ふふ、イブキさんは私がいないとダメなんだから」
日曜礼拝が終わり、みんなが解散していくなか、
「あっ、ヨシアさん、僕これから用事があるんで一人で帰って」
ヨシアさんと
「またあの人? 大丈夫? 面倒なことになっていない? 私も付いて行きましょうか?」
「大丈夫だよ。そんなんじゃないから」
なんとかヨシアさんを帰らせて
「ちょっと今後のことを話そうと思って」
「また僕の部屋へ行く?」
「そうね。ついてきて」
聖堂を出て二人並んで歩いていると後ろから足音がしてきた。
「あなた、イブキさんとどういう関係?」
寮に帰ったと思っていたヨシアさんが追いかけてきたのだ。
「二人のこれからについて相談があるんだ。悪いけど二人っきりにしてくれない?」
「イブキさんは私がいないとダメなんだから、私も行く」
ヨシアさんが困っている様子を見て
「悪いけど、元の後藤伊吹に戻るためだから我慢して。
「どうして私の名を知っているの?
それよりも『元の後藤伊吹』って!?
確かに、記憶を失ってから前と違うけど……」
「後藤伊吹の記憶が戻らなくてもいいの?」
「構わないわ。
むしろ今のイブキさんの方が何も知らなくて教え甲斐があるわ。
今のイブキさんのままでも私は好きよ」
女の子に初めて好きって言われた。男の僕にじゃないけど。
「それだと本来の後藤伊吹も困ると思うんだ」
か、顔が近い……。
「ダメ! イブキさんは今のままでいるの」
ヨシアさんが僕の左腕を取って引っ張った。
女の子二人が僕の取り合いをする日が来るなんて。
もっとも一方は魂が女の子で身体は男なんだけど。
そういえば、このあいだサタンが『どうも元の状態に戻らせたくない奴が居るらしい』と言っていた。
これってヨシアさんのことでは?
「
困っている人を見ると必要以上に手助けしちゃう。
もう少し相手を信じたらいいのに」
「今日初めて話したあなたに何が分かるっていうの!
とにかくイブキさんは私がいないとダメなんだから一緒に寮に帰るのよ」
両腕を引っ張られ腕が引きちぎれそう。
「痛い!」
パッと手を放したのは
そりゃ本来の自分の身体を傷つかせるわけにはいかない。
それを受けてヨシアさんはハッとした表情をし、うつむいた。
ソロモンの逸話だ。大岡裁きだ。
先に手を離さなかった自分に気がつき、相手の方がイブキさんのことを想っていると判断して落ち込んだのだろう。
ヨシアさんは握っていた腕を放し、トボトボと帰っていった。
「よかった……のかな?」
「大丈夫。
元に戻ったら戻ったで嬉しがると思うわ」
「サタンが言っていたんだよ。
そろそろ元に戻してやってもいいって。
でも、引き留めている人がいるからダメだって」
「
「これで元に戻れるのかな?」
「さあ……。とりあえず部屋に行きましょ」
僕たちは、エジプトのファラオを振り切ったモーセたちのように約束された未来へと歩み始めた。