第2話 トイレ・ミッション
文字数 2,942文字
昼休みが終わりに近づく頃にボクは教室へ入った。
見渡すとそこは女の子ばかり。男子校の教室とは正反対。
「こっち、こっち」
目が合ったヨシアさんが後藤 伊吹 さんの席を指さす。
「保健室に運ぶの大変だったんだから。でも、ちゃんと運んだ私は偉いね」
セミロングヘアの子が話しかけてきた。背が高く、ヨシアさんを一回り大きくしたような感じだ。
「何かちょっと雰囲気が変わったみたい?」
ポニーテールの眼鏡っ娘が右手で眼鏡のフレームを掴みクイッと上げ、ボクの顔をじろじろ見る。
「聞いたよ。記憶喪失なんだって? 本当にあるんだそういうの」
ツインテールの子が右側のテールをムチにして、ペシペシとボクをしばきながら言った。
「えっと、その……」
「怯えているじゃない。一度に話しかけるから」
慣れない女性に囲まれてアタフタしていたので、最初に会ったヨシアさんだと安心する。
ひょっとして刷り込みってやつだろうか。
「えーっと、ごめんなさい。みなさんの顔覚えてなくて」
「自己紹介をした方がいいかもね」
「私は佐藤 夜羽 」
セミロングの子だ。
「私は鈴木 依葉根 」
ポニーテールの子。
「私は高橋 余波音 」
ツインテールの子。
「あれ? みんな【よはね】?」
「クリスチャンの家だと聖書にちなんだ名前を付けたがるから、どうしても被っちゃうのよね。
三人は三ヨハネって呼ばれているわ」
「「「ヨハネでーす!!!」」」
「ちなみに鈴木さんは福井 出身だから、【福井のヨハネ】って呼ばれているわ」
ヨシアさんが真ん中のポニーテールの子を指して言った。
「正確には鯖江ですけど」
ポニーテールの眼鏡っ娘が眼鏡をクイッと上げた。
「それから高橋さんは愛知県の甚目寺 出身だから【甚目寺のヨハネ】って呼ばれているわ」
右端のツインテールの子が手を振る。
どうでもいいけど地名の粒度がバラバラだ。
もう一人はどこ出身なんだろう。
「佐藤さんは、【ステマのヨハネ】って呼ばれているわ」
地名関係なかった。
「学校には内緒だぞ」
佐藤さんは自分の唇に立てた人差し指を押さえつけた。
いったい何をステルスマーケティングしているんだろう。
後藤伊吹さんのグループは自分を含めてこの五人かな。
友達が一人もいないボクにいきなり四人も目の前にいるというのが異様な光景だ。
しかし、【ステマのヨハネ】、【福井のヨハネ】、【甚目寺のヨハネ】って二つ名を本当に使用しているんだろうか? はなはだ疑問ではある。
クラスには他にもたくさん女子がいるが、とても一度には名前を覚えられそうにない。
まぁ、徐々に覚えていくだろうけど。
そうこうするうちに五時限目の始まりを告げる鐘が鳴った。
「あれ? キンコンカンコンじゃない」
「聖ジェルジオ女学園のチャイムは『アヴェ・マリア』なのよ」
「アーベーマリーアーの?」
「そう。うちの学校のチャイムのことは忘れて、ウェストミンスターのチャイムが分かるのね」
「ウェストミンスター? キンコンカンコンってそういう名前だったの?」
「イギリスのウェストミンスター宮殿の時計塔のメロディね。ビッグ・ベンって言ったほうが分かるかしら」
「あのビッグ・ベン!? へー知らなかった」
「本当にイブキさんは色々なことを忘れているのね」
ヨシアさんと話しているうちに先生がやってきて授業が始まった。
授業が始まると大変なことに気がついた。
オシッコがしたくなってきたのだ。
さっきまでは色々なことがあってすっかり尿意に気がつかなかった。
やばい! 授業に集中できない。
「どうしたの後藤さん? 調子悪いなら保健室に行く?」
先生が声をかけてきてくれた。
しかし、トイレに行きたいっていうのも恥ずかしいので「大丈夫です」と答えてしまった。
永遠とも思えるような五時限目の授業が終わり、いざトイレへ。
席を立ったらヨシアさんも「私も」と言って一緒にトイレに行くことになった。
トイレの場所が分からなかったので助かる。
トイレのドアを抜けるとそこには小用のトイレはなく、個室だけだった。
考えてみれば当然だ。ここは女子校なのだから。
個室の中は洋式トイレだった。
蓋を開け、便座を上げて便器の前に立つ。
ズボンではないので社会の窓がない。
スカートを捲り上げ股間に手をやると……無い!
そうか、今は男の身体ではなく、女の子の身体だった。
女の子は座ってオシッコをするんだっけ。
スカートを降ろすにはどうすれば……。
左腰の辺りにファスナーがあった。これを降ろせばいいんだな。
腰の部分はホックて止まっていたので外す。
これでスカートを降ろそうとするが元々膝下まである長いスカートなので裾が床につきそうになてしまう。
裾の方を持つと腰の部分がすとんと落ちそうになる。
めんどくさいなスカート!
そのときフッと閃いた。
さっき、股間を触ったときスカートの下から手を入れたんだっけ。ということは、スカートを穿いたままパンツを降ろせるということでは!
スカートを穿き直し裾の方を持って捲り上げる。
おぉ! うまくいきそうだ。
そのままパンツを降ろしてスカートを便座につけないように座る。
なるほど! そういう仕組みか! 便利だなスカート!
オシッコがどういうふうに出るかは知らなかったけど、漏れそうだったのでそのまま勢いに任せて解放した。
ジョボジョボと水面に当たる音がしていたのでたぶん大丈夫だろう。
すっかり出し尽くして落ち着いた状態になる。
今、自分=後藤伊吹さんの身体はパンツを脱いだ状態で座っているんだ。
しかも、この壁一枚隔てた隣もパンツを抜いだ女の子がお尻丸出しで座っている……。
いけない、いけない。そんなことを考えては。
オシッコをし終わったので出よう。
膀胱はすっきりした状態になったが、股間にオシッコが残っている気がする。
トイレットペーパーで拭き取った。
ひょっとして、女の子はオシッコするたびに、拭かないといけないのか?
パンツを穿いて、スカートを整え、水を流して個室を出た。
先に済ませていたヨシアさんと一緒に手を洗い、トイレから出た。
トイレから二人で教室へ戻る。
思い返してみれば、友達がいないボクは連れションなんてしたことなかったな。
一緒にオシッコをした仲というと、綺麗なところだけでなく汚い部分もさらけ出した深い仲になったような気がしてきた。
あれ? 必死だったから気がつかなかったけど、さっきボク、トイレットペーパー越しとはいえ、女の子の大切な部分を触ってなかったっけ。
ああ! いいんだろうか!?
後藤さんに申し訳ないような気がする。
でも、仕方ないよね。女の子にとってこれは普通の日常なんだから。
毎回、オシッコのたびにこの罪の意識に囚われるのだろうか。普通に生きているだけで罪作りなボク。
この調子で一週間やっていけるのだろうか?
見渡すとそこは女の子ばかり。男子校の教室とは正反対。
「こっち、こっち」
目が合ったヨシアさんが
「保健室に運ぶの大変だったんだから。でも、ちゃんと運んだ私は偉いね」
セミロングヘアの子が話しかけてきた。背が高く、ヨシアさんを一回り大きくしたような感じだ。
「何かちょっと雰囲気が変わったみたい?」
ポニーテールの眼鏡っ娘が右手で眼鏡のフレームを掴みクイッと上げ、ボクの顔をじろじろ見る。
「聞いたよ。記憶喪失なんだって? 本当にあるんだそういうの」
ツインテールの子が右側のテールをムチにして、ペシペシとボクをしばきながら言った。
「えっと、その……」
「怯えているじゃない。一度に話しかけるから」
慣れない女性に囲まれてアタフタしていたので、最初に会ったヨシアさんだと安心する。
ひょっとして刷り込みってやつだろうか。
「えーっと、ごめんなさい。みなさんの顔覚えてなくて」
「自己紹介をした方がいいかもね」
「私は
セミロングの子だ。
「私は
ポニーテールの子。
「私は
ツインテールの子。
「あれ? みんな【よはね】?」
「クリスチャンの家だと聖書にちなんだ名前を付けたがるから、どうしても被っちゃうのよね。
三人は三ヨハネって呼ばれているわ」
「「「ヨハネでーす!!!」」」
「ちなみに鈴木さんは
ヨシアさんが真ん中のポニーテールの子を指して言った。
「正確には鯖江ですけど」
ポニーテールの眼鏡っ娘が眼鏡をクイッと上げた。
「それから高橋さんは愛知県の
右端のツインテールの子が手を振る。
どうでもいいけど地名の粒度がバラバラだ。
もう一人はどこ出身なんだろう。
「佐藤さんは、【ステマのヨハネ】って呼ばれているわ」
地名関係なかった。
「学校には内緒だぞ」
佐藤さんは自分の唇に立てた人差し指を押さえつけた。
いったい何をステルスマーケティングしているんだろう。
後藤伊吹さんのグループは自分を含めてこの五人かな。
友達が一人もいないボクにいきなり四人も目の前にいるというのが異様な光景だ。
しかし、【ステマのヨハネ】、【福井のヨハネ】、【甚目寺のヨハネ】って二つ名を本当に使用しているんだろうか? はなはだ疑問ではある。
クラスには他にもたくさん女子がいるが、とても一度には名前を覚えられそうにない。
まぁ、徐々に覚えていくだろうけど。
そうこうするうちに五時限目の始まりを告げる鐘が鳴った。
「あれ? キンコンカンコンじゃない」
「聖ジェルジオ女学園のチャイムは『アヴェ・マリア』なのよ」
「アーベーマリーアーの?」
「そう。うちの学校のチャイムのことは忘れて、ウェストミンスターのチャイムが分かるのね」
「ウェストミンスター? キンコンカンコンってそういう名前だったの?」
「イギリスのウェストミンスター宮殿の時計塔のメロディね。ビッグ・ベンって言ったほうが分かるかしら」
「あのビッグ・ベン!? へー知らなかった」
「本当にイブキさんは色々なことを忘れているのね」
ヨシアさんと話しているうちに先生がやってきて授業が始まった。
授業が始まると大変なことに気がついた。
オシッコがしたくなってきたのだ。
さっきまでは色々なことがあってすっかり尿意に気がつかなかった。
やばい! 授業に集中できない。
「どうしたの後藤さん? 調子悪いなら保健室に行く?」
先生が声をかけてきてくれた。
しかし、トイレに行きたいっていうのも恥ずかしいので「大丈夫です」と答えてしまった。
永遠とも思えるような五時限目の授業が終わり、いざトイレへ。
席を立ったらヨシアさんも「私も」と言って一緒にトイレに行くことになった。
トイレの場所が分からなかったので助かる。
トイレのドアを抜けるとそこには小用のトイレはなく、個室だけだった。
考えてみれば当然だ。ここは女子校なのだから。
個室の中は洋式トイレだった。
蓋を開け、便座を上げて便器の前に立つ。
ズボンではないので社会の窓がない。
スカートを捲り上げ股間に手をやると……無い!
そうか、今は男の身体ではなく、女の子の身体だった。
女の子は座ってオシッコをするんだっけ。
スカートを降ろすにはどうすれば……。
左腰の辺りにファスナーがあった。これを降ろせばいいんだな。
腰の部分はホックて止まっていたので外す。
これでスカートを降ろそうとするが元々膝下まである長いスカートなので裾が床につきそうになてしまう。
裾の方を持つと腰の部分がすとんと落ちそうになる。
めんどくさいなスカート!
そのときフッと閃いた。
さっき、股間を触ったときスカートの下から手を入れたんだっけ。ということは、スカートを穿いたままパンツを降ろせるということでは!
スカートを穿き直し裾の方を持って捲り上げる。
おぉ! うまくいきそうだ。
そのままパンツを降ろしてスカートを便座につけないように座る。
なるほど! そういう仕組みか! 便利だなスカート!
オシッコがどういうふうに出るかは知らなかったけど、漏れそうだったのでそのまま勢いに任せて解放した。
ジョボジョボと水面に当たる音がしていたのでたぶん大丈夫だろう。
すっかり出し尽くして落ち着いた状態になる。
今、自分=後藤伊吹さんの身体はパンツを脱いだ状態で座っているんだ。
しかも、この壁一枚隔てた隣もパンツを抜いだ女の子がお尻丸出しで座っている……。
いけない、いけない。そんなことを考えては。
オシッコをし終わったので出よう。
膀胱はすっきりした状態になったが、股間にオシッコが残っている気がする。
トイレットペーパーで拭き取った。
ひょっとして、女の子はオシッコするたびに、拭かないといけないのか?
パンツを穿いて、スカートを整え、水を流して個室を出た。
先に済ませていたヨシアさんと一緒に手を洗い、トイレから出た。
トイレから二人で教室へ戻る。
思い返してみれば、友達がいないボクは連れションなんてしたことなかったな。
一緒にオシッコをした仲というと、綺麗なところだけでなく汚い部分もさらけ出した深い仲になったような気がしてきた。
あれ? 必死だったから気がつかなかったけど、さっきボク、トイレットペーパー越しとはいえ、女の子の大切な部分を触ってなかったっけ。
ああ! いいんだろうか!?
後藤さんに申し訳ないような気がする。
でも、仕方ないよね。女の子にとってこれは普通の日常なんだから。
毎回、オシッコのたびにこの罪の意識に囚われるのだろうか。普通に生きているだけで罪作りなボク。
この調子で一週間やっていけるのだろうか?